第1話(2/4) カタ・カタ・カタカナ 音だけ響く
1週間前にオープンしたばかりだというタピオカ店には、そこそこの行列ができていた。
とはいえ、地方都市の行列はたかが知れている。
10分後、2人の手元にはお目当てのミルクティーがあった。
「やっぱり都会の味は違うね」
うんうん頷くさやかを見て、
「そう? 大して変わらないと思うけど」
「違うよー、全然違う。なんて言うか、このストローから吸い込まれる空気が違うね」
「いや、空気は間違いなく、ここの空気だから」
「もう、香澄は強情だなぁ……」
さやかはジト目を向ける。
「何で私が悪いみたいになってんの? ……まぁ、都会と同じ物が手軽に味わえるのはいいことだけどね」
「でしょっ? お母さんが高校生のころは、東京で流行ってるのがこの街にやってくるのは、とっくに流行りが廃れたころだって言ってたし」
「それを言うなら、タピオカももう流行りのピークは過ぎたんじゃないの?」
「うっ……。こ、細かいことは気にしなーい」
明るく声を上げるさやかに対して、香澄は「まぁ、この子がお調子者なのはいつものことだし」と、静かにストローをすすった。
逆方向の電車に乗る香澄と、改札で別れを告げ、さやかはプラットホームに立つ。
買ったばかりのイヤホンを耳に突っ込んでスマホと接続すると、いつも使っている音楽配信アプリのアイコンをタップ。
サブスク契約はしてないから、曲順は選べないけど、ヒットチャートの曲が耳に流れてくる。
「ん、前使ってたのと音質は変わらない、かな?」
耳をそっと押さえて、さやかは独り言ちる。
1曲目が終わろうとしている時、目の前に止まった電車の扉が開いた。
乗り込むと、逆側のドアの前に立つ。
どうせ乗るのは2駅分だけ。
わざわざ座席を確保するよりも、降りる時に楽な方がいい。
ドアに体を預けると、今度は女性シンガーソングライターのラブソングが優しく耳元で流れる。
好きだった人との思い出を切ない旋律に乗せて届けてくれる。
なぜだかは唄われていないけれど、今は会えない人へ向けられた思い。
会えないからこそ、思いが募ることを切々と訴えかけてくる。
とっても素敵だな、とさやかは思う。
けれど、
「きっとこんな恋は、私には縁のない話なんだろうな」
ガタゴトと静かに揺れ始めた電車の中、そっとつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます