S案件は儲かるにゃ

 なな子の報告にあったS案件だが、フェイザー製薬の件で退職した2人を、エリクサーで子供を治してあげた武村に別会社を作らせてそこで働いてもらっている。中林も鹿野も製薬会社で営業ながら薬剤師の資格も持っており小さな薬局を開いたが、裏ルートではエリクサーでは無いが特殊なポーションを販売しており、定期的にオークションサイトへ出品をして利益をあげさせていた。薬局の名前は神猫薬局でロゴも金色に光っている猫をモチーフにしている。その中でもS案件はかなりの金持ちで通常のポーションでは治らないような病や怪我を負っており、どうにかして治して味方につけると良いような場合にS案件として区別していた。

 トップシークレットとして数カ国のトップにはこの薬局から日本政府を経由してハイポーションが配られていて、それらの配布先を決定したのは日本政府であり日本の世界に対する発言力は少し高くなってきている。本来はエリクサー関連はあれ以上は出さない予定であったが、政府関係者や他国の情報機関等がちょっかいを出してきそうになったので、いっそのこと日本政府に丸投げしたが楽だと思い話をつけた。

 神託という形で月に3本分だけの量ができるクワズイモの苗を政府に渡して責任もって育てさせている。ハイポーションなので殆どは治るが治らないものもある事などを説明して、3本のうちの2本を日本政府が自由に使って良いこと、3ヶ月に1回はオークションで販売することを約束させてそれに反した場合には苗は枯れてしまうと脅しも掛けている。

 オークションの代金はすべて将来の動物の楽園を作る資金の為にキープしてもらっている。もちろん日本政府が使う分もオークション価格の半額で販売している。


 この薬局に対しては当然色々な圧力や脅しを行ってくる人間も多かったが、そういうものには問答無用で呪いがかかるようにしている。直接の実行犯だけでなく、それを指示したものにも掛かるように追跡の魔法まで掛けてあるので、悪巧みをする人間は軒並み呪いにかかってしまった。呪いは直接的な被害が無くてちょっかいを出した人には語尾にニャンニャンを付けてしか話せない、駄目神アルメエル直伝の嫌がらせ呪いをかけている。


 とある国のトップがいきなり語尾にニャンニャンを付けて話し始めて最初はギャグかと思った国民もいつまでたってもニャンニャンと言い続けるトップに愛想をつかしてトップはすぐに交代してしまった。権力者達も数多くの呪いを掛けられた者を見て最近では脅すのでは無く、ちゃんとしたルートでお願いをしてくるようになった。


 ちゃんとしたルート以外にも公平なシステムとして猫を大事にしている神社や教会やお寺等の宗教団体にお願いを書いた用紙を奉納してそれらを定期的に集めて神猫薬局の横にある奉納場所に置いておくと毎月ランダムにエリクサーまたはハイポーションが枕元に置かれる事を猫神神社が公表している。猫神様は神社だけでなくあらゆる宗教を超えて動物を保護する優しさを持った集まりを助けるということを御神託としていた。

 当然ながら猫の保護もせずにいくら寄付したら優先して当たる等の詐欺まがいの神社もあったが、それらを企てた人や宗教団体は軒並みニャンニャンの呪いが掛かってしまい、ニャンニャンの呪いを掛けられた人はそういう行為をした人だという認識が世界へ広まっていった。


 ニャンニャンの呪いを掛けられた人も本心から改心して動物保護に力をいれたら1ヶ月後には呪いが解けたというニュースもあったが、本心から改心する人は少ないようで2割程度しか解けた人はいないようだ。


『S案件だと聞いたけどどうしたにゃ?』


「猫神様、とあるIT企業の社長がガンらしく全財産を慈善事業に寄付して死にたいと言っているらしく、社員や取引先からの信頼も大きな社長らしいです」


『全部寄付しても大丈夫なのかにゃ?』


「仕事一筋で家族も作っていなかったようです」


『もったいないにゃ…… 一度会ってくるにゃ』


 事務所の場所は東京だそうで、すぐに転移で東京まで飛びその社長のいる会社へ行ってみた。そこには鬼の形相でキーボードを叩いている40代前半の男性がいた。少し痩せていて血色もあまり良くないようだ。誰も入ってこないようなのでいつものように光を纏いながら姿を表す。


「うゎ!」


 光を放つ猫を見て声を上げる。


『そのほう、末期がんで余命無いのかにゃ?』


「うぉ! 猫が喋った? いや頭の中に声が聞こえる……」


『そうだにゃ 直接頭の中に声を届けてるにゃ』


「うわぁ キモ!」


『キモ言うにゃ 聞いてるにゃ 余命幾ばくもないのかにゃ?』


「俺か、そうだもうすぐ死ぬ運命なんだ」


『後悔とかは無いのかにゃ?』


「まぁやりたいことはまだ沢山あったけどこればかりは仕方がない。天命だと思うしかないな」


いさぎよすぎだにゃ』


「まぁ天涯孤独になったし、財産は全部寄付して死ねば少しは次の人生は良くなるんじゃないかな?」


『助かるなら助かりたいかにゃ?』


「もしも治る薬があれば、嬉しいがその薬が誰の病気でも治せる薬なら俺ではなくて、同じ病院に入院している子供達を治して欲しい」


 こんな考えをもつような人もいるんだな……

 こいつを死なすのは惜しい……


『つべこべ言わずにこれを飲むにゃ!』


 ハイポーションを開けて口に流し込むと、体が光ってやがてその光が収束していった。


『これで治ったにゃ、薬代は今後できるだけ動物保護に尽力するにゃ、さらに病気の子供達を経済的に救えるしくみを作っていくにゃ』


「えぇっ? 治ったの?」


『完治しているにゃ』


「俺でなく、もっと未来のある子どもを助けて欲しかった……」


『なんてやつだにゃ! イケメンかにゃ!』


「でももう治してしまったんだし、感謝してるよ、まだまだやりたいことが残っているからな」


『とりあえず明後日福岡の猫神神社にいくにゃ、そこにいる巫女のまりのに神託を与えておくから必ず行くにゃ! 病院のお友達も良くなるかもにゃ…… じゃさらばだにゃ……』


 さっさと家に戻ってまりの達に話をした。


『明後日まりのを訪ねて痩せた男が訪ねてくるにゃ、阿川っていうやつだにゃ。きたらこのお守りを売りつけるにゃ、値段は1個300万円だにゃ』


「高くないですか?」


『金持ちだから大丈夫だにゃ 使用開始期限は3日以内で治したい人に30分握らせるにゃ、あとはその人の近くに置いておけばいいにゃ』


「広島のお守りと一緒ですね。同じように説明いたします」

「わかったの、ちゃんと説明するの」


『お願いするにゃ』


「ただいま!」


『お帰りだにゃ』


「えっ? トラちゃん? こっちがお帰りだよ! 元気だった? 怪我してない?」


『落ち着くにゃ、怪我はすぐに治せるし元気に決まってるにゃ、それよりデートの報告するにゃ! ニャンニャン!』


「えっ? まりのちゃん喋ったのね?」


「ごめんなさいなの」


『お化粧倍の時間かけたのも聞いたにゃ』


「そんなところまで……」


『どうだったにゃ?』


「普通に映画見てご飯見て帰って来ただけだよ」


『にゃああああんだと? あいつはヘタレかにゃ! 次のデートは帰宅禁止だにゃ!』


「トラちゃん何言ってるのおおおお」


「来夢お姉ちゃん、キスくらいしたの?」


「まりのちゃん何言ってるのおおおお」


『この調子だと駄目だにゃ ヘタレ同士だにゃ……』


「トラちゃんそんなにいじめちゃかわいそうですよ! なるようになりますから」


『そうだにゃ、ゆっくり育むにゃ…… 来夢が40になるまでにはなんとかするんだにゃ……」


「そうだね……」

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