商業ギルドで話をするにゃ

 ようやく商業ギルドへ到着したが、思った以上のメンバー数になってしまった。さすがに王子一人で動ける訳はなく、王子が最少人数でと言ったが護衛2人は常にそばにいて、残りは商業ギルドの周辺を警戒している。リリアーヌは受付へ向かうと王子の来訪に口をポカンとあけ放心している受付嬢へ声をかけた。


「ギルド長に約束をしていたリリアーヌと申しますが、ギルド長はおられますか?」


「は、はい! すぐに連れて参ります」


 そういって席を立とうとしたら、2階の階段から目付きの鋭い40代くらいの男性が下りてきた。


「リリアーヌ様、お待ちしておりました。どうぞ2階の応接室までお願い致します」


「ダニエル殿、ロマーノ皇太子も同席いたしますがよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんでございます」


「あとこの子もよろしいでしょうか?」


 抱っこしている俺の入室許可も取らないといけないので聞いてみると


「問題ありません、ご一緒にどうぞ」


 部屋に通されると商業ギルドのギルド長専用の応接室らしくソファタイプの応接セットと、10人ほどの会議ができそうな会議用のテーブルが置いてあり、調度品も高級品がそろえてあった。今回は護衛騎士は立ったままでの対応をするのでソファに座った。


「ロマーノ皇太子様初めまして、王都ギルドのギルド長代理のダニエルと申します。ギルド長は現在ギルド会議で出ておりますので私が責任持って対応いたします。リリアーヌ様、今回はギルドに所属している商会や工房を紹介して欲しいというお話で良かったでしょうか?」


「ええ、この部屋は防音はどのようになっておりますか?」


「ここは遮音レベル5の魔法がかけられており、防音盗聴類は一切できない最高レベルの部屋になっています」


「そうですか、まずは話をする前に魔法契約書を交わして頂きたいのですがよろしいですか? これはそこの護衛の二人にも交わして頂きます」


「魔法契約ですか? どのような内容で?」


「簡単です、今日の話の内容で私が極秘だと言った部分を漏らしたらその時点で心臓が止まるだけです」


 あっみんなの顔が引きつった…… 

 実際には死なないけど1年ほど何かしゃべろうとすると笑いが止まらなくなる呪いがかかるだけなんだけどね……


「大丈夫でしょうか?」


「わ、私は大丈夫です…… ほとんどの商談では内容は他人に漏らす事はありませんのでいつも通りですよ」


「ハッ、我々も問題ありません。王族の秘密を漏らす事は騎士として一番恥じる行為です」


「じゃ3人ともこれに手を置いて魔力を流してください」


 3人がそれぞれの紙に手を置くと書かれている魔法陣が一瞬ピカっと光ってだんだん光が収束していった。


「はい、これで契約は終わりました。今から言うことは絶対の秘密です。まずは大賢者タイガ様ですが生きております」


「エエッ?」


「タイガ様は元々異世界より我々が及びした方で、魔王討伐で生きてお戻りになりました。その後ご自分がいた世界へ戻るために亡くなった事になっておりましたが、タイガ様がまたこちらの世界へ戻ってこられるようになりましたので、向こうの世界にあるもののうちにこちらでも使えそうな物や制度を今後は積極的に取り入れていく予定です。そのため商業ギルドにその技術の取りまとめをお願いしたいと思います。詳しいことはタイガ様よりお話していただきます」


 キョロキョロと周りを見回すダニエルだが、当然リリアーヌとロマーノ王子に護衛2人しかいない。


「タイガ様はいつ来られるのでしょうか?」


「ここにおられますよ!」


「エエッ? ここには4人以外はおられませんが……」


「いるじゃないですか?」


 キョロキョロしていたダニエルと目が会った。


「もしかしてこの動物ですか?」


「ええ、向こうの世界で猫という動物だそうです」


『やっとしゃべれるにゃ、最後ににゃと付くのは仕方ないからあきらめて聞いてくれにゃ』


「ウヮ! 頭になにか声が流れてきたぞ」


『すまないにゃ、今は念話が一番話しやすいにゃ。だから慣れてくれにゃ』


「は、はい……」


『さっきリリアーヌが言ったように向こうの世界にある便利な道具を作ってもらいたいにゃ、ただ物によってレベルを作って公開したいにゃ』


「レベルと申しますと?」


『簡単に言うとにゃ、この洗濯ばさみやクリップのような簡単なものはできるだけ安く普及させたいにゃ。使用料はできるだけ抑えて誰もが作れるようにしたいにゃ。次にこのマッチというものは簡単に火をつけられるにゃ、これは適当に作ると危ないのでしっかりした工房にお願いしたいにゃ。こんな感じで物によって使い分けたいにゃ』


「なるほどですね……」


『条件としてはスラムの人たちをうまく利用してくれる商会や工房に優先的に教えるにゃ。5年間はその条件で合致するするところだけに製造の許可をお願いするにゃ、その後は使用料を払ってくれれば自由に販売していいにゃ。今後はドレスなどのデザインも販売するにゃ』


「デザインですか?」


『そうだにゃ、許可を受けた工房以外はそのデザインを使ってはいけないにゃ、向こうの世界で意匠登録という制度だにゃ、これに関しては使用料を払えばどこの工房でも使用していいにゃ。でもこれもスラム撲滅の貢献度で使用料を変えるにゃ』


「なるほど、思ったよりも大変な事業になりそうです」


『まずはいろいろな商会や工房に声をかけておいて欲しいにゃ。しばらくしたら特許や意匠登録といった制度をトリアム王より宣言があるにゃ、そうすれば小さい工房が発明をしても大きな工房にアイデアを取られてしまう心配もなくなるにゃ。契約書のサンプルを置いていくにゃこれは専用の魔法ペンで契約内容と契約期間を書くと効力が発揮するにゃ』


「これはすごい…… この契約はなんですかああああ?」


『洗濯ばさみは安く普及したいからにゃ使用料は銀貨1枚でいいにゃ、その代わりに製造する人にスラムの人を使う条件だにゃ、取り分はギルド銀貨1枚で俺は0でいいにゃ』


「タイガ様は全く儲からないじゃないですか?」


『大丈夫だにゃ、こっちでは作れないものを販売するからそれで儲かるにゃ』


「何を販売するのですか?」


『ニャニャニャーン! 魔法瓶だにゃ』


「どんな魔法がかかっているんですか?」


 あっ!魔法瓶って名前だとこちらでは当然魔法がかかっていると思うよな? 名前を変えなきゃな……


『名前を変えるにゃ、保温瓶だにゃ、魔法はかかってないけど温度があまり変わらないにゃ、朝熱いもを入れても夕方まで温かいにゃ、魔力で温めたり火をつかったりしなくていいにゃ』


「なるほど、これは良いですね…… 魔力の節約にもなるし、魔獣のいるような場所で火を使わなくても良いならとても便利が良い」


『これのいいところは冷たいものもそのまま長い時間保温できるにゃ』


「ではタイガ様が商会を立ち上げてこれらを販売するのでしょうか?」


『だれか違う人を代表で作るか、どこか良い商会にお願いするにゃ』


「わかりました。それでは王様の発表があるまでに商会や工房の準備をしておきましょう。次回はそれらの顔合わせでよいでしょうか?」


『顔合わせはいらないにゃ、リストだけ作ってリリアーヌに渡してほしいにゃ。それらは自分で

 見て回って良いところを見つけるにゃ』


「では、そのようにいたしましょう。来週半ばまでにはリストを王城へお届け致します」


 来週半ばなら向こうに帰るまで3日くらいはありそうだし、向こうに一度帰っている間に法律を作ってもらえば次回戻ってきたら話をすすめられそうだ。


『それでいいにゃ、よろしく頼むにゃ』


「ありがとうございました。有意義な時間を過ごすことができました」


『ロマーノ様は大丈夫かにゃ?』


「問題ありません。早く戻って先ほどの話を進めないといけませんね」


「では、これで話し合いは終わらせたいと思います。くれぐれも今日の話のタイガ様の件はご内密に…… 次回訪問日にお亡くなりになってたなんて事のないようにお願いしますね」


「リリアーヌ様、決して漏らす事ないように話を進めて参ります」


『リリアーヌ脅しすぎだにゃ……』


 商業ギルドでの話も終わり全員で王城へ戻り、ロマーノ王子に向こうの世界の法律をレクチャーしていたが、寂しがり屋のクリス王女がやってきて寂しそうにしていたので、クリスの膝の上に移動してレクチャーしていたが、クリスの背中さすりが余りにも気持ち良すぎて半分くらい話したところで眠ってしまった……



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