商業ギルドに行くはずだったにゃ
昨日の晩餐はとても好評に終わり、あまり香辛料など無かったこの世界の住人にも十分美味しさは伝わったようだった。結局ケーキは厨房以外では殆どを女性に食べられてしまったようで、男性陣からは不満の声が上がったようなので、今日のおやつとして多めに煎餅を準備して男性用と女性用と別に置いてきたがどうなることやら……
『それじゃリリアーヌ行くにゃ!』
俺を抱っこしてリリアーヌと護衛の為に少し離れたところから平服の2人の騎士が付いてくる。今日は商業ギルドでいくつかの工房や商会を紹介してもらう目的で街中を歩いているが、まだ約束の時間もあるので屋台等を覗きつつ散策していた。
「お前らさっさとあっちに行け! お前らがいると商売の邪魔なんだよ!」
大きな声に振り向くと、ガタイの良いおっさんがまだ小学生低学年くらいの女の子を蹴ろうとしていた。そのままでは間に合わないと思いリリアーヌの胸元からおっさんの足元に転移しておっさんの右足と左足を
リリアーヌが駆け寄って女の子に声を掛けた。
「大丈夫?」
「うん! 大丈夫」
無事を確認したら氷のような声で転がっている男性に声をかける。
「こんな小さな子どもを足蹴にするとは、情けないと思わないのですか? この子が何かしたのですか?返答次第ではタダでは済ませませんよ?」
「こいつらがいると臭うし、残飯を漁ったり邪魔なんだよ!」
「だからと言って蹴って良いと?」
「……そうでもしないと退かないだろ」
「だからと言って子供を蹴って良い理由にはなりませんけど? この子が何かを盗んだとかならまだしも、いるだけで蹴ってよいのであれば貴方を蹴っても良いと?」
「そんな無茶苦茶な事を……」
言い合いをしていると警備隊が数人やってきた。
「この騒ぎはなんだ!」
「またスラムの奴らが来たんで追い払おうとしたら、この女が難癖付けて来たんだよ」
「また、こいつらか…… おう姉ちゃんコイツラはゴミなんだよ、追い払わないと虫みたいに湧いてきて俺らの仕事の邪魔なんだ。ごちゃごちゃ文句なんぞ言うな」
「ゴミですと?」
「そうだぜ、こいつらの中には盗みをするやつもいるし、人を騙すやつもいる碌なやつはいなんだよ。だからこいつらを見つけたら追い払うようにしてるんだ、文句あるなら王様にでも文句言うんだな!」
「それが、国民を守る警備隊なんですね」
「国民は守るがゴミは守る必要はないだろ? あんたもこんな子供にかまってないでさっさとどっか行けよ」
「ハァー わかりました。貴方のおっしゃるとおりにトリアム様に進言しておきましょう。ハインツさん今の件をすぐに王城へ伝えていただけますか? 警備隊の仕事は全ての国民を守る為にあるものでは無いそうなので、すぐに全ての国民を守れる者を手配してくださいと、筆頭侍女長が言ってましたと付け加えてくださいね」
「ハッ! すぐに王城へ報告へ走ります」
後ろから付いてきていたイケメン騎士がリリアーヌの命令を受けダッシュで走り去って行った。ポカーンとする警備隊とおっさんと俺……
リリアーヌってもしかして偉いの?
「あ、あのー? 貴方様は?」
「王城の侍女長のリリアーヌと申します」
後ろの方からザワザワとする声が聞こえる。
「リリアーヌ様ってあの狂乱の少女?」
「そうだよ、女性騎士で王様が賊に囲まれたときに彼女1人で守りきって、最後は意識がないのに身体は敵を切りまくって味方もしばらくは近づけなかったって噂の方だよ」
えっ? そうなの? 騎士だったからお風呂も気配無しに覗かれていたのかな?
何より何?その二つ名は……
『リリアーヌがそんな過去を持っていたとは知らなかったにゃ、狂乱の少女様だにゃ』
「タイガ様、昔のことですから決して口に出さないように……」
静かに低い声でそう言われると、とても怖い…… やはりリリアーヌは怒らせてはいけないな……
後ろからはまだリリアーヌの噂話が聞こえてくる。
「そんな方がなんで侍女なんてしてるんだ?」
「ロマーノ王子が生まれたときに騎士を引退して王家専属の侍女兼護衛になられたそうだ」
なるほど、護衛には最適だろうな。見た目は優しそうな普通の侍女さんだしな……
しばらくすると馬に乗ったロマーノ王子と騎士が5名ほどやってきた。ハインツと呼ばれた騎士も平服のまま騎乗して一緒に戻ってきた。
「ロマーノ様が来られたのですか?」
さすがのリリアーヌも少しびっくりしていたが
「治安を守る警備隊は私の管轄ですから、私がいきませんとリリアーヌの顔に泥を塗るようなものです。ところで先程、話しは簡単に聞きましたが、警備隊の方々は王家の文句があるそうなので、取り急ぎやって参りました。どうかお話を聞かせていただきたいですね」
さっきまで偉そうにしていた警備隊の面々は顔は真っ青で足はガクガク震えている。ちょっとした大騒ぎになったため他の警備隊や警備隊長もやってきた。
「こ、これはどのような騒ぎで?」
警備隊長が警備隊に聞くが警備隊は当然答えられずにうつむいていると、ロマーノ王子がニッコリ笑いながら
「先程、侍女長のリリアーヌから連絡があり、警備隊は全ての国民を守る為ではなく、一部の国民だけを守る組織だと聞いてやってましたがそうなのですか? 警備隊の入隊では全ての国民を守るため命を掛けると宣誓をしていたと思いますが?」
それを聞いて警備隊長も真っ青になりながら
「いえ、我々は全ての国民を守るために存在します。もしも王子のおっしゃるような隊員がいるようであれば再度教育をしなければなりません」
「そうですか、ではしっかり教育をお願いしますね、今後このような事があれば許しませんよ」
「ハッ! しかと! おい、こいつらは再教育だ連れて行け!」
暴言を履いた警備隊員は全員連れて行かれた。
「最初の原因を作った者は貴方ですね?」
「ヒィイイイ、す、すみません命ばかりはお助けください」
土下座で謝るおっさんにロマーノ王子は馬からおりて頭を下げた。
「ヘッ?」
「我々の市政が行き届いてなくてスラムをそのまましていて申し訳なかった。しかしながらスラムの住人も同じトリアムの国民なので、どうかもう少しだけ長い目で見ていただけないだろうか?どうにかしてスラムを無くして誰もが安心して過ごせる国を目指していくのでよろしく頼む」
「め、めっそうもございません、蹴ろうとした私が悪いんです。頭をお上げください」
「そうですね、何があっても暴力はいけません。なにかスラムの方が迷惑な行為をしたのであれば、しっかり警備隊へ報告してください」
「は、はいっ。今後は決して暴力を振るわないようにします」
「では今回だけは許しましょう」
「あ、ありがとうございます……」
おっさんは礼を言うと走って逃げて行った。
残された少女に話を聞いてみなければ……
..
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家族の容態が芳しく無いために数日間更新をお休みするかもしれません。
必ず完結させますので、お待ち下さい。
それまでブクマやお気に入りに入れていただけますと嬉しいです。
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