食の改善をするにゃ

 しばらく歓談したあとにお開きになったが、以前使っていた部屋がそのまま残されており、こちらにいる間はこの部屋を使って良いと言われた。こちらにいる間の侍女はリリアーヌが引き続き専属になってもらった。


『最近はどうだったにゃ?』


「タイガ様がいなくなって、辞めようかとも思いましたが、クリス様が絶対にタイガ様は戻ってくるから、一緒に待ってくださいと言われてクリス様の手伝いをしておりました。向こうへ戻る前にタイガ様が残して頂いた資金を基金にして孤児院の充実や学校の準備などをしておりました」


『頑張っていたんだにゃ』


「クリス様の方が頑張っておられましたよ。ところでお食事はどのような物をご用意すれば良いですか?」


『忘れていたにゃ、正直この世界のご飯はあまり美味しくないにゃ』


「そうなんですか?」


『食の改善もしないとこっちには住めないにゃ、まずはマルセルのところに行って晩餐から改善していくにゃ』


「では厨房にまいりますか?」


『そうだにゃ、厨房にいくにゃ』


 そういうとリリアーヌは俺をひょいと抱えあげしっかりと胸元で抱いて歩き始めた。


『自分でもいけるにゃ』


「もしかしてその目線で侍女たちのスカートの中でも覗こうとでも思ってらっしゃるのでしょうか?」


『あっ、そのままでお願いするにゃ……』


 でもリリアーヌの顔はどう見ても愛玩動物を抱っこしてモフって恍惚の表情をしているようにしか見えないのだが……

 ようやく厨房に着くとマルセルが駆け寄ってきたので、料理長室へ向かった。王城の中でも俺が生きている事を知っているのは10人もいない、今回の件で近衛達にもバレたが発表があるまではあまりおおっぴらに動かないほうがよいだろう。


『マルセル今日は簡単にできるスパイスを使って作るにゃ、あとは出来上がってるドレッシングを使って作るにゃ。明日以降は少しずつ料理の方法も教えるにゃ』


 ステーキ肉にかけるスパイスが配合されているスパイスソルトとこちらの世界にはない胡麻ドレッシングをメインに使い、日本から持ってきたスパイスの使い方を教えていった。スパイスは料理長室の金庫に料理長か副料理長しか使えないように鍵をかけて保管するようにした。もちろんさっきペイロン達が涙を流した唐辛子も本当はとても美味しいスパイスであることを肉料理に使って披露するようにした。


 デザートは今日だけは向こうで購入したホールケーキを出してその場で切り分けるような演出で出すように指示をする。厨房のみんなにも2つほど出したのであまり大きな量ではないが全員が楽しめるだろう。上に乗っているイチゴ等のフルーツの争奪戦はどのように分けるかまでは俺は知らない方が良いだろう。


 作り方を教えたらマルセルはスパイスを持って厨房へ向かい、晩餐の準備に入るようだった。


「タイガ様、今日の晩餐は皆様とても楽しみにしているみたいですね、私も機会があれば一度、向こうの世界の食事を食べてみたいですわ」


『今日のスパイスは全部リリアーヌ用にも持ってきてるにゃ、だからマルセルに作ってもらうといいにゃ、デザートは後で部屋で出してあげるにゃ』


「エェッ? 本当ですか? でも先程ペイロン様に金貨5枚とか言われていませんでしたか?」


『あれはこちらで販売したらの話だにゃ 向こうだと唐辛子1本で銅貨1枚くらいの価値もないにゃ、しかも育てやすいのでこっちでもすぐに量産できると思うにゃ。その辺をこんどどこかの商会と話をしないといけないと思っているにゃ』


「そうなんですね、平民の家でも美味しいものが安く食べられるようになるといいですね」


『そうだにゃ、未だにあまり食べられない人も多そうだにゃ、どこでも育ってお腹が膨れるような食べ物の種や苗も持ってきているからそれらもどこかにお願いするにゃ』


「ではそろそろ晩餐の準備も忙しくなる頃ですので、むこうへもどりましょうか?」


『そうだにゃ、晩餐まで部屋に戻って一息いれるか』


 部屋に戻ってリリアーヌにお湯を沸かしてもらい、コーヒーを入れてもらった。さすがに一式を持ってくるのも面倒くさかったので、今回はお湯をそそぐだけのドリップコーヒーを準備してリリアーヌに注いでもらう。真っ黒なコーヒはリリアーヌにしてみるととても不気味な飲み物に見えるようだ。


「とても香ばしい匂いはするのですが、見た目が黒くて美味しそうには見えません」


『苦いかもしれないにゃ、少しだけ飲んでみるにゃ!』


 リリアーヌが口に付けると、やはり苦かったようで顔をしかめながら


「ちょっとこれは飲めません……」


『やっぱだめかにゃ…… じゃこれを飲んでみるにゃ』


 牛乳を少し多めにいれてあげる。


『これなら飲めます。美味しいです』


『じゃデザートにはこれだにゃ』


 少し小さいチョコレートのプチケーキを出してやると、口に含んだ瞬間顔が綻んだ。


「あまーい! 美味しいです。このコーヒというものと一緒に食べると更に美味しいです」


『俺が元に戻るまでは色々持ってくるにゃ、それをマルセルやギルドを中心に再現するにゃ。そしてできるだけ城下にも流行らせるにゃ!』


 以前もこちらの世界で作れそうなものはすでに教えてあるので、今回からは俺もよく知らないレシピや香辛料を使用した料理を教える予定にしている。また苗や種を管理して栽培する場所の選定もしないといけないし、いろいろ忙しそうな10日間になりそうだ。






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