枯渇したエリクサーだにゃ

 エリクサーの元であるクワズイモの苗と湧水池の水を採集してきたフェイザー製薬では会社を上げてプロジェクトチームが立ち上がっていた。


「成井部長これがエリクサーを出す苗なのか?」


「社長、そうですようやく手に入れました」


「中林君何か浮かない顔だけど、どうした? これが解析されればうちの会社はとんでもない事になるんだぞ、その立役者がどうしてそんなに暗い顔をしているんだ?」


「いえ、うまくいくと良いのですが……」


「どうかしたのか?」


「ええ、社長もご存知だと思いますが、この苗はあの神社でしか効果が無いと、これを見つけた子供が言っていたのですが、ここに移植して良かったのでしょうか?


「なんだ? そんな話は聞いてないぞ?」


「成井部長には伝えて、あの場所で毎日雫を採集しましょうと提案したのですが、社長の決裁は取れたからさっさとうちの会社に移植しろと言われましたが……」


「成井君、どういうことかね?」


 成井部長はダラダラと汗をながしながら


「いえ、あの神社の土も含めて移植しておりますので、神社で採集するのと全く同じ状態ですので、他社に嗅ぎつけられて盗られる可能性がある以上移植するしかありませんでした」


「しかし、あの場所から動かした事で、まったく出なくなってしまう可能性も……」


「もう移植してしまったので、その心配をしても仕方がない。もし出ない場合には戻して神社へ金を積んでその場所を買い取れ、そして24時間体勢で厳重警備だ。とことろでそのエリクサーは本物なのか?」


「サンプルでもらった分では、量的に大人を治せる量はありませんでしたが、社員の女性で顔に小さな火傷の跡が残りコンプレックスを持っていた社員がいたので、試しに塗ったところ1分も立たずに完治しました。全く跡がわからない状態まで……」


「それはすごいな……」


「今日移植する前に2粒だけ液体を採集できたので、体重で40キロ未満の人なら治せる量は確保できました。もしあの苗から二度と雫がでてこないなら、これが最後のエリクサーだと思います」


「明日になればわかるんだな?」


「はい、明日の朝早く雫が出ていれば問題はありません」


「では明日の朝確認をしよう。ここの警備は?」


「ここは24時間警備を警備会社に頼んでおります。空調がおかしくなっても自動通報されるようにもなっていますので問題ないかと……」


「そうか、では中林君が持ってきたサンプルは会社の機密金庫へ保管しておこう。解析はとにかく急がせろ? なにが体に効いているのかを必ず結果を出させろ」


 成井は社長に向かって


「はいっ! おまかせください。全力を上げてこのプロジェクトを成功させますので安心してください」


「頑張ってくれ」


 社長は中林から預かったサンプルを手に戻っていった。


「中林、余計な事を社長に言うんじゃねえ」


「部長、社長の承認は無かったんですね?」


「承認より他社に盗られたらおしまいだろ? もうすでに病院内で噂がでているんだろ?」


「それはそうですが……」


 確かに病院で重病人が3人とほぼ不治の病と言われていた二人が1日で完治するような奇跡が続けば噂にはなるし、看護師からチラチラ情報がもれていくのは確かだった。MRはしっかり看護師を取り込んでおり、いろいろな情報が断片的に流れていくのな仕方ない状況だった。



 翌日主なメンバーがクワズイモの苗の周りを取り囲んだ。


「ほら、雫が出ているじゃないか? 大丈夫だ」


 満面の笑みで部長が言うが、中林はバッサリと


「この雫の色はただの水っぽいですね。本物は金色の雫なんですよ。金色だけど透明ななっていうか水が発光しているような…… だからこれは効果ないと思いますよ」


 ねんの為に3滴ずつを採集管にいれ、神社の湧水池の水で希釈する。中林はカッターで自分の人差し指の先を薄く切って血を出した。そこに作った駅をスポイドで垂らした。

 結果は……

 全く傷跡は治ることは無く、薄っすらと血が滲むのだった。


「やっぱ駄目か……」


 中林は残念そうにつぶやくが、成井はまだ、諦めきれないようで


「ほら、まだ落ちつていないからではないか? 数日観察してだめなら神社へ戻そう。その間に祠の後ろをうちの会社で買うか借りるかの交渉をしてこい。いくらでもいいから必ず使えるようにしてこい」


 そんな指示をだしていた。社命なので仕方がないので中林は神社へ交渉へ行った。


「神主の高須川と申しますが、なにやら土地の事でと伺いましたが、神社ですので売買とかは全く考えておりませんが?」


「いえ、売っていただかなくても、あの祠の後ろ辺りをお借りできないかと思いまして」


「祠の後ろ? もしかして最近穴を掘ってなにか盗っていく人たちがいるのですが? なにか関係があるのでしょうか?」


「いや…… その……」


「先日も大きな穴を開けてあって埋めるのに往生しましたよ」


「埋めた?」


「ええ、ここは子供たちがいつでも遊んでいいように開放してますので、穴があったら危ないじゃないですか?」


「そうですね……」


 あんな穴には気が付かないと思っていたら気がついて埋められているとは……


「どうでしょう? あの祠の後ろだけ貸してもらえませんか?」


「いいですけど、もう他にも借りたいと言われる方がいるんですよね?」


「それってどなたでしょうか?」


「犬塚製薬やモート製薬の方が来られてますね。だからどうしようかと思ってですね。公開入札でもして、一番高く借りてくれる所に貸そうかと思います」


「そうですか? それは近々ですか?」


「そうですね、来週の水曜あたりを考えております」


「わかりました。うちも参加させていただきますのでよろしくお願いします」


 中林は仕方なく会社へ戻っていった。


 高須川は先日来夢が来て猫の楽園の話をした時に、製薬会社がここを売るか借りるかしたいという話を持ってくると思うが、その時にはすぐに返事をせずに入札で貸すべきだと勧められていた。


「来夢さんが言われたように本当に3社も来たけどなぜだろう?」


 入札に関しては1年間の使用料として入札をして無事にフェイザー製薬が3000万円で落札した。犬塚製薬もモート製薬も入札金額は数十万円であったのでフェイザー製薬の金額の高さにびっくりすると同時に、この神社から出た水で何でも治る万能薬ができたという噂に信憑性がでてきたのだった。


 結局高い金を払って借りた土地に再度移植したクワズイモはスクスクと育ちはしたが、二度と金の雫を出すことは無かった……


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