製薬会社をめぐる噂だにゃ
翌日まりのが神社に向かう時間より少し前に神社へ到着した。
クワズイモの周りにはマルはおらず、アインとブッチがおしゃべりをしながら監視してくれていた。
「アイン、どうだった?」
「別に変わりないよ、人間どもそこにいるだけだし」
「そっか、じゃご褒美だ」
特別に2本のチュルンの口を切って二匹に与えた。
「うまぁあああああ」
余りの美味しさに声を張り上げた為、2人の見張りもびくっとして周りを見回していた。
「大きな声を出すなよ……」
「すまんすまん。あまりの旨さに……」
そんなことをしていたら、まりのがペットボトルをバッグに入れてやってきて、クワズイモに近づいた時に見張りの一人がまりのに向かって言った
「お嬢ちゃん、ここは今立入禁止なんだ。わかる? 入っちゃ駄目なところなんだ」
「ここは猫神様に言われて来たの、その葉っぱの水をとらせてくださいなの」
「駄目っていったら駄目なんだよ。この土地はお嬢ちゃんのものかい?」
「ちがうの」
「だろ? だからここに入っちゃ駄目なんだよ」
「じゃおじさんの土地?」
「そうだよ、ここはうちの会社の土地なんだよ、だからあっちに行けよ」
そう言ってまりのの頭を小突いたので、まりのはその拍子にバランスを崩し尻もちをついて転んだ。
「ここは神社の土地なの」
「違うぞ、ここはうちの会社の土地なんだよ」
『まりの、静かにきくにゃ、そのおじさんにどこの会社かを聞くにゃ』
「どこの会社の土地なの?」
「ここはフェイザー製薬の土地だから入っちゃ駄目なんだよ、そっちの境内はいくらでも遊んでいいぞ、でもそこの湧水池もうちの会社のものだから汲んだら警察に捕まるぞ」
『まりの、ありがとなのにゃ、よい画像が撮れたからあの水はもういらないにゃ。神社にお参りして帰るにゃ』
まりのは俺の声を聞いて納得したように本殿に向かって歩いて行きお参りをして自宅へ戻っていった。小突いた奴は絶対に許さない。木の上にジャンプしてそこそこ大きな木の枝を上からそいつの頭に落とす。ゴン!!
「痛ってええええ、なんで木の枝が落ちてくるんだ?」
「あはは、お前がさっきの子供小突いたから神様が怒ったんじゃないか?」
「そんなわけないだろ?」
「でもこの苗を見つけた女の子って、猫の神様のお告げで発見したって聞いたぞ? もしかすると猫の神様の化身じゃないのか?」
「マジか? あの子にひどいことしちゃったけど、俺大丈夫かな?」
子供に暴力を振るう男は徹底的に痛い目に合わせないとな……
少し大きな声で近くの猫を呼んだ
[起きてるやつは境内横の祠にきてくれ! チュルンを2本やるぞ!]
この叫びは当然あの2人にはニャアニャアの声にしか聞こえず、その声を聞いた猫が沢山ここに集まり始めたのを見てだんだんと怖くなっていったようだ。
[何にもしなくていいからあの2人を睨むだけ睨んでくれ]
猫が十数匹集まり、何も言わずにじっと見つめてくればそれはそれで怖いのだろう。震える手で携帯電話を掛け始めた。
「中林課長、神社中の猫が集まってきてこちらを睨んできてるのですが、誰か交代をお願いできませんか?怖いです」
「なんだそれ? まぁ交代で俺と鹿野がもうすぐいくから待っとけ」
「もうすぐ交代で来るらしいからもう少しの辛抱だ」
「なんか怖くてトイレ行きたくなった。ちょっといいか?」
「いいぞ」
小突いた奴がトイレに向かって歩いていくとその後ろを猫全員が付いていった。
「わぁあああああ」
小走りにトイレに入り個室に入り込んで鍵を掛けられた。
[じゃチュルンをやるから交代であのドアの前で怖がるように鳴いてくれ]
その掛け声でトイレに向かって
ニャア ニャアアアア ンギャアアア等の泣き声をかける。
半分の猫にはチュルンを2本ずつ口を切った状態で食べさせる。食べる組が終わったらさっきの鳴いている組と交代でチュルンを与えた。その後もしばらくは鳴いてもらうようにした。
祠へ戻るともう1人の男性が電話をしていた。
「課長、この神社やばいですよ、さっき子供を小突いた花本が猫の集団に付き纏われてトイレにまで追いかけられて軟禁状態なんですが……」
「もしかしてその子って6歳か7歳だけどしっかりした子か?」
「年はそのくらいで髪が長くツインテールの女の子です」
「その子がそれの発見者で猫の神様がどうたら言ってたな」
「まだですか?」
「もうすぐだ、裏から車で上がってきているからもう少しで着くよ」
「早くしてくださいね」
車で上がってくるって言うことは苗ごと運ぶつもりかな?
エリクサーの元をあまりやる気はないので、こっそり2粒を残して回収する。茎の方にはもう残っていないだろう。これで2粒以外はただの水しか出てこないはず。
遠くからエンジン音が聞こえたので、トイレに行きみんなにもう大丈夫だと伝えて鳴き声は無くなったがトイレから出てくる気配はないな……
祠へいくと4WDの車から4人程下りてきていた。2人は中林と鹿野だが残りは初めてみる顔だった。格好からすると植木職人さんぽい格好だな。これは今日持っていく気だな? 昨日仕掛けた防犯カメラをチェックしにいったが、問題なく録画できているようだ。
「このクワズイモを抜けばいいですか?」
「そうだ、その1本はその辺りの土と一緒にごっそりいってくれ。絶対に枯らしてはいけないのでかなり深くから土は採ってくれ、その前にちょっとだけまってくれ」
中林は持ってきたプラスティクの採集管にクワズイモの葉から出ていた金色の雫を2滴いれた。
「これだけか……」
職人さんが中林に聞いてきた
「他にも持っていくものあるんですか?」
「ここに生えているクワズイモも持っていく。あとは湧水池の池の水をそのボトルに入るだけ持っていく。それは俺らが入れておくから、おやっさんはそこの芋だけをしっかりとってくれ」
「わかったよ」
「花本はどうした?」
「トイレから戻ってきません」
「はぁ? 連れてこい」
中林が水を汲んでいると、真っ青な顔をした花本が連れて来られて、ブルブルと震えている。よく見るとズボンの真ん中辺りが濡れているように見えるがあえてそこは誰も突っ込まなかった。
「おい、大丈夫か?」
「いや…… 大丈夫じゃないです……」
「この水汲んだら帰れるから、さっさとするぞ」
タンク5本くらい持ってきているようだが3本目までは入ったようで、4本目をいれている途中で花本の後ろから、念話で話しかけた
『ニャアアアア』
「うぁあああああ」
「なんだなんだ?」
「今、猫の声しましたよね?」
「しないよ?」
「お前疲れてるんだろ、ここはもういいから車に戻ってろ」
『フンギャアアアア』
「うあぁああぁ!」
叫び声と共にドボンと湧水池に落ちた……
そこまで深く無いのだが、慌てているせいか溺れそうになっている。
「おい、落ち着け足が立つ高さだろ?」
少し冷静さを取り戻しようやく立ち上がった。
「猫の声が……」
「あぁーあ、もう駄目だな…… 3本採れたからいいだろ。戻ろう」
クワズイモの採集も終わって水の採集も終わり、フェイザー製薬は戻っていった。
二粒のエリクサーの元で何ができるのかな?
ここで何をしていたかを公表する準備もしておかないとな……
それからしばらくして製薬業界で、エリクサーの話が話題になっていた。
断片的な話ながら、善猫神社のクワズイモの葉っぱの露と湧水池の水でエリクサーができると……
さらにその神社にくる子供や猫にひどいことをするととんでもないバチが当たるという噂も駆け回った。
そこから数日で善猫神社から、イモ関係の葉っぱが全て無くなり、スーツ姿の人間をよく見るようになった。
ただ、そこに来る人間全員が、近所の子達が遊びにきても優しく接し、猫たちには定期的にチュルンを中心としたおやつを持ってくるのだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます