王都到着

 ようやく王都の門が見えてきた。


「じゃ、俺は偽装を掛けて従者の格好で入るな」


「そうだな、死んだことになっている奴が入り口から入る訳にはいかないか」


 偽装の魔法を掛けて、従者席に座る。

 門に近づくと、衛兵達も気づいて走り寄ってきた。


「勇者様、魔王は討伐されたのですか?」


「おう!魔王は完全に倒してきたぞ!」


「「おぉー」」


 周りから歓声が上がる。


「勇者様、聖女様は居られますが、賢者様は何処に居られるのでしょうか?」


 ペイロンは少し悲しそうな顔をしながら、


「タイガは、魔王との最後の戦いで残念ながら力尽きた」


「そ、そんな…」


「残念だが、あいつは立派な最後だった。その報告も含め、すぐに王城に行きたいが先触れを頼む」


「はっ すぐに連絡して参ります」


 しばらく待たされた後、王城への入城が許可された。

 新しい馬車が用意されたが、この馬車も従者も魔王討伐の大事な仲間だと言い張り、そのまま入城する事ができた。

 ペイロンは国王に内密の話があるので、人払いをして謁見したいと伝え、国王も魔王討伐で何か公に出来ない事があるのかと思い了承した。


 謁見の間ではこの国トリアムの王、アンヘル ・バレーロ・トリアム3世とマルト女王、クリティーネ王女、ロマーノ王子、ハーラルフ宰相が待っていた。


 謁見の間に入場すると、国王は3人を見てタイガがいない事に気づき、


「まさかタイガ殿は…… 我々の都合でこちらの世界に呼び出し、こんな事になるとは何と申し訳ないことをしたのだろうか」


「タイガは、ろこいったの?」


 クリスティーネ王女は顔をキョロキョロさせながらタイガを探していた。


「陛下、早とちりをしないでください。あいつが死ぬわけないでしょう。ここにいますよ。タイガ早く偽装解けよ」


 びっくりする5人を前に偽装を解くとそこには黒髪黒目の賢者タイガが姿を表した。


「タイガしゃま、おかえりなしゃい」


 クリスティーネ王女は走り寄り飛びついてきた


「クリス様ただいま帰りました。」


 クリスティーネ王女にそう答えると、王女は嬉しそうに笑ってくれた。


 ハーラルフ宰相は顔をしかめながら


「なんと、この部屋では魔法が使えないはずなのだが・・・」


「こいつの魔法を使えないようにしようとしたら、国中の魔法師を使って結界張っても難しいのじゃないか?」


 ペイロンは笑いながら言った。


「タイガ殿、ペイロン、カテリーナ、この度は魔王討伐、本当にありがとうございました。ようやくこの国、いやこの世界が平和な世の中になることができました。感謝してもしきれません」


「ペイロン殿、タイガ殿、カテリーナ様、ありがとうございました。自分も一緒に行けるほど強くないのが悔しいです。」


 マルト王妃、ロマーノ王子はそれぞれ感謝の言葉を述べ深く頭を下げた。


「お顔をお上げ下さい。そんなに大した事をした訳ではありません。我々だけでなく、トリアムの国民全てが協力してくれたおかげで魔王を討伐できたのです。この勝利は全員の勝利です」


「さてタイガ殿はどうして偽装してこの部屋に?」


 ハーラルフ宰相よりそう聞かれた。


「パレードが終わって、落ち着いたら日本へ帰ろうと思う。魔石も大量に取れたので召喚時みたいに魔力不足で気を失う神官もいないだろう。女神様とも戻ると約束しているからな。だから俺はこの戦いで死んだことにして欲しい。そしてペイロン達が最後に魔王を倒した事にすると同時に2人の結婚を発表することで、国民に明るい話題を提供して欲しい。」


「盛大にパレードをして、タイガを送ってやりたいのだが」


「陛下、お気持ちはありがたいのですが、他の世界から来た人間の手を借りて倒したとするより、2人が倒した事にした方が国民受けも良いでしょう。もしパレードに出て、その後いなくなれば、変な勘ぐりをしてくる者もでてくるでしょう。帰る準備をしながら城の上からパレードは楽しみますよ」


「わかった。送還の儀まではゆるりと過ごすが良い。クリスティーネの相手もよろしく頼む」


「タイガしゃま、ろこかいくの?」


 クリスティーネ王女が上目遣いに悲しそうな目で見てくる。


「クリス様、タイガはもう少ししたら、自分の国へ帰ります。自分の国でどうしてもやらないといけない事があります。お別れまであまり時間はありませんが、クリス様と出来るだけお会いできるように時間を取りますので」


「やら いったららめ!」


 クリスティーネ王女は泣きながら足にしがみついてきた。子供を相手にしたことがあまり無かったのでどうすれば良いか検討もつかない。


「クリス、もしクリスがいきなり違う場所に連れて行かれたらどうする?帰りたいと思わないかい?お父様もお母様もいない場所で過ごしたいと思うかい?」


 ロマーノ王子が助け舟を出してくれた。クリスティーネ王女は少し考えた後、こう言い放った。


「おとうしゃまはいなくてもらいじょうぶだけど、おかあしゃまがいないのはらめえ」


「そうだろう?だからタイガ様は向こうの世界へ帰られるのだよ。クリスもタイガ様が向こうの世界へちゃんと帰られるように良い子にしておこうよ」


 クリスティーネ王女は悲しそうな顔だったが、こちらを見て


「タイガしゃま、またもろってくる?」


「出来たら戻ってこれるように今、いろいろ調べております。もしも戻ってこれるなら、その時まで良い子にしておいてくださいね。向こうの美味しいお菓子とかを持って帰りますから」


「あい!」


 クリスティーネ王女も少し笑顔で答えてくれた。

 その後ろで、アンヘル国王は娘をみながら絶望に打ちひしがれていた。


「お おっ おとうしゃまはいらないだと…」



「ではパレードは2週間後に行い、その後、送還の儀を行う日程でよろしいでしょうか?」


 宰相がアンヘル国王へそう質問すると、国王はまだ精神的に立ち直っていなかったが、少し気を取り直して、


「フム、そうだなパレードはできれば3週間後に行いたい。そして1ヶ月後に送還の儀を行おう。その間にタイガには申し訳ないが向こうの世界の知恵を出来るだけ紹介してもらい、この国が発展できるようしたいと思う」


「ではその日程で調整いたします。ペイロン殿、タイガ殿もその日程でよろしいか?よろしければすぐに手配いたしましょう」


 2人で頷くと宰相は準備に走るらしく謁見の間を退室していった。


「今日は疲れておるだろう。早めに3人共休むが良い。今後の詳しい話は明日の朝から話し合おう。タイガも城の3階以上は安心して偽装を掛けずとも過ごすと良い」


 アンヘル国王はまだ先程のクリスティーネ王女の言葉が突き刺さったままなのか、少し沈んだ顔でそう言った。アンヘル国王が鈴を鳴らすと侍女たちが入室してそれぞれの前に躓いた。


「タイガ様おかえりなさいませ。魔王討伐ありがとうございました」


 討伐前から担当の侍女リリアーヌは微笑みながら挨拶をした。


「ただいまリリー、明日までゆっくり休みたいよ」


「はい、もうお部屋も湯浴み場もご準備できております」


「じゃ陛下失礼いたします」


 謁見の間を退出して、勝手知ったる城の中を歩き自分の部屋へ入った。


「ふうううううううう」


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