第18話 女性総理大臣誕生
「賛成多数。よって、第10X代内閣総理大臣に菊地美香さんが任命されました」
私は、菊地順一が選ばれた時と同じように最前列で立ち上がり、与党議員からの拍手が鳴る中、前方と後方周囲に会釈をしました。
日本憲政史上初めての女性総理大臣が誕生した瞬間です。そして、夫婦で総理大臣になるという史上初めてのおまけが付いた歴史的瞬間でもありました。
「内閣総理大臣首席補佐官に任命するので… よろしくね!」
私は、舞い戻った総理公邸のリビングで順一に明るく頼みました。
「かしこまりました… 総理」
順一も笑って返してくれました。
「しかし… 主客逆転のような… そんな感じだねぇ… 美香が総理大臣になるなんて… 中国から戻って早々に『私、総理大臣を目指すわ』って言われた時は、冗談としか思えなかったけど… 大泉が居なくなったところから選挙に立候補するとはねぇ…」
「彼が日本に戻っても、二度と政界には戻れないようにしとかないと… 来月にアメリカが恩赦するようだし… 数年間は自宅で監視付になると言っても、彼はまだ若いから政界に戻ろうとするかもしれないから…」
「確かに… 出来る限り政界に戻れる環境は壊しておかないと… 影の政府はアメリカの手で粉々にしてくれたようだけど… いつ、再生するか分からないしねぇ…」
「今度のマーチン大統領は、日本に対して今のところ期待通りだわぁ… 見つけてくれた埋蔵金で私を選挙で勝たせてくれたし… 公民党の幹部を従わせてくれたし…
取り敢えずお礼はしておかないと… 近いうちにアメリカに行って会ってくる…」
「亡命している間に… 美香は見違えたねぇ… 本当にたくましくなった… いろんな経験をしたのかなぁ…」
「色々とねぇ… 勉強したわ… そして、誓ったの… 絶対に属国時代と決別するって… どこの国からも影響を受けず、指図されない… 本当の独立国家を目指すって…」
「本当の独立国家を目指す… そっか… 難しいけど…」
順一は、疑心暗鬼になっているのか、複雑な表情を浮かべ窓の外を見つめました。
「官房長官には… エミリーを当てるつもり… 地下要塞に残した諜報機関の責任者も任せるつもり。組織をもっと強固にするわ… 埋蔵金の大部分を国防に回すの…」
「それは… 凄くいいけど… 急いでるねぇ… そんな事… いつ考えたの…」
「母親業が楽になったから、時間は沢山あったわぁ… あっ… そろそろエミリーと仲間の皆さんが来る…」
「仲間の皆さん…?」
「いらっしゃい…」
「おめでとう‼」
仲間全員が声を揃えて祝福してくれました。
「美香さん、おめでとうございます!女性初の内閣総理大臣就任。忙しいでしょうけど落ち着きました… 身体の方は大丈夫…」
エミリーが少し心配そうに聞いてくれました。
「体は大丈夫よ… 明日から本格的に組閣だから… 今日のうち休んでおくわ… 時間が少ないけど、手短にお願いを伝えるは… 皆さん良いでしょうか…」
「いいけど… 何…? テンションも高いけど…」
レナが不思議そうに聞いてきました。
「エミリーには、電話でお願いした官房長官をお願いします。旦那様には… 防衛大臣をお願いします」
「かしこまりました… 総理。旦那様も承諾しております」
エミリーが笑顔で答えました。
「フォードルとレナには… 引退を取り消して貰って… 日本の為に復帰して貰いたいの…」
「復帰… 諜報活動… に…?」
レナが小声で聞いてきました。
「そお… 返事は、後でもいいけど… 絶対に受けて欲しい…」
「何で私たちが必要なのかなぁ…」
フォードルが少し固い表情で聞いてきました。
「これを見て…」
私はそう言って紙を渡しました。
“レーザー兵器の情報が欲しい。兵器開発をする為の設備を地下空間に整備する準備を進めています”
「動きが速い… 総理… 本気ですね…」
フォードルが私の意志を確認するかのように、鋭い視線を向けて来ました。
「強くなりたいんです… 資金も有りますし… 責任者も決まっています…」
「順一の亡命仲間だった… 航空宇宙学博士田村さんです。既に打診して、承諾を得ています」
「んん…」
フォードルはレナを見つめました。
「日本がアメリカの属国になると理解した時、美香は『強い国にしたい…』って呟いた時から、こうなるんじゃないかと思っていたよ」
フォードルは大きく頷きながら強い視線を向けてきました。
「私はCIAは辞めましたけど… 再就職しようかな…」
レナがフォードルを見つめながら微笑みました。
「分かった… 私も再就職しよう…」
「ありがとう… エミリーも… 了解…?」
「了解。アメリカと中国から独立しましょう… 必ず…」
エミリーは強い視線を向けてくれました。
「順一… こちらは… OKですけど…」
「こっちもOKだけど… 君は… 本当に僕の奥さん…」
「あなたの妻よ。菊地美香。鉄の女でもあるわよ…」
私はそう言って笑いました。
組閣してから一週間後、総理執務室に目を見開き明らかに驚きと戸惑いの表情をした順一が入ってきました。
「どうしたの… 何か… 恐ろしいことが起きたの…」
「いや… 恐ろしいことが起きたのではないけど… 起きる前触れかも…」
「起きる前触れ… どうしたの…」
「ラさんが… 日本復活の大恩人… ラ大韓民国元大統領が… 家族と共にイギリスに亡命した…」
「イギリスに亡命…」
「最終的に… 日本に亡命したい意志を表していると… レナから報告があった…」
「日本に亡命… 目的は何…」
「大韓民国復活… かもしれない…」
順一が戸惑った表情で呟きました。
「…」
全く予期していなかった方向から難題をぶつけられ、私の呼吸が少し乱れました。
「どうする… 総理…」
「大恩人の要請を断る訳にはいかないでしょう… けど…」
「けど…」
「正直… 厄介だわ… 『祖国を復活したい』なんて言われたら… なおの事…」
「その為に出たような気がする… ラさんなら… あり得る…」
「…、無茶よ…」
私は世界地図を見つめました。
「中国と戦争でもしない限り… そして、勝たない限り… 不可能よ…」
私はそう言って椅子に体を預け半回転して、順一からの視線に背を向けました。
そして、順一に背を向けたまま呟きました。
「仲間を… 全員… 今日の夜、地下要塞に集めて…」
三時間後、私と順一は地下要塞に入りました。
「全員が揃ったら… 中央指令室を… 地下要塞を… 完全に封鎖して…」
三十分後、地下要塞は完全に封鎖された。
属国時代 豊崎信彦 @nobuhiko-shibata
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