第5話 属国からの解放

「また揺れてる… 一昨日と同じ位… 大きい…」

私は直ぐにテレビの速報と、ネット情報をチェックしました。


「マグニチュードは… 8くらいで… 最大震度6強‼ また… 津波の予想… 20メートル‼」

私は二度目の揺れでも、規模の大きさに驚きました。


「また… 千島の方か… 北方領土と樺太が大変な被害らしいなぁ。こちちは大堤防で大分助かったげんど…」


「こっちは震度3… いつまで続くんだぁ… 二度ある事は三度あるのか…」

姉がため息交じりにボヤキました。


二日後、姉の言葉通りに三度目の大きい揺れが起こりました。



 三度目の大地震が発生した十時間後、日付が変わって午前4時頃。

スマホからは緊急アラーム、電源が入っているテレビやラジオ、そして地域防災スピーカーから緊急放送の警報音が家じゅう、街じゅうに響き渡りました。

警報音に続き、男性の落ち着いた声で“緊急事態に対する情報”が発せられました。


“こちらは、日本政府地下組織。こちらは、日本政府地下組織。

日本国民の皆さんに重大重要な情報をお伝えします。重大重要な情報をお伝えします。

これは訓練ではありません。これは訓練ではありません”


「何… 何が起きたの…」


姉と私は二階から半分寝ぼけながら一階のリビングに向かいました。一階のリビングでは既に、父がラジオを凝視していました。


「地下組織…」

父が呟いているところに、姉と私、母が揃いました。


「テレビも点けたけど… あっ‼ 日本政府‼ 地下組織だって‼」

姉が叫びました。


子ども達も全員が降りて来ました。


「何が起きたの…」


「静かに! 何か話す…」


家族全員がリビングのテレビに映し出された、字幕と音声に神経を集中させました。


”現在、日本上空、日本近海の複数個所において、日本を属国から解放するための戦いが起こっています。間もなく地上戦も起きます。日本国民の皆さん、出来る限り灯りを点けずに家に籠ってください。この戦いは、ロシア国内と中国国内でも起こされています”


「解放‼」

私と母が叫んだ。


「シッ」

姉が口に人差し指を当て、小声で囁き続けた。


「ロシア側に聞こえる…」

姉は少しパニックっているのか、変な気遣いの言葉を発しながら電灯を消した。

でも、家族の誰一人突っ込むことが出来ずに無言になりました。


 沈黙のまま、真っ暗なリビングで家族が寄り添って2時間程が経ちました。物音がしていない室内に、天井から複数の飛行音が低く響いてきました。


「何も見えない… 音は沢山聞こえるんだけども…」

いつの間にか父が外に出ていました。その父が空を見上げながら呟いた。


「何で外にいるの! 早く入って」

母は父に、珍しく怒鳴るような口調で戻そうとしました。


「どっちの飛行機… 敵? 味方? 爆撃されるの…」

私は不安の言葉を漏らした。


「死んじゃうの… 怖い…」

私の言葉で一気に不安になったユリが、私に抱き付きながら恐怖を口にした。


「大丈夫… 大丈夫。ごめんね… 怖がること言って…」

私が子どもに達に謝った。


飛行音が次第に多くなり、正直、不安が大きくなってきました。父が家に入って、カーテンを厳重に閉めました。


「画面が変わりそうだ‼」

父が珍しく大きな声で叫びました。


“各所で聞こえる飛行音は援軍です。日本の味方です。安心してください”


「良かった‼ 安心した」

皆が安堵の声を上げた。


 飛行音が止んで、暫くすると空が白み始めたのがカーテンの隙間からも分かりました。


「明るくなってきたな… 作戦はどうなっているんだか…」

父が、深い溜息交じりに呟きました。でも、その言葉に誰も反応しませんでした。

でも、反応しなかったのでなく、不安で言葉が出てこなくなっていたのです。



 正午近くになっても言葉をほとんど交わさない、無音の状況が続いていました。その間、子どもにパンを焼いただけで過ごしていました。

日本の家庭全てがこうなっていたと思います。


カーテン越しに、外が眩い光で溢れているのがはっきり分かるようになりました。



 テレビとラジオから同時に、日本国国歌が急に流れ始めました。


「君が代? 国歌?」

私は家族全員を見渡し問いかけました。


「かなぁ…?」

姉が返事をすると、画面に大きく日の丸が映し出されました。


「日の丸… 凄く懐かしい感じがする… てっ言うか… 解放されたの?」

姉が全員を見渡し小さく呟いた。


「恐らくぅ…」

父も半信半疑でした。


暫くすると、画面に映し出されている日の丸の前に、一人の男性が現れ笑顔でこちらを見つめました。


「総理⁉」

全員が発した。


「長門総理だ‼ 復活したのか⁉ 解放されたのが…?」

父は叫んだが、声が尻つぼみになってしまいました。


「何か話すんじゃない… 聞きましょう」

母が画面を見ながら、静かに話した。


 半年前に降伏宣言を伝えた時とは別人になった長門総理が、明るい清々しい表情で私たちに視線を向けました。


「国民の皆さん… 日本国民の皆さん、日本は復活しました。独立国家日本が復活しました…」

一瞬感極まって、言葉が止まりました。


「復活した… はぁ… はぁ…」

父は呼吸困難のようになりましたが、誰も気を留めずに全員画面を凝視したままでした。


「今… この時をもって… 皆さんは属国民では無くなりました… ここに、私は解放を宣言致します…」

長門総理の目から喜びの涙が流れました。


「万歳‼ 万歳‼ 万歳‼」

父が叫びながら万歳三唱しました。私、母、姉は涙が一気に溢れ、言葉が出てきませんでした。

母はカーテンを全開にし、窓を開放しました。開けたと同時に外から一気に冬の冷気がなだれ込んできましたが、寒さは全く感じませんでした。逆に、清々しい感情が体中を巡り、外に飛び出したくなり、子ども達を誘って外に飛び出しました。


外では、数人の人たちが同じように外で喜びを爆発させていました。


「いがったな… あっ…」

隣のおじいちゃんが、喜びで話し掛けてくれましたが、私の義兄あにのことを気遣ったのでしょう、直ぐに話しを止めました。


「良かったです。最高です。今日から普通の日常に戻れるんですね…」

私は、気遣いに感謝しながら返した。


「んだぁな… 生きているうちでよかった… こごさぁ、いねぇえ人の分も頑張っぺ…」


「はい…」

私はその言葉に頷き、目を閉じました。

私の思考は一瞬にして、菊地順一へ向けられたのです。


「じゅん… 元気… どうしてる… 早く帰ってきて…」



 

 

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