~地球 動乱編~

第23話 秘密基地にて②

「コウ君! お帰り!」

「ここにただいま、というのも変な気分だがただいま!」

「今回はどんな惑星だった!? 至急報告願います!」

「だが、ちょっと待て。今回は何だそれは」

「何って若妻風にアレンジしてみたんだが」

「裸エプロンのように見えるんだがそれは俺の気のせいか?」

コウイチロウは頭を抱えた。


「お出迎えスタイルが気に入らなかったか?」

「気に入るもいらないもあるか! さっさと服を着ろ! 最近多いぞ!」

ライザは舌打ちをするとまたしても奥へ引っ込んでいった。


「そうか。今回は核の譲渡という珍しいパターンだな」

「ああ。ジーンも『操作』なしで納得してくれたし、毎回こうなら楽だよ」

「バトルパートがなくてこっちとしては報告のワクワク感が……」

「船が沈んだりして大変だったろ!」

「ま、まあまあ。では早速」

ライザはコウイチロウから核を受け取ると解析機にかけた。


「でも今回はほとんど元の持ち主に聞いたぞ?」

「出番が少ないんだから何かさせろってんだバカヤロウ!」

「あ、はい」

「雨の星はどうだったね? コウ君」

「生まれたころから雨でもやっぱり雨は慣れないと思うぞ。たまには晴れないと気分が滅入る」

「これからあの星にはどんな変化が現れるんだろうな」

「さあなぁ。その辺は少しジーンとも話したが、しばらくは平和になるんじゃないだろうか。というかそうなってくれないと困る」

「だが、やがて平和に慣れてしまった一部の人間の中から争いの火種が発生しないとも……」

「それは、文明を築いたもののさがかも知れん。長いか短いか。とにかくいつかはそんな時代がどこの星にもやってくるもんなんだと思う」

「悟りでも開いたのか? コウ君」

ライザが心配そうにコウイチロウの眼を覗き込む。


「案外そうかもしれん。ついに空まで飛べるようになったし宗教でも興してみるかな」

「ちょうど、解析が終わったようだ。説明パート!」


『重力』・・・重力を自在に操ることが出来る。効果範囲は100m


「……知ってた」

「……だな」

「特に新しい情報もないが『操作』に引き続き便利な能力だと思う」

「ついに空を飛びだしたかー。次は何だ? 口から火でも吹いてみるか?」

「割と敵キャラに寄ってしまってないか? それ」

「おおっとこれは失敬。他意は無い」


「さて、漫才はこの辺にしてまた一度地球に帰るよ」

「そうだな。例によってしばらくしたら連絡をくれ!」

「分かった。それじゃ」

コウイチロウは席を立つと転星システムを起動し、地球へと帰っていった。今度は自宅を頭に念じながら。



「ふぅ。久しぶりの我が家。……あれ? なんか忘れてるような……」

「コ・ウ・イ・チ・ロ・ウくーん」

コウイチロウが振り返るとそこに立っていたのは青筋を立てた大家の息子だった。


「ヒィッ! 大家さん!」

「まーた滞納したねぇ」

「い、いや……これには事情が……!」

「どーんな事情か聞いてみてやろうか? ええ?」

星を救っていましたなどという戯言、信じるどころか殴りかかってきそうな勢いである。


確か銀行にバイト代が残っているはずだ! とりあえずあるだけ払って許してもらおう。


「これから銀行に行っておろしますんで待ってていただけませんか?」

「ダメだ! そういう事ならついていく!」

まるで借金取りか何かのようにコウイチロウを追い詰めていく大家の息子だが、恐らくこの後の予定が詰まっているのだろう。街の方向へ行くとなれば好都合なが。


「まぁ……そういう事でしたら……」

「おう。じゃあ行こうか!」

コウイチロウの肩に手をまわし、いよいよ借金取りじみてきた。


銀行に着くとコウイチロウはまず、通帳記帳を行った。しばらくサボっていたのでこの機会に済ませておこうと思ったのだ。しばらくガタガタと音を立てて書き込まれた通帳が出てきたので、手に取ったコウイチロウは絶句した。


「ご、5億とんで8万円……!?」

後ろから外で待っていたはずの大家の息子が覗き込んで叫んだ。


「ちょ、ちょっと! 何勝手に見てるんですか!」

「なんで貧乏人のお前がこんなに金持ってんだよ!」

「いや、俺も身に覚えがないですよ!」

「こんなのなんかの間違いに決まってる! それか悪いことやったんだろ! 警察に届けてやるからよこせ!」

「ちょっと! 返してください! 警察呼ぶのはこっちですよ!」

コウイチロウは大家が奪った通帳を奪い返そうと大家の息子の手を追いかけた。すると周りも不審に思いだしたのかざわざわと騒ぎになりだした。


「おい、なんだあれ……強盗か何かか?」

「金銭トラブルかしら」

「おい、警察呼んだ方が……」


「そこまでだ!! キミ達!!」

叫んだのは赤い姿のヒーローだった。


「え?」

「ゲッ! スターレッド!」


「銀行で騒ぎを起こすなんて! このスターレッドが許さんぞ!」

「え?」

「こ、これは違うんですよ! ただのじゃれ合いで……へへ」

どうやら事態が呑み込めていないのはコウイチロウただ一人らしい。


「これ以上騒ぐならこのスターソードとスターガンが悪党を成敗する!」

「あれは……!!」

「ひぃっ! す、すいません~!」

大家の息子は呆気にとられているコウイチロウを尻目にそそくさと逃げだしたのであった。


「きゃー! スターレッドよ!」

「また、悪党を成敗してくれた! さすがスターレッド!」


「こ、これは一体……」

コウイチロウが銀行を出て街の様子が一変していることに初めて気づいた。街角で犯罪抑止を啓蒙しているスターレッドのポスター。街頭ビジョンにはスターレッドに救われた後、メイクが乱れていないことをアピールする……マオ?


あれ? 以前からヒーロー活動してたはずなのになぜ突然こんな大人気(?)キャラクターに……。


と考えを巡らせたコウイチロウに銀行預金の増加と合わせて思い当たる事がでてきた。


あ、テンカワさん……。しかしどういうことだ。あのスターレッドが装備していたのは紛れもなく本物、いやギベオン軍掃討に使用されたスターガンとスターソードのレプリカだ。なぜあんなものを装備した者が街をうろついているんだ。


コウイチロウはテンカワ氏の真意を探るため、本社に出向いたのだった――

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