第22話 Over the rainbow

「――俺の名前はホシザキ コウイチロウ。君は?」

「私はジーン」

「そうか、ジーン。多分君は力の一族と呼ばれる星の一族に一部だと思うんだが間違いないかな」

「なぜ、お前がそれを知っているのかはわからないがそうだな」

「俺は知の一族の力を借りて力の一族の横暴を潰して回っている。言わば調星者ってやつだ」

「ほう、興味深いな。我々が横暴を働いていると?」

フードを脱いだジーンの切れ長の美しい瞳がギラリと光る。今までよく顔が見えなかったが地球人のコウイチロウから見てもかなり美人のタイプだ。地球で言うと20歳ぐらいだろうか。


「いや、全ての人がそうではないと思っている。だからこうして会話が可能なら話を聞かせてもらってる」

「私はどうやらお前の言うことに逆らえないようだが、これはお前の力か?」

「そうだ、だが暴れまわったりしなければ悪いようにはしない」

「ふん、暴れまわる気ならとっくにこの星を支配下に置いている」

ジーンは初めて少し笑んだような気がした。コウイチロウはその妖しい笑顔に少しドキリとした。


「そうだ、ジーン。君のスキルを教えてくれるか?」

「私のスキルはお前たちも見た通り『重力』、その名の通り重力を操る力だ」

「これまたすごい力だな。自由に空を飛べたりモノを運べたりするのか」

「そうだな。自分の重さを消し、前方に引力を発生させては消し発生させては消しでなかなか面倒ではあるが慣れれば高速で移動ができる」


現場作業が楽になりそうだ……。

……いやいやもっと他に色々できるだろ!


コウイチロウはまたしても自分の発想の貧困さに呆れた。


「どうした?」

「あ、いや。その力で人を助けて回ってたんだな」

「暇つぶしを兼ねて、だがな」

「ずっと気になっていたんだ。この星では星の一族が干渉している様子があまりないって。最初の星ではもっとずる賢く立ち回ってたようだけど」

「そうだな。最初は『重力』の力を使って世界中を飛び回ったりそれこそ【大穴】の中に飛び込んでみたりした」

「君の能力ならそれも可能か! で、どうだった?」

「ダメだった。この星の技術者の知識や文献を読み漁って何とかアムディスの故障箇所と思われるところは補修したんだが、再起動には空を飛べる人間が4人は必要だ」

「君が連れて行けばいいんじゃないのか?」

「私の力が及ぶ範囲はせいぜい100m程だ。再起動の起動レバーは【大穴】の4箇所にあってどうしても空中での作業が必要なんだ。恐らく足場が流されたか朽ちたかしたんだろう」

「そして4人同時にレバーを引く必要がある。因みにアムディスを再起動すれば大穴も閉じるみたいだ。あれはアムディスの発射装置だからな」


なんでそんな仕様に……。って5000年以上も前の人に文句を言っても仕方ない。


「そういう訳で私はこの星を支配する魅力を失い、人助けをしながら世界をブラブラしていたんだ」

「せめて俺が『重力』を使えればどうにか出来たんだがな」

「? どういうことだ?」

「俺が『分身』して空を飛べば万事解決って事さ」

そこまで聞いてジーンは深く考え込んでしまった。


「何か名案でも?」

「お前、核を持っていけ」

「いや、でもそんなことしたら……」


……あれ? どうなるんだ? ライザは仲間にしろとか核を奪えとは言ってたが差し出された時のことは聞いてないな。


「核を渡して死んでしまったりしないのか?」

「そんなことは無い。ただ能力が無くなるだけだ。星の一族としてのな。そしてただのレイニール星人として生きていくことになる」

「君はそれでいいのか?」

「私は考えた。この星を飽きるまで飛び回り、話を聞き、書物を読み込み考えた」

「仮に何らかの方法でアムディスを復旧させたとして、この星の発展にはつながるだろうか。また何らかの故障でダメになってしまうんじゃないだろうか。歴史を繰り返してしまうんじゃないだろうか」

「雨を受け入れて乗り越えようとしている人々もいる」

コウイチロウは頷いた。

「だが、大陸が沈むことだけはどうしても止めたい」

「考えることに疲れてしまったのかもしれない。私はこの星の人間として生き、今回の顛末を後世に残していくよ」


コウイチロウは同じく考え込んだ。


確かに、アムディスの恩恵に預かって生きていくのはとても素晴らしいことだろう。完全に制御された天候は砂漠化や洪水を防ぐことが出来る。だがジーンの言う通りそれがこの星に何をもたらすのか。新たな争いの種になりはしないか。


「俺は考えないことにするよ。目の前で困っている人がいる。その先の事までは正直考えられない。遥か未来まで俺の行動が大きな影響を及ぼすのは間違いないだろう。でも、俺はカミサマじゃない」

「そうか。そういうものかもしれないな」


「ちなみに核ってどうやって……?」

「念じればほらこの通り」

「思ってたようなグロい展開でなくて良かった。ていうか簡単!」

「さあ、持っていけ。この星の救い主となれ」


「もう一つだけ。俺たちが救われたのは偶然か?」

「いや、酒場でお前の話を耳にしてな。最近海の様子が少し変だったので警戒していたんだ。まさか船が本当に沈むとは思っていなかったが」

「星の一族にも色々いるんだな。今まで出会った、と言っても二人だがあまりいい印象じゃなかったもんで」

「それは何よりだ。願わくば戦いのない日々を」

「ありがとう。毎回こうだと俺も助かるよ」


コウイチロウは核を受け取ると『重力』のスキルを手に入れた!


「じゃあ、行ってくる! 君とはまた会いたいな!」

「ナンパは他所でやってくれ」

コウイチロウは笑顔で手を振った。

「マスター! お会計! あちらのお客さんの分も!」

「850レーンだね」


外に出たコウイチロウは早速『重力』スキルを使用し、人気ひとけのないところで浮遊してみた。いくらか練習は必要だったがやがてコツを掴み、一路【大穴】を目指した。


やがて【大穴】の中央辺りに着いた時、コウイチロウは『分身』を発動させ、ジーンから聞いた通りの方向へそれぞれ飛ばした。それぞれとんでもない規模の滝になっていたが、先史文明の賜物だろうか、一部滝の流れが引き裂かれている部分があり、その中から【大壁】の中へ入れるようだった。


「すげえなこの設備。よくこんなもん作り上げたもんだ」

ジーンが調べ上げたところによると大穴内部に流れ込んだ水は循環し、ろ過され、人口の雨としてまた大地に降り注いでいるらしい。もしかしたらろ過された不純物も堆積し、どこかで新たな大陸を生み出しているのかもしれない。


「さて、ここだな。行くぞ! タイミングを合わせろ! 3、2、1」

ガシャンと音を立ててレバーが下がる。

どうやら成功したようだ。先ほどまで明かりがついていなかった区画に明かりが灯り、やがて強烈な地響きがコウイチロウを襲った。


コウイチロウは【大穴】から出て一人に戻った。すると、【大穴】の中心部から巨大な円形の物体がせりあがってくるので様子をうかがった。


その円形の物体は中心部から飛び立とうとしたが、出力が足りないのか、大きな音ほどは浮かびあがっていなかった。


「やれやれ、手伝ってやるか」

コウイチロウは再び分身するとアムディスであろう物体を宇宙まで浮かばせた。


アムディスは軌道に乗ったのか、やがてこの星を5000年もの間、苦しめた雨が止んだ。


【大穴】はというとアムディスが飛び立つのを見届けたかのように軸らしきものがせりあがり、蓋が閉まっていった。


かくしてレイニールの調星は完了した。


コウイチロウはゼイド爺さんのもとに向かうと爺さんは全裸で立ち尽くしていた。


「おお、コウイチロウ。見ろ。止んだんじゃ。雨が……雨が止んだんじゃ!」

「ああ、カミサマのおかげかもな!」

「祈りが通じたんじゃ!! ワシは今、青空を見とるんじゃ!」

その後、ゼイド爺さんの歓喜の宴を共に喜び、一晩を明かした。


そしてコウイチロウはウィッシュスカイへ向かった。


「全く。ここで待っていれば会えるかと思っていたら一晩も待たせて!」

ジーンは怒りながら出迎えた。

「ごめん! 報告してたら捕まっちゃって! マスター! こちらのお嬢さんにミルクコーヒーを!」

「今日は俺のおごりだ! 君もホット果実酒でいいかな?」

「いや、もう二日酔いで……ミルクコーヒーを」

「フン! 次からは喫茶店に行ってくれ」

ジーンとコウイチロウとマスターは笑った。


コウイチロウはジーンに報告を終えると街の外に出た。

「ライザ! 調星完了だ!」


コウイチロウは空に掛かった美しい虹を見上げながらライザに連絡した。




惑星レイニール編 完

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