第21話 航海と後悔、そして邂逅
「……船長、俺は船長の事恨んでないからな」
「この先長い旅路になるかもしれねぇ、謝っても謝り切れねえが、旅は道連れってのはちょっと冗談でも言えねえな」
「そうだな。あーあ、あの世の旅ってのはどこが目的地になるのかねぇ」
航海11日目。船に突如として大きな衝撃が走った。船は横に大きく揺れ、不気味な音を立てて軋んでいる。
「何だぁ!? 何が起こったぁ!」
「ちょ、ちょっとコレまずいんじゃ……」
「ちょっと潜望鏡貸してくれ!」
ジベックはコウイチロウを押しのけると潜望鏡を覗き込んだ。
「なんでアイツがこの海域に……!!?」
「アイツってなんだい!?」
「マグラだ! 体長15m、集団で行動し、気性はこの星の海でも有数の荒さだ!」
「な、なんだって!!」
「この船を食いモンかなんかと勘違いしてやがる! また来るぞ!」
船に再び大きな衝撃が走り船体は90°傾いた。
「ヤバい、ヤバいぞ! このまま襲われ続けたら船体がもたねえ!」
「くそ! さすがに海の中じゃどうにもできない! せめて海上に出られないか!?」
「やってみるが期待しないでくれ!」
ジベックは舵を握りしめると船を操作し始めた。
「お、おい! あれ!」
コウイチロウが指をさした方向からは水が漏れ出している。
「まずい! 浸水だ! これじゃあ後一時間と持たずにこの船は沈んじまう! 救難信号も間に合わねえ!」
「進退窮まったな……」
「まさか、こんなところでマグラの群れに出くわすとは……運がなかったぜ……」
「大陸が沈んで生態系にも影響が出てるのかもな……」
不思議と冷静になりつつあるジベックとコウイチロウだったが、事態は全く良くなる気配はなかった。ただ、マグラの群れは船を食べられないと判断し、しばらくすると飽きたのか離れていったようだ。
操舵用の窓から様子を伺っていたジベックは椅子に腰かけてため息をついた。
「ふぅ、行っちまったようだな」
「この辺りに島だとか浅瀬は……」
「穴さえ開いてなきゃたどり着けたろうがなぁ……すまねぇ」
「……船長、俺は船長の事恨んでないからな」
「この先長い旅路になるかもしれねぇ、謝っても謝り切れねえが、旅は道連れってのはちょっと冗談でも言えねえな」
「そうだな。あーあ、あの世の旅ってのはどこが目的地になるのかねぇ」
あの世か……
ん?
ライザ?
そうか! ライザ! 転星システム! なんで気が付かなかったんだ!
「ライザ! 聞こえるか!?」
「聞こえているよー。調星完了かい?」
「いや、そういう訳じゃないんだが、今海に沈みそうになってるんだ!」
「はぁ!? 何がどうしてそうなった! 待ってろ、今、転星する!」
「ま、待ってくれここにもう一人、人が……」
「コウ君、転星システムはコウ君にしか作用しない。残念だが……」
「そんな! どうにかならないか!?」
「すまない……コウイチロウ……」
コウイチロウはひどく
「兄ちゃん、何の話だか分からんが兄ちゃんだけでも助かるなら行ってくんな!」
「ジベックさん! くそっ! 俺がツアーになんて申し込まなければ……!」
「海の男の墓場は海さ。兄ちゃん、行きな! 時間がない!」
「ちくしょーーーーーーー!!!」
――その時、不思議な浮遊感が二人を包んだ。
「なんだ!? 今度は何だってんだ!?」
「こ、これは……?」
「何だ? どうした? コウ君!」
「……浸水が止まってる」
すると不意に船が水平方向に動き出したような気がした。
「なんだあ? こりゃあ?」
「浮いて移動してる……のか?」
ジベックとコウイチロウが代わる代わる操舵用の窓から覗き込んだ。
「もしかして……カミサマ?」
「なんだそりゃ、いったいどうなっちまうんだ?」
「ジベックさん、これって陸の方に向かってないか?」
「ああ……、ああ! 向かってる! 俺たち陸に向かってるぞ! 俺達助かるのか!?」
「まだ安心はできないが……、少なくともすぐに水死ってことはなさそうだ」
「コウ君? 助かったのか?」
「ライザ、多分俺の考えが間違ってなければこのカミサマが星の一族だ。一旦、転星はキャンセル。また連絡する」
「わかった。くれぐれも気を付けろよ!」
「……了解!」
その後は、船の中で揺られていた二人だったが、しばらくすると陸に着いたらしく、船がドスンと音を立てて砂浜らしきところに打ち捨てられた。
「待ってくれ!」
コウイチロウは船から飛び出すとカミサマが去る前にかろうじて目を合わせることが出来た。どうやら妙齢の女性のようだ。
「話がしたい! ウィッシュスカイの酒場に来てくれないか!?」
「分かった。ではすぐに行こう」
コウイチロウの体がふわりと浮いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか?」
「よし、待とう」
「ジベックさん! 世話になった! また会おう! 船は……その、できるだけ頑張って修理代払うから!」
「お、おう! 達者でな! 船の事は気にしないでくれ。保険に入ってるからな」
ジベック船長と簡単に別れの挨拶を済ませるとコウイチロウはBar青空へ飛んでいったのだった。
Bar青空についた二人はゆっくりと話を始めた。
「君が星の一族、という事でいいのかな?」
「ああ、そうだ」
「質問に答える以外は普段通りでいい。逃げ出したりせずに頼む」
「ああ、わかった。約束しよう」
「じゃあ、マスター。俺はホット果実酒で!」
「私はミルクコーヒーで」
「ふっ、なんだその注文あんただったのか。割りと街のなかですれ違っていたのかもしれないな」
かくして、星の一族をようやく見つけ出したコウイチロウはこの星の本格的な調星にのりだすのであった。
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