第24話 正義の味方、スターレッド
天川重工業ビルにやってきたコウイチロウは相変わらず都会のど真ん中に塔でも建てたかのような馬鹿げた大きさに圧倒されていた。
実際、こんな巨大な会社の副社長にアポなしで会うなんて無謀な話だよな……。けど、あの武装が何なのか直接聞いてみないと。
コウイチロウはビルの入り口を通過すると受付をしている女性に声をかけた。
「あのー。すいません」
「ようこそ、天川重工業へ。アポイントメントのお客様でしょうか?」
受付の女性は笑顔だったがコウイチロウの全身をスキャンするかのように一瞬で目を上から下まで流した。
「アポイントなしで申し訳ないのですが、ホシザキコウイチロウが副社長にお会いしたいと言っているとお伝えいただけませんか」
「お客様、失礼ですがアポイントのない方はお通ししておりませんので……ましてや副社長ともなりますとスケジュールの都合が……」
今は丁寧に断ってくれているが、恐らくこれ以上粘っても態度が硬化するだけだろう。何しろジーンズにTシャツの男がアポイントも無しに会いたいと言ってきているのだ。
「そ、そうですよね。すいません」
コウイチロウは早々に諦め、カレン経由に切り替える作戦に出た。ビルの外に出るとコウイチロウは携帯電話を取り出し、カレンのに電話することにしたのである。
「つながるかな……」
プルルルルル……
「もしもし? コウイチロウ? 久しぶりねー。どうしたの?」
「あ、よかった。今話せる?」
「平気よ!」
「ソウイチさんの事なんだけどさ……」
「あ、なに、街のあれ見たの? いまさらよねー。手のひら返しもいいとこだわ」
「それは……まあいいんだけど、ちょっと気になることがあって連絡を取りたいな、と」
「あー……。力になってあげたいんだけど最近あの人家に帰ってこないし電話すら出ないのよねー」
コウイチロウはガックリと肩を落とした。
「聞いてよ。信じられる? 可愛い娘の1歳の誕生日にも連絡一つよこさないのよ!」
「え? おかしいな。ついこの間までデレデレだったのに」
「会社にこもりきりでほとんど外にも出てないみたい。私も何が何だか……」
カレンの声が少し上ずっている。
「そうだ、これからイノリちゃんに会いに行ってもいいかな? 誕生日プレゼントはスターレッドTシャツ買っていくよ」
「それはいらない。買うならスターピンクにして」
「あらら。じゃあ最近の日本の様子でも聞かせてくれよ」
「じゃあ、イノリと待ってるわね」
電話を切ると、まずは赤ちゃん用品専門店へ向かうコウイチロウであった。
「1歳おめでとう! イノリちゃーん」
コウイチロウは結局、小さな毛の少ないぬいぐるみを買ってテンカワ邸を訪れた。
「あー!」
ぬいぐるみを指さし、ニコニコしているイノリちゃんを見てご満悦のコウイチロウはカレンに切り出した。
「あの街中の様子はどうなってるんだ?」
「ちょうどコウイチロウが前にソウイチさんのところに来た後すぐ辺りからかな」
「地球の侵略者をやっつけたってことでスターレッドが大々的に推され始めたの」
あの契約の件かな……。
「気が付いたらマオも引っ張り込んでメディアは連日スターレッドをこれでもかって褒め称えてたわ。正体は不明にしてね」
「それはすごいな。俺も預金口座を見てたまげたよ。バイト代しかないはずの口座に5億も振り込まれていて、ちょっと騒ぎになっちゃったんだけどさ」
「へぇ、5億も?」
カレンはイノリちゃんの頭を撫でながらコウイチロウに視線を戻した。
「メテロル討伐報酬にしたって全部合わせてもここまではいかないよ」
「投資効果ってことなのかしらね」
「その通帳を巡って大家さんとトラブル起こしてたらスターレッドに救われちゃったよ」
「スターレッドがスターレッドにね。フフフ」
「そのスターレッドなんだけど、スターガンとスターソードを装備していた。あれは天川重工業と共同開発したものだから俺がどうこうは言えないんだが、さすがに危険じゃないかな」
「侵略者対策に各国・各企業一丸となってたわけだけど今じゃ元の木阿弥だもんね。戦争にでも使われたら……」
「ああ、威力能力共にパワーバランスを崩す可能性がある」
「地球の侵略者は宇宙人だけじゃない。地球人って可能性もあるのさ」
コウイチロウは頭を掻きながら困ったように訴えた。
「ソウイチさんに限ってそんなことは無いと思うけど彼にしたって一役員だもんね。わかった。私も会社の動向には気を付けてみる」
「ああ、頼む。俺もソウイチさんにはコンタクトを取り続けてみる」
「今日は来てくれてうれしかったわ! イノリも前よりは慣れたみたい。ぬいぐるみ効果かしら?」
コウイチロウはイノリちゃんのほっぺたをつつくと、カレンに別れを告げ、テンカワ邸を後にしたのだった。
こうなってくると転星どころじゃないな。しばらく行けなくなったと伝えておくか……。
コウイチロウは通信機でライザへ連絡した。
「こちら、コウイチロウ。ライザ、聞こえるか?」
「あいよ! どうしたコウイチロウ。もう次の星へ行けるのか?」
「そのことなんだが、今地球が少し怪しい感じなんだ。しばらく地球で過ごしても平気か?」
「ああ、まあそういう事なら構わなけいけど何か問題でも?」
「ある意味ギベオンの後始末ってとこだな」
「フーン。事が落ち着いたら必ず連絡をくれよ!」
「ああ、すまない」
よし、後は……。大家さんに半年分ぐらい家賃を払っておくか。なんだかんだ騒ぎで有耶無耶になっちゃったしな。……ん?
「火事だーーーー! 火事だぞーーー!!」
コウイチロウの前方で黒煙と共にビルが轟々と燃え盛っている。出火は3~5Fのどこからしい。
「いけない!」
コウイチロウはとっさに駆けだすとビルに飛び込んだ。
「まずい、予想以上に燃えてる……!」
「
スターレッドへと姿を変えたコウイチロウは逃げ遅れた人がいないかを確認して回り、5Fにたどり着いた。するとそこには5名ほどの会社員らしき人が逃げ遅れていた。
「皆さん、無事ですか!」
「あ、ああ……。あっという間に下の階が炎と煙に巻かれてね。うっ、ごほっ」
「5人か……!」
「これから皆さんの内、二人ずつ抱えて飛び降ります! 絶対に落としませんので動かないでください。むしろその方が危険です!」
コウイチロウは壁の裏側で『分身』を使用すると二人はそこで待機させ、救助を開始した。
「あれ!? 一人足りないんじゃ……!」
「何言ってるんですか! 今あなたが連れて行ったじゃないですか! この会社の役員だけ!」
「炎の中を突っ切ったのか!?」
「まあ、いい! とりあえず女性二人! 先に来てください! すぐに戻ります!」
そういうとコウイチロウは窓を突き破り、女性二人を逃がすとビルの中へ駆け込んだ。
いいぞ! 分身! いけ!
ビルの入り口の方で分身が壁を突き破る音と着地する音を聞いたコウイチロウはビルへと分身を誘導し、変身と共に解除した。
そして、ビルの外へ飛び出したコウイチロウが目にしたものは人々を救い、インタビューを受けるスターレッドだった。
あ、まずい……煙を少し吸い込んだか……
次にコウイチロウが目を覚ましたのはどうやら病院の一室のようだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます