~第2章~ アメフッテジカタマル

~惑星 レイニール編~

第15話 新たなる星、レイニール

「――もしもーし。おーい」


おかしいな。ライザが応答しない。

今は早く誰かとお話ししたい気分なのに。地球から出ていきたい気分なのに!こんな気持ちになるなんてありえないことなのに……。うおおーん!



時はさかのぼる事15分前。

コウイチロウはテンカワ邸を出ると、一旦自宅へ戻り掃除を済ませた。1ヶ月も空き家にしているとそれなりにほこりは溜まるようだ。

テンカワ邸のリビングの半分にも満たないワンルームの我が家。いや、借り物の我が家か。コウイチロウはまたしばらく部屋を空けるので、トイレや風呂場を中心に念入りに隅々まで掃除していた。

「ふぅっ、こんなもんかな?」


すると、突然誰かがインターホンが鳴らした。


誰だろう……?


コウイチロウがドアを開けるとそこに立っていたのは汗だくで中年の太った男だった。

「大家さん!」

正確に言うと大家さんの息子だが、大家さんの愚痴によると働きもせず家でゲームに熱中したりキャバクラにご執心だったりすぐに怒鳴ったりとおおむね評判の宜しい人物ではない。


「よーう、コウイチロウ君! 久しぶりだね!」

「お久しぶ「家賃!」」

コウイチロウの挨拶にかぶせるようにその男は言った。

「今月の家賃、支払が遅れてるよー?」

「すいません。急な仕事でこの国を離れてしまって……」

「現場仕事のアルバイトがなんで国を離れるンだよ! 変な言い訳しないで早く払えよ!」

言われてみればごもっともだが、全く人を見下した言動の端々にコウイチロウへの侮蔑がうかがえる。

「すいません、今手持ちがこれしかなくて……」

コウイチロウは財布の中の1万円を見せた。

「これっぽっちかよ、ふざけやがって!キャバクラに行ってもせいぜい1セットぐらいしか飲めねえじゃねえか!

「バクチでも行って増やすかな……」

男はブツブツとコウイチロウに不満を垂れた。

「今度滞納したら追い出すからな! 来月に残りと合わせて払えよ!」

大家の男は強引に1万円札をふんだくるとドスドスと階段を下りて行った。


コウイチロウは空になった財布を見て、天を仰いだ。


「とほほ……」

「リアルにとほほなんて言ったの初めて」


まあ、これから転星するのに地球のお金なんて持ってても仕方無いんだ。そうなんだ。銀行に行けば先月のバイト代が残っているはずだ!


コウイチロウは気を取り直してライザに連絡を取ることにした。

しかし、呼びかけても呼びかけても一向につながる様子が無い。


「もしもーし、ライザちゃーん? せんせーい、博士ぇ」

「こちらコウイチロウ! ライザ! 応答せよ!」

「もしもーし。おーい」


……だめだ。なにかライザの身に起こったのだろうか。


コウイチロウが諦めそうになったその時、ついにライザから応答があった。


「お待たせ! コウ君! こっちの準備ができたので移動するよ!」

「OK! 頼む!」


コウイチロウがまばゆい光に包まれ、そして目を開けるとそこに立っていたのはバスタオルを頭と体に巻いたライザだった。どうやらその下は本当に裸らしい。


「なんでそんな恰好なんだ! 早く着替えろ!」

目を覆いながらライザに叫ぶコウイチロウだったが、ライザは気にも留めずに説明を始めた。


「今回、転星システムが選んだ星はここだ!」


『惑星レイニール』

5000年もの間、絶え間なく雨が降り続けている。

現地人の姿は地球の人間とほぼ同等。

全ての大陸が【大穴】と呼ばれる星の中心部に飲み込まれつつある。

貨幣制度もあり、地球で言う中世ほどの文明と思われる。


「説明が頭に入るように着替えてくれ」

「ライザちゃんのセクシーダイナマイツを見て興奮する気持ちはわかるが

「いいから服!」

ライザはしぶしぶ奥に引っ込んで着替え始めた。


「今回は予習の為にずっとシャワーを浴び続けてみたんだ」

「どういう事?」

「雨に降られ続けるのはどんな気持ちかなーって」


……まず、そんなことをして気持ちが分かるかというのが一点。

次に、裸になる必要があるのかという点。

さらに言わせてもらうといくら雨降りの世界でもずっと無防備に外に立ってるわけねぇだろというのが私の意見です。

…………が、俺はツッコまない。絶対にだ。


「また、裸でも想像しているのか?」

「ああ、そんなところだ」

「……コウ君冷たい」

「裸でうろついていたせいかな」

「………………。さて、初回の反省会をしておこうか」

「初めて有意義な意見が出たようだ。では会議室こと広間へGO!」

二人は黒板の前にそれぞれ立ち、着席した。


「はい、ではおさらいをしておこう。コウ君のスキル一覧はこちら」

ライザが黒板にカツカツと書き込んでいく。


『共通言語』、『変化』、『分身』、『操作』


「共通言語はいいとして、他のスキルの特性はもう覚えたかな?」

「なんとなく理解した。ただ、『共通言語』も万能じゃない。俺の知識にない言葉は現地語のそのままで頭に入ってくる」

「そうか。その辺はコウ君の演技力を磨いてもらうとして……」

「問題は使い方だな。『変化』は到着後すぐに使うことだ。出ないと現地人にどんなタイミングで会うかわかったもんじゃない。攻撃的ならなおさらだ」

「それはそうだな。アムゼンで身に染みたよ」

「『分身』は使い方をマスターしたようだし効果的に使えていると思う。こちらについては特に意見無し!」

「異議なし!」

「さて、問題は『操作』だ」


……そう。こいつが問題だ。


「二名まで利用可能だし解除も可能だから極端な話、喫茶店で態度の悪いウェイターに水を素直に持ってこさせる。というような使い方も可能だ」

「異常にしょぼい極端だな」

「もう片方の端っこは大体想像が着くな?」

「……ああ」

「これに関してはコウ君の良心に委ねる。アゴウとやらの使い方がとは言わないがだと私は思ってしまったよ」

「『支配』が目的ならな」


「それと、相手のスキルが分からないまま無暗に戦闘をするのは控えた方がいいな。『操作』が発動していたらGAME OVERだった」

「それはそうだけど、スキルは何ですかと聞いて素直に答えるわけでもあるまいし」

「そこで『操作』の出番じゃろがい」

ライザは持っていた教科書(?)でコウイチロウの頭をはたいた

「……そうか! 確かに!」

「頼むぜ。コウ君。怪しいやつにはとりあえず『操作』をかけて質問してみるといいかもな」

「という訳で心の準備はいいかな?」

「一つ気になったんだが、【大穴】って何だろう」

「わからん! 転星システムは最低限の知識しかくれん!」

「行って確かめろって事か……」


コウイチロウは腹をくくることに決めた。

今回はどんな転星になるのだろう。不安もあるが、以前より少し期待感があるのもまた事実だ。

「よし! そろそろ出発するか!」

「じゃあ、行くぞ?」


「「転星システム! 起動!」」


再びコウイチロウは光の中へと消えていった。


「コウ君……気をつけろよ……。雨に降られ続けるというのは相当過酷だぞ……」

「ヘックシン!!」

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