第13話 帰ってきたコウイチロウ

「ふぅ、よく考えたら久しぶりだな。地球は」

転星の光から飛び出したコウイチロウは辺りを見回すとすぐに現在地を把握した。


「ああ、酒喜の目の前だ。このなんとも言えない家庭的な佇まい」

「さて、ミチルさんはここにいないんだったな。店の中は誰かいるかな?」

太陽の位置からしてまだ昼過ぎの様だが、開店準備ぐらいは誰かやってるだろう。そう思い、コウイチロウは店の中を覗き込んだ。すると、仕込担当の料理長ヤスダ(通称ヤッさん)が見えたので、コウイチロウは戸をガタガタと揺らした。


「ん? おぉ? コウイチロウ君! 久しぶりじゃないか!!」

コウイチロウに気付いたヤッさんは野菜を切る包丁をを止め、引き戸の鍵を開けた。


「ヤッさん! 元気してましたか!?」

「ボチボチだよ。街もやっと徐々に活気が戻ってきたって感じだな」

「そっか! それは何より!」

「どっちかというとうちの女将さんだよ、問題は」

「どうかしたんですか?」

「1ヶ月ほど前からずっとふさぎ込んじゃっててね。今日も大事な用だかで出かけちゃったよ。場所は聞いてるから行ってみるといい」

「そうですか……。わかりました。ありがとうございます! ヤッさん!」

コウイチロウはミチルの身に何かあったのかとヤッさんから教えてもらった場所へと急いだ。



「スターレンジャーが星になるなんて何の冗談だよ、コウイチロウ」

コンドウが名前の無い墓石に向かって呟く。


「あたしはコウイチロウ君が死んだとは思ってない。だからミチルスペシャル、毎日用意しとくからね」


スターレンジャーの4人は黙って涙をこらえている。


そこへ、全速力で走ってきたであろうコウイチロウが現れ、程なくして6人の姿を見つけた。墓石を前にただならぬ様子の一同を見てコウイチロウはミチルに問いかけた。


「誰か……亡くなったんですか……?」

「ええ。でも、私たちは亡くなったとは思っていません」

「クソッ! 俺がもう少しちゃんと闘えていれば……。でも、いったいどなたが?」

「私たちのヒーロー、ホシザキ コウイチロウ君です」

「そうか……ホシザキ……」



「「え?」」

7人が同時に声を上げた。


「コウイ「俺!?」チロウ君!!!?」

墓前でのお約束のやりとりを繰り広げた面々はその後、大いに再会を喜び合った。


「なんだよ、お前生きてたなら連絡しろよ!! アチッ!!」

コンドウが怒りながらコウイチロウの肩を殴ったが、手にタバコを持っていたのを忘れ、軽いやけどを負ったようだ。

「コウイチロウ君……心配したんだからね!!」

ミチルは涙を堪えきれず、コウイチロウを抱きしめると号泣しだした。


スターレンジャーの面々はつい1ヶ月前、眼前で繰り広げられた光景から導き出されるはずのない現在の光景に驚き固まっていたが、すぐに口々に質問と文句を述べだした。


「どうやってあの爆発から!?」

「今までどこにいたの!?」

「……連絡が来てないようだが!?」

「えいっ……!(心配かけやがって)」


マオの一撃がコウイチロウの顎を捉え、10mほど吹っ飛んだ。これにはさすがに口々に文句を言っていた皆も押し黙り、コウイチロウへの同情を禁じ得なかった。


「……と、とにかく犠牲者はいないようでよかった」

顎を押さえながらコウイチロウがふらふらと立ち上がる。


「強いて言うなら今のお前は立派な犠牲者だ」

ダイスケは涙ながらに言葉を振り絞った。


「と、とりあえずみんなで酒喜に戻ろう! 話はそれからでいいじゃないか」

コンドウが年長者らしく場を取り仕切ると、積もる話もそこそこに一時お開きとなった。


酒喜に着いた一同はその後の予定をそれぞれキャンセルし、コウイチロウ帰還パーティーへとなだれ込むのであった。


「今日は貸し切りよ! ガンガン飲んで食べってって!」

「よし! コウイチロウ! 今日は飲め! 全部話しきるまで帰さんぞ!」

「そうだ! 色々聞かせてくれよな!」

「……とりあえずは乾杯だな」

「そうしましょ!」

「ヤッさん、卵焼き……」

「じゃ、コンドウさん。宜しくお願いします!」

「お? そうか? じゃあ、何はともあれ、コウイチロウ君の帰還を祝って」


「「カンパーイ!!」」


それぞれのジョッキやグラスが宙を舞い、そして冷えた液体が喉を高速で駆け抜けていく。帰ってきた。地球に帰ってきたんだ。コウイチロウはたった1ヵ月の冒険を振り返り、自分が帰る場所を再認識した。


「で、あの爆発からどうやって逃げたの?」

「そうだ。少なくとも俺達は全員、ダメだと思ったぞ」

「いや、俺もその辺はよく覚えてなくて気が付いたら別の場所にいたというか……」


あれ?そういえばライザの事は話していいんだろうか


コウイチロウは一応、中座してライザに確認の連絡を取った。

「別に秘密結社とかじゃないからいいよ! そこの4人にも一応は関係ある話だし。何ならオンラインで参加してやろうか!? 楽しそう!」

「ありがとう。さようなら」

軽い感じでOKをもらったが、4人にとって重めの話にならないだろうか。


ま、うまいことやろう


コウイチロウの思考は少しアルコールで鈍っていた。


「えーと、どこまで話したっけ」

「まだ何にも話してないぞ! いきなりトイレ行きやがって!」

「そう。爆発の後、俺は謎の空間にいてそこにライザってのがいて……」

「こいつがまた変な奴でさ。変人てのが一番しっくりくる」

コウイチロウはライザとのいきさつをかいつまんで話した。


「あの時の星の一族とのつながりが今そんなことになっているとはな」

「また、闘いの日々か……コウイチロウはそれでいいのか?」

「正直、迷いはある。でも、始めたからにはやれるとこまでやってみるさ」

「私達に手伝えることがあったら言ってね」

「コウイチロウは楽しい?」

マオにそう聞かれて一瞬返答に困ったが、コウイチロウはアムゼンでの出来事を話し始めた。


「俺、まさかトカゲはともかく女体化するとはさすがに思わなかったよ」

「コウイチロウ女の子になったの!? 見ーたーいー」

「ある意味で満喫して……いるのか……?」

「女装に目覚めたら私がコーディネートしてあげる♡」

「いや、遠慮しとくよ」

コウイチロウは焦って断った。


「コウイチロウ君も地球で平和に暮らせばいいのに」

一連の会話を聞いていたミチルは心配そうに話しかけた。


「ミチルスペシャルとミチルさんは魅力的だけど、ずっと帰って来れないわけじゃないし、使命だと思って頑張りますよ!」

「使命ねぇ。……男ってホント馬鹿ね」


自分でも馬鹿だとは思っている。でも、は誰かが守らなくちゃいけないんだ。それは俺以外の誰かでもいい。でも、今は…………




コウイチロウは自分が守った平和を咀嚼そしゃくするかのようにその日の宴を楽しんだ。

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