~地球 帰還編~
第12話 秘密基地にて
眩い光の中からコウイチロウが現れ、秘密基地へと降り立った。他星で大冒険を終えてきたばかりだというのに最初に出てきた言葉は情けない一言だった。
「いやー。気まずかった」
コウイチロウはアルデオサ村の面々と感動の別れを終えた後、わずか10分という早さで村へと戻ってきた。集会場でコウイチロウがいなくなった今、どうやって星を盛り立てていくか。という会議を今まさに始めるところで、出て行ったはずのコウイチロウが戻ってきたのだから皆、目を一様に丸くした。
「……あのぉ、すいません。移動の都合で後二日泊めていただけませんか……」
「お、おぉ……。お主なら別に構いはせぬ。ゆっくりしていけ」
「よかったら、村をあげてもてなしましょうか?」
「いや、遠慮しとくよ」
みんなの気遣いが逆に痛い。
その後二日間かけてこの星の行方談義に参加したり、地球の事を語ったりそれなりに楽しく過ごしたコウイチロウであったが、帰り際に
「次はいつくるんじゃ、30分後か」
だの
「お布団あっためときますね♡」
だの
「もうアムゼンの事は心配いらんからな」
だの口々にコウイチロウをいじりだしたので
「ま、また今度ね。じゃあね」
などと下校中の小学生じみた別れの挨拶を苦笑いで発するしかなかった。
ここで冒頭に場面が戻るのだが、ライザの反応は極めてドライなものだった。
「おかえりー。早速だが『操作』の核を見せてくれんかの」
「あ、あぁ……。」
今日は『博士』のコスプレらしい。少しサイズが合っていないのか手が袖から見えきっていない。思念体でありながらどういう仕組みで着替えたり会話したりしているのか気になったが、今は考えないことにした。
ライザは核を受け取ると謎の機械のくぼんだ部分に嵌め込んだ。すると機械の上半分からレーザーのような光が1本また1本と核に向かって伸び、測定らしきことを始めた。コウイチロウは『操作』の核を手渡し、手持無沙汰になったので、ライザに話しかけてみた。
「なぁ、これは何をしてるんだ?」
「ご想像通り、『操作』の核を解析しておるのじゃな」
「…………」
「10分もすれば解析が終わって『操作』スキルの特性がわかるじゃろ。椅子を出してやるからちょっと待っとれ」
馬鹿でかいゴーグルに咥えタバコのつもりだろうか、棒付キャンディーの棒を口からはみ出させてカチャカチャと機械をいじっている。
コウイチロウは暇に任せて秘密基地を見渡した。前回来たときはバタバタしてよく周りを見ていなかったが、細かく観察してみると色々気になる点はある。
まず、外だ。
おそらく宇宙空間だろう。しかし、秘密基地を包む薄い膜のようなものが見える。外でも呼吸できたのはあの膜のおかげだろうか。最初にコウイチロウが浮いていたのもあそこだろう。
その後、すぐそばの一軒家に案内されて講義を受けて……。おそらく今いるのは実験室? 様々な資料が壁に貼られたり床に落ちてしまっていたり、お世辞にも整頓されているとは言えない。ギベオンらしき絵もあるが、隣は落書きだ。何かのキャラの似顔絵だ。その隣はなぜか大昔のグラビアアイドルのポスターまで貼ってある。だいたい天才奇才の実験室なんて理解の範疇外だ。気にしてもしょうがない。
廊下を挟んで講義を受けた広間。小さな机と椅子。そして黒板がドンと場所をとっている。黒板にもさっきと同じ落書きがある。暇を持て余しているようだ。こんな場所に一人じゃ詮方ない話だが。
突き当りは……トイレ? 風呂らしき施設もある。
「なんで思念体に風呂やトイレが必要なんだ?」
「ここは生きてるうちに使っていた別荘のようなものだよ。ちなみに思念体といってもエネルギーの塊に記憶を移したようなもので、モノに触れたりはできるぞ」
「気分転換にシャワーを浴びてみたりもする。だが、転星システムの誤作動で風呂場に戻ってきてしまうような描写は無いと思ってくれ!」
「はいはい……」
「コウイチロウさんのエッチーーーー!!」
なぜか、無表情で変態呼ばわりされたが無視しよう。
「今、想像しただろう?」
「…………」
「そんなことで異星人とうまくやっていけるのか! うん?」
「さあ、そんなこんなで『操作』の解析完了だ! 説明パートに移ろう」
『操作』・・・有効はニ名限り。相手の目を見つめることで命令を実行させることができる。簡単なものならほぼ永続的に効果あり。複雑な命令程、近くで定期的に発動の必要がある。命令は言葉にしなくてもOK。人以外にも使用可だが、効果は自律的に動くものに限る。解除も可能。
「いかがでしょうか?」
「使い勝手は良いとも悪いとも言い難いがむしろ効果は使い方によっては危険なシロモノだな」
「そうだな。まだ1度目の転星だが、いよいよチートじみて来た。『用法・用量を守って正しくご利用ください』だな」
ライザのふざけた物言いは今に始まったことではないが、これは自身の心との闘いにもなってきたとコウイチロウは感じた。ちょっとしたきっかけでギベオンやアゴウのような支配者に転んでしまうのだ。
「正しく……か。俺の正しさは誰が測ってくれる?」
「誰も」
「誰も正しさの秤なんて持っていないんだ。コウ君」
「そうだな。俺は、これが正義だなんて押し付けるつもりはないけどきっと答えはどこを探しても無いんだろう」
「万単位の犠牲者を出した者でさえ、後に英雄と呼ばれることもある。コウ君はコウ君なりに行動に伴う犠牲を考えてくれたまえ」
「厳しいな。いつものキャラが崩壊してるぞ」
「ではここでコウ君に朗報だ! 転星システムですが、一度行った星には1ヵ月の制限はありませーん」
「おお! つまり!」
「そう、今からアムゼンに戻ることも可能でーす!」
「……それは勘弁してくれ」
「という訳で地球に戻ってみるかい?」
「ぜひともそうしてくれ!」
コウイチロウは嬉しそうに答えた。
「地球で、戻るポイントは指定できるのか?」
「モノとかヒトとかバッチリハッキリ意識することができるならそこへ飛べるぞ」
となるとミチルさんのところがいいかな。みんな揃う場所にはちょうどいいし。
コウイチロウはバッチリハッキリとミチルさんと酒喜をイメージした。
「エラーです。指定の場所を一つに絞り込んでください」
「どういう事?」
「どこをイメージしたんだ?ヒトと場所やモノを同時にイメージするとそこに人がいない場合エラーになるぞ」
そうか……この場合、ミチルさんのもとに飛んでそれこそ入浴中とかだったら肘鉄や顔面パンチでは済まなそうだ。
コウイチロウは呼吸を整えて入浴中のミチルのイメージを追い出した。そして改めて酒喜をイメージするのだった。
「よし、行けそうだ。戻る時には連絡をくれ! じゃあな!」
「了解!」
こうして、コウイチロウの長い長い調星の旅路の第一歩が終わりを告げた――
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