番外編 星に願ったらシンデレラストーリーが始まった件
「こいつはダメだ。才能がない。本当に、何もない」
「やはり……。」
アムゼネス二人が深刻そうな顔で話している。二人の足元にはまだ成長途中であろう一人のアムゼネスがうずくまり泣いている。
「誰かのオギレにされるくらいなら今ここで私達のオギレにしましょう」
「そうだな、それがせめてもの情けだ」
二人はそう言うと泣いているその子の尾を切り落とした。
「――また、あの頃の夢か」
ガオウはそう言うと額の汗を拭った。
アムゼネスの数ある部族の中でも弱小部族のミクロヒメ族のさらにその中でも最弱のアムゼネス。それが、ガオウだった。やがては強大な部族の長になってほしいと願って付けられた『ガオウ』の名もこの頃は空しく響くばかりであった。
ガオウの運命が大きな転換を迎えたのは16歳の頃。牢屋の中である。戦闘員として生きていけなくなったガオウは食料採集に精を出していた。ところが、誤って他部族の領地を侵してしまい、捕らえられてしまったのだ。オギレでは奴隷にもできず、かといって戦闘員でも無いものを即殺すのもこの部族の間では好まれていなかった。
扱いに困ったこの部族はとりあえず牢に幽閉し、処遇を検討し始めた。しかし、部族でも使いようのない捕虜に真っ当な食料をくれてやる義理はない。ましてやこいつは食料泥棒だ。日にニ食、粗末な木の実の団子がガオウの生命をつないでいた。
私はここで死ぬのかもしれないな……。
ガオウの目に諦めと観念が宿ったその時、牢屋越しに一人のアムゼネスが話しかけてきた。
「おい、お前。お前は弱いのか?」
何を言っているんだろう。こいつは。尾の無い、牢屋に幽閉されている身を以て「私は強い」と強がればこいつは夕食時のネタが増えたと喜ぶのだろうか。
「見ての通りです」
ガオウは吐き捨てるように言った。
「そうか! 弱いんだな!」
牢屋の外にいるアムゼネスはどうやら見張りの様だが、嬉しそうにガオウを見つめて言った。何がこの見張り番に刺さったのかわからないが、楽しそうにブツブツと独り言をつぶやいている。
「お前、ちょっと目を見せて見ろ」
ガオウは抵抗すら面倒になり、その見張り番に顔を見せた。そこから一瞬意識が途切れたようだが、当人にその記憶は残っていなかった。
「今夜、そこの小さな窓から空を見ていろ」
「はい……。わかりました」
「お星様に強くなれますようにって願うといいぞ、ハハハ」
「仰せのままに……」
「そうだ。この星で一番強くなった暁には私をお前の右腕に迎え入れろ。いいな?」
「はい、仰せのままに……」
「それから、この会話が終わるとお前は今日までの記憶を失っている。一からやり直すがいい」
会話が終わると正気を取り戻したガオウは窓に向かって両膝を抱え込み座った。
「面倒だから最低限の操作でいいだろう。これで俺は寝ているだけでこの野蛮な星を支配できる。フフフ……」
やがて夜を迎え、本日二度目の食事を終えたガオウは先ほどの体勢に戻り、小さな窓から空を眺めた。なぜかはわからないがこうしていると落ち着く。
そして、月も帰り支度を始める夜更け、ガオウはまだ空を眺めていた。他のアムゼネスも寝静まる時刻だが、そんな時、空を一筋の流星が流れた。
「あ……、流れ星」
そうつぶやいた瞬間、ガオウは体の中で何かが目覚めたのを感じた。活力、いやそんな生易しいものではない。血が
翌朝、ガオウを捕えた部族の族長はガオウに言い渡した。
「お前に名誉ある死をくれてやる。オギレのお前にはもったいないくらいだ。この私と戦って死ぬがよい。もし勝てればお前が族長でいいぞ、ハハハ」
ガオウは手錠を解かれ、族長の前に放り出された。
「さあ、行くぞ! せめて少しは抵抗してくれんとこちらも後味が
言い終わる前にガオウの足元には族長の死体が転がっていた。部族の一員は一人残らず何が起こったか理解できなかった。食糧収集係のオギレが歴戦の族長を瞬殺したのだから無理からぬ話だ。
「これでこの部族の長は私、という事になるのかな?」
ガオウはゆっくりと族長の死体に近づき、尾を引きちぎって自分につなげた。なぜかこの儀式については体が覚えていた。様子を見ていた数人がガオウに飛び掛かったが次の瞬間には族長の殉死者と化していた。
「素晴らしい力だ」
「さて、いろいろ聞きたいことがあるのだが、敢えて私に挑もうというものがいたらかかってこい」
ガオウは以後、必勝無敗の族長として急速に勢力を拡大していくのだったが、あの夜、ガオウの見張り番をしていたアムゼネスの姿はもうそこにはなかった……。
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