番外編 ギベオン様の憂鬱

「ギベオン様、本日のご予定でございます」


「午前9時よりアストロン星系脱出計画第32次会議」

……最悪だ。

「午前14時よりゴーストン戦闘員戦闘訓練視察、18時より昼食。今日はゴーストン王族との会食でございます」

……最悪だ、最悪だ。

「午後20時より」


「わかった。もういい」

「は?」

「もうよいわ!」

「いや、し、しかし……」

「昼食以降の予定は全部キャンセル!」

「は、はぁ……」


この星の人間は頭が石で出来ているのか頭が固い。いや、実際問題、頭は石で出来ているのだが、こいつらみんな石頭だ。

この星の人間は隕石や星を悪性隕石とかいう半生物に作り替えることができるらしい。転星した当初は『分身』スキルに加えておまけの特性かよ!俺強くね!?と喜んだものだが、最近では少しこの星にいるのが嫌になりつつある。


第一に、一日が36時間ある。とにかく一日が長い。転生システムのおかげでどうにか慣れたが、一日が長いせいか意思決定が格段に遅い。のんびり屋さんだらけだ。何が32次会議だ。ダラダラとあれができるだのこれは無理だの5時間もかけおって。ビシッとさせるために「我ら幽石族! 『重き』は『思い』! 『意志』は『石』なり!!」とかいう恥ずかしいセリフまで考えたのにいまいちピンときてない。


第二に、そう。その会議の内容だ。30年もかけてコツコツと受験勉強を4人がかりでやらせたり、手柄を立てさせたり暗殺させたりあの手この手でやっとトップに上り詰めたと思ったら太陽フレアが近づいていて星系ごと滅びる可能性があるだと!?ふざけるな!こっちは色々予定が狂ったわ!


第三は食事。石をかじる。砂を食う。味はともかく見た目が全然楽しくない。煮るだの焼くだの確かに無意味だとは思うがなんか工夫してほしい。もう慣れたけどね!他星を侵略したらこいつらには統治だけさせよう。絶対駆逐とかさせない。一応その場のノリで殲滅せよとか言うかもしれんけど。


……なんてこと考えてる間にあっという間に8時30分ですよ。5時間も何話し合うんだろう。今日の資料に目を通さないと。


はい、『分身』!お前このレジュメね。あとお前はこの図面に目を通して。はいはい!時間ないよ!俺のせいだけど。


何々? 侵略予定の惑星? 太陽系第三惑星地球? なんでまたこんな辺鄙なとこ。

ほぉ。人類が住んでいるのか。星の一族同士でバッティングしないといいけど。まぁ星の数ほどある星の中で人類のいる惑星だけに限っても星の一族だけでカバー出来ないよな……。やはり侵略に次ぐ侵略でガンガン支配していかないと。この星の奴らみたいにちゃんと導いてやらないと。


例えばほら、この資料のフォント。割と重要な案件なのにポップすぎ。どうせ、若手のテラヘルツあたりが作った資料だな。石頭の中では割と見込みがあるやつだけどそういう事じゃないんだよ。「地球侵略計画第1弾!!」じゃねぇよ。


……今日はお説教からスタートかな。


「ギベオン様! 今日の午後の予定は全てキャンセルいたしました!代わりにひと月前の新たな太陽フレア発生確認で延期になっていたギベオン様の誕生日会をいたしましょう!」


……こいつら、融通は利かないし頑固だけど真面目で素直でいいやつらなんだよな。絶対地球侵略成功させような。あ、石の目から水晶が出そう。


「会場は8時間押さえましたんで!!」


「長い!!バカモノ!!!!!」

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