第11話 さらば! アムゼン! また逢う日まで
――ガオウ軍と一進一退の攻防を繰り返していたがコウイチロウだったが、次第に戦況がこちら側に傾いていった。圧倒的強さとカリスマで配下を支配していたガオウに対し、コウイチロウは強さに加え、絆と仲間という概念を徐々にアムゼネスに浸透させていったのである。最近では戦うことなくコウイチロウに協力を申し出る族長も現れ始めていた。そしてまた、反ガオウの一味とも手を組み、組織を急速に拡大していったのである。
「ガオウ様、今や半数以上の配下がコーウとかいうものの下についたようです」
「問題ない。私がそのコーウを殺せば全て元通りだ。むしろ手間が省けた」
「……では」
「ああ。討ってでる」
「では、全軍に準備させまする」
「ああ、ついにアムゼネスの全てを手に入れる時がきたのだ!」
ガオウは心の底からコーウという存在を楽しんでいた。倒せば全てを手に入れるという俗な欲からではない。好敵手の存在。それは、このところ挑む者すら現れなくなったガオウが今、最も欲しているものだ。強きものと戦い、蹂躙しねじ伏せる。強さを誇示し、子を産む。あるいは、この欲求は地球で言うところの性欲に似ているのかもしれない。
「コーウ様!!
アゴウがまたしても飛び込んできた。
「戦闘は始まっているのか?」
「はい!第一陣を食い止めております!」
「……そうか。じゃあ俺が直接ガオウの下に向かう!」
――コウイチロウは第一陣を全て気絶させ、仕留めると最前線に出て叫んだ。
「ガオウ! 決着を付けよう! 俺と勝負しろ!」
「貴様がコーウか! 我がガオウ軍族長、ガオウである!」
コーウは初めてガオウと対面したとき、美しいと感じた。もちろんしなやかな筋肉と整った顔立ちではある。だがおそらく見た目の問題ではない。アムゼネスに『変化』した自分の中の感覚が彼女を『強い』そう感じていたのだろう。この世界では強さは美しさだ。ここしばらくのアムゼン生活でコウイチロウはそう感じていた。
コウイチロウはは全軍の代表としてガオウと対峙した。
果たしてガオウは星の一族なのだろうか。もしそうならスキルはどのようなものだろうか。思いを巡らすコウイチロウだったがついに闘いの火蓋は切って落とされてしまった。
「行くぞ! コーウ!」
「来い! ガオウ!」
今回の戦いでコウイチロウは敢えて武器を持たず肉弾戦を挑んだ。これまでガオウと戦った経験を持つ者たちの話を総合すると、ガオウはスキルらしきものを使用していない。純粋な力の、技の、心の強さだ。おそらくこの星一番の。……だとしたら、勝つために小細工は必要ない。弄してはいけない。まずは勝つことだ。己の身一つでやれることをやってみたい。そんな気持ちとは裏腹にコウイチロウはまず、確認を取ることにした。
一方、ガオウも槍を持っていたが、こういった武器の使用は好むところではなく、コーウもまた、武器を持っていなかったので、それを投げ捨て、徒手空拳でコーウに向かっていった。
両者の正拳と正拳がぶつかり合い、動きが止まった。そして、お互いの拳が弾けるように離れたのを合図に目にも止まらぬ拳の応酬が始まった。互いに拳と拳、体と体、頭と頭がビリヤードのようにぶつかり合い、弾き合い、そしてお互いが右手を左手で受け止めると、闘いはしばし膠着した。
「ガオウ! 貴様に聞きたいことがある!」
「くっ、おしゃべりか!? 余裕だな! コーウ!」
「お前は星の一族なのか!?」
「? なんのことかわからんな! 知りたいことがあれば拳で聞け!」
「そうさせてもらう!」
なおも激しく手刀、裏拳、肘打ち、前蹴り、あらゆる技と力が変色花火のように代わる代わる交差し、弾ける。そして、二人の闘いは森の奥へ場所を移しながら両軍の集団から遠ざかっていく。
「コーウ! お前を倒した時、産む子が楽しみだ!」
「おしゃべりは程ほどにな! ガオウ!」
「ハハハ! そうか! そうだったな!」
互いに拮抗していた実力もやがてはコウイチロウの方へ秤が傾いていった。ガオウには自分と同格のものとの戦いの経験が圧倒的に少なかったのだ。強者として生まれた宿命か、強者はまた強者によって斃されるのが世の習いなのだろうか。
「ならば、受けてみよ! 我が奥義!
「この技は……っ! クランブル・フィストに似ている!?」
「はああああっ!」
「行くぞぉぉっ! 必殺!
「ぐぅっ! うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「はぁっ! はぁっ! はぁっ……」
コウイチロウはついにガオウを撃破した。しかし、ガオウが何らかのスキルを使ったとは思えない。
スキルを封印して戦ってみたくなった……?いや、そんな馬鹿な。だとすると……。
「ガオウ、星の一族について何か知っていることはあるか?」
「……さっき答えたとおりだ。そんなものは知らん」
「そうか、ありがとう。……いい戦いだった」
「ふっ、『いい戦い』か……。そんなものが存在したとはな。完敗だ」
さて、ガオウが星の一族でないとなるとこの星の頂点に立った俺に真っ先に近づいてくる奴が怪しい。行動原理は『支配』なはずだからな。よし!
「コーウ殿! やっと追いついた!」
「コーウ様♡ ついにガオウに勝ったのね♡」
「素晴らしい戦いでした!」
「真に。強き族長に祝杯を!」
「お母様を倒した者の力は本物だった!」
コウイチロウの下にバモウ、キラル、ウモン、ウモイ、アゴウが駆け寄った。
「コーウ様。私は今、心からの祝福を申し上げます!本当です!私の目を見てください!」
するとコウイチロウの体は突然石のように固まってしまった。
「あら? コーウ様?」
「どうしたんじゃ、コーウ殿」
フフフフ!ハハハハハ!!!これでこの星は私のものだ!
「ん? 何だろう。一瞬気を失っていたみたいだ」
「さぁ、村へ帰ろう!」
「……とその前に、ちょっとそこのキミ! 話できるかな」
「はい! 喜んで」
二人が集団から少し離れると一人が口を開いた。
「コーウ様。いや、コーウ。私に跪け!」
「……はい、アゴウ様。仰せのままに」
コウイチロウはアゴウに向かって丁寧に跪いた。
「私のスキル『操作』はやはり素晴らしい能力だ!」
「フフフ、アーハッハッハッ! いくらお前が強かろうとな! コーウ!」
「星の一族はお前だったのか。アゴウ」
「!?」
茂みからもう一人、コウイチロウが姿を現す。
「何! 貴様! コーウ!? どういうことだ!」
「こういうことだ!」
もう一人のコウイチロウがアゴウを羽交い絞めにする。
「なぜ、コーウが三人も……。それになぜ星の一族の事を知っている!」
「俺は知の一族に選ばれた
「ぐ……貴様!」
「元々不思議に思っていたんだ。お前はイオギリでもないのに戦いを避けてばかりいた。好戦的なこの星の住人にしては奇妙な行動だ」
アゴウはコーウから目を背けたが、自分の力を思い出し命令した。
「やれ! コーウ!」
「はい! アゴウ様!」
言うやいなやコーウの分身は音もなく消えた。
「これが俺の能力、『分身』だよ」
「ならば!」
「無駄だ!」
コウイチロウはアゴウの目をふさいだ。
「ち、ちくしょー!!!」
「分身の記憶は俺の中にある。おとなしくしてろ」
アゴウは『変化』を解き元の星の一族の姿に戻った。
黒いフードを被り、頭髪はなく、醜悪な顔つきでやせ細った男だった。
「さて、一応聞くが俺の仲間になる気はあるか?」
「ひひひ、もちろんでございますよ!」
「……聞かせてくれ。この星をどうやって支配するつもりだったんだ?」
「ガオウですよ! あいつを『操作』してね! ひひひ」
「聞いてくださいよ! あいつはこの星で最弱のアムゼネスだったんですよ」
「何だと?」
「私が『操作』して流星を見せてね。星の一族の力を少し分けてやったんです。」
「あとはじっくり育ってもらいました。いやー。わかります? 最弱がチートで成り上がり! 見てて最高のエンターテインメントでした! ひひひ」
「よし。お前からは『核』を抜くことに決めた」
「そ、そんな!」
「ただし、俺と戦え。戦って勝てば見逃してやる」
「本当ですか! ならば行くぞ!」
コウイチロウは黙って構えた。
「隙あり!」
アゴウは目をコウイチロウに合わせようとしたがコウイチロウはアゴウの足元を見ていたのでスキルは空振りに終わった。
「必殺!
アゴウの体は砕け、核が残った。
「ふぅ、後始末をして帰らないとな」
――こうして、アムゼネスでの星の一族の野望は絶たれた。
コウイチロウはアルデオサ族とガオウの前で『変化』を解き、自分はこの星の生き物ではない事。ある悪人の野望が砕かれた顛末を話した。もちろん、ガオウのいきさつは除いて。
「そうじゃったか……」
「コウイチロウ様の姿も素敵♡ なのにもう行ってしまうの!?」
「一生会えないわけじゃないさ。またいつか会える!その時までこの星はお前に託していいか? ガオウ」
「外ならぬコーウ様の命とあらば」
ガオウは少し笑って答えた。
「じゃあな! みんな! あまり無益な殺生はしないように!」
「さよーならー!コーウ様ー!」
少し離れたところでコウイチロウはライザに連絡した。
「ライザ! 惑星アムゼンでのミッション完了だ!転星を頼む!」
「残念! あと二日待ってくださーい!」
…………あ、1ヵ月の制約忘れてた。
その後、みんなの下に戻り、死ぬほど気まずい二日間を過ごしたコウイチロウであった……。
惑星アムゼン編 完
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