第10話 出たぞ!恐怖のガオウ襲来!そして……

「さて、目は覚めたか? キラル」

「ちくしょー! なんであたしがこんな奴にやられちゃってるのよー!」

「キィーッ! 悔しい悔しい悔しいー!!…………でも好みのタイプ♡」

バモウは不思議なものを見る目でキラルを見つめていた。


一瞬でやられたせいかキラルは自分の敗北を受け入れられずにいたが、置かれている状況を鑑みるにどんな手段であろうと自分は『負けた』のだと認識せざるを得なかった。……少し余計な感情も上乗せされているようだが。


「何よ! アタシの部下もみーんなやられちゃってるじゃない! あなたもしかして本当に強いのかしら!?」

「ガオウがどんな奴かは知らないが諦めて俺の配下になれ。なぁに、別に奴隷にしようとかそんなことは考えて無い」

「ふっふーん。まぁ、いいわ。あたし、あなたの事気に入っちゃった♡ コレはあなたのモノよ♡」

そういうとキラルは自分の尻尾を1/3切り落とした。コウイチロウはいまだにこの儀式に慣れないのかサッと目を背けた。


「というわけで、あたしと部下15名。あなたのお世話になるわ♡ 族長、お名前は?」

「コーウだ」

「コーウ様♡ 素敵なお名前♡」

「ところで、ガオウという名の族長についてなんだが」

「そうくると思ったわ……そうね、一言で言うと『強い』」

キラルは先ほどまでのおどけた口調を止め、真面目な顔で語った。


「あたしを含めて大陸中の腕自慢500人程は悉くイオギリに、配下5,000人はニオギリ、オギレまで含めるとその数は把握しきれないわ」

「イオ……何……?」

「あら、あなたガオウ様みたいなこと言うのね」

「イオギリは一度の敗北。ニオギリは二連敗、オギレは尾無しよ」

共通言語とは言うものの現地にしかない概念は意味が通りづらいようだ。コウイチロウはこの先の苦労に思いを馳せた。


「ま、あたしもコーウ様にニオギリにされちゃったから後がないわよね」

「ともかく、戦闘民族を従える器なんだからあなたもガオウ様に……あらヤダ。主はもうコーウ様だったわね♡ ガオウに歯向かうなら相応の覚悟をすることね」

「ありがとう、キラル。俺は負ける気はないよ」


あらっ!あらあらっ!何この感情♡ 服従とは別についていきたい気持ちになっちゃう♡


キラルはコウイチロウの「強さ」に惹かれたのだろうか。それとも戦闘民族の中で何かが変わり始めているのだろうか……。それはまだ謎である……。


ところは変わり、こちらはガオウの村。

「キラルが戻らないというのは本当か?」

「はい、アルデオサ村襲撃を境に部隊全てが未帰投となっております」

「アルデオサには有力な戦士がおったのか?キラルがやられる程となると記憶に残っていそうなものだが……」

「左様でございますね。目ぼしいところではバモウなどかと思いますが部隊全滅となると果たしてそれほどかと……」

「よし、ここは消耗戦と行こう。ただし、半端な戦力ではアルデオサにオギリされる可能性がある。オギレのものを選りすぐって波状攻撃だ!」

「御意にございます――」





「――なあ、バモウ!」

「なんじゃ? コーウ殿!」

「ここのところ毎日」

「なんじゃて!?」

「ここのところ毎日! 襲われて! いるようですけど!!」

コウイチロウの鼻先を矢が撫でた。

「そうじゃの!」

「アルデオサの村に来てから1週間!」

「シュウカンてなんじゃ!」


あ、そうか週の巡りが7日とは限らないんだった!


「7回寝たろ!」

「そうじゃ、な! と」

「この辺りはいつもこうなの おわっ!と こうなのか!?」

「いや、ここのところ明らかに増えておる!そこのがよく知っとるじゃろ!」

「二人とも! 口閉じてなさいな! えいっ!」

「あ、また……!」

コウイチロウはなるべく気絶させるように気を付けて戦っているのに、重傷を負ったものは構わず自刃して果てていくので、やるせない気持ちになっていた。


「ガオウ! 直接闘えーーーっ!!」

叫びもむなしく、今日も倒した敵の半分以上は自ら命を絶った。


「これは……アルデオサが的にかけられとるようじゃの」

「バモウ。キラル。俺は直接バモウに会いに行く」

「無茶じゃ!」

「そうよ! 敵はそれこそ何万いるかも見当つかないのよ!」

「それは闘いとは言わん! ただの自殺じゃ!」

「全員を相手にする気はないさ。どうにか幹部クラスだけ倒せないかな。そうすればオセロのコマは一気にひっくり返る」

「「オセロ?」」

二人は声を合わせて聞き返した。


ああ……説明が面倒だ……。


「とにかく、配下の多い村のボスだけを狙う。ある程度数の利が傾いたらガオウと直接対決といこう。キラル、その辺は教えてくれるな?」

「あたしはコーウ様に死なれるのはいや!」

「大丈夫。秘密にしていたが俺には全く同じ力を持つ仲間が四人いるんだ。無茶はさせない。ヒットアンドアウェーでいこう」


「「ヒッタン?」」


ああ……あぁ……。


その日からコウイチロウは『分身』を駆使してガオウ軍の幹部の村を攻めた。

コーウと同じ顔だとバレないよう、分身には仮面をつけて。

さすがに大幹部ということもあり、苦戦することもあったが、コウイチロウ二人がかりで倒せない敵はいなかった。



その一方で……

「ガオウ様、コーウの配下かと思われます」

「そうか、私が出る。」

「ご武運を」

「……フン、この程度の雑魚ども。直ぐに戻る」

「では、昼餉ひるげをご用意してお待ちしております」

「今日は肉の気分だ」

「御意に」



肥大したアルデオサ族は着実にガオウ軍に対して勝利を収めていったのだが、コウイチロウとは別の部隊がついにガオウと相対し、その部隊は容赦なくみなオギレとされたのだった……。


「やはり、ガオウ。一筋縄ではいかんようじゃの」

「ああ。だが、俺たちの仲間も増えている。もうすぐだ!」

「仲間……か」

「どうした?キラル」

「あたしたちは今まで家族、配下、敵しか知らなかった。それはガオウの下でも同じ。でも、コーウ様は『仲間』を教えてくれた。なんだか不思議な感覚なのよ」

「楽しく過ごせる毎日が一番だ! それは間違いない」

キラルはバオウと目を合わせ、笑った。

「そうじゃな、それがいい」


――そうだ。それが一番だ。きっと。

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