第9話 迫る脅威!アルデオサ村の攻防!!

「……えー…。という訳で俺がこのアルデオサ族の族長? ということになりました。元々チ・キウ族を名乗っておりましたが色々ややこしいので皆さんはこれからもアルデオサ族として生きてくださって構いません。村の名前もアルデオサ村です。頑張っていきましょう!」


「族長のご意志のままに」

バモウは一族およそ100人の前に立ち、コウイチロウに跪いた。


コウイチロウはざっと一族を見渡したが、やたら鋭く睨む者がいる以外は大した混乱も動揺もなさそうなのは、こうした光景を繰り返して部族が形成されていったからなのだろう。


バモウが一族から数人を呼び出し、コウイチロウの前に並ばせた。

「向かって左からウモン、ウモイ、アゴウ、ガマド、ガムラじゃ」


コウイチロウは混乱しそうなので装飾品や腰帯の色の違いで覚えることにした。


「ウモン、ウモイはワシの子。アゴウ、ガマドはワシが打ち倒した一族の族長。ガムラはガマドの妹じゃ」


先ほど鋭く睨んでいたのはアゴウとガマドの両名だ。察するに自分が倒された者をさらに倒した者がやってきたのだから、自らの地位が一層低くなる事は明白。いい気分でないのは当然と言ってもいい。コウイチロウにとって意外だったのはウモン、ウモイの反応だ。自分の親が一族の恥となる傷を受けて帰ってきたのに恨んだり非難する様子が無い。


「ウモン、ウモイ、アゴウ、ガマド、ガムラ。族長にご挨拶を」

「族長。ウモンです。以後お見知り置きを」

「族長! ウモイです! わが母を打ち倒したその力でどうか俺に修行をつけてください!」

「……アゴウ。宜しくお願い致します」

「ガマドです。楽しみにしております」

(楽しみにしている……?)

「ガムラです。姉と同じく。存分にやりましょう!」

(何か猛烈に悪い予感がする)


「族長。こいつらには挑戦権がある」

バモウが不穏なワードを放った。

「ウモン、ウモイ、アゴウ、ガマド、ガムラ! 挑戦はいつにする!」

「我々は今回は止めておきます。バモウが勝てなかったのですから」

ウモンとウモイはそう言うと一歩下がった。


「……私はいずれ」

アゴウはサッと振り向くとどこかへ歩いていってしまった。


…………?


「我々は今この時にでも!」

ガマドとガムラはそれぞれ槍を構えた。


「よし。では、ワシが立ち会いじゃ。存分に闘い、武勇を示せ!」

「ちょ、ちょっとバモウ。いいか?」

「ん?なんじゃ」

「これってやっぱり……闘う事に……なるの?」

「何をとぼけたことを言っておるんじゃ、服従をかけてコクギをやるのは当然じゃろう」

「ちなみに、ガムラ!貴様は今回負けるとオギレじゃ!わかっておるな?」

「……はい!」

「……オギレ?」

「アムゼネスにとって3度以上続けての敗北は許されん。3度目の敗北は即ち死かさもなくば死ぬまで奴隷じゃ。当然じゃろ」


バモウはガムラの尻尾あたりを指差して言い放った。

確かにガムラの尾はあと一回切るのが限界だろう。


「ちなみにオギレ寸前の者に負けるような弱者は当然立場が入れ替わる」

(はあ……なるほど……)

「ワシらの尻尾は他人の尻尾を継ぐ事が出来るからの。ワシもどこぞの部族の族長を狩って元の立派な尻尾に戻してやるわい」

「尻尾が健在のまま相手を打ち倒した者はお主のように腰に尻尾を括り付けておる。多ければ多いほど強者という事じゃな」


(血気盛んな住人だと思っていたがここまでとは……)


「バモウ殿、そろそろ始めてよろしいか?」

「よし、ではガマドからじゃ!始めい!」


コウイチロウの理解が頭に浸透する間もなくコクギとやらが始まってしまった。


(ガオウとやらに挑むのなら味方?は多い方がいいよな)


コウイチロウはバモウ同様、相手が死ぬことがないように手加減をして倒した。

そして、(不本意ながら)相手を服従させていった。


「むぅ……。見事じゃ! コーウ殿!」

「く、うぅ……」

ガマドもガムラも瞬殺されたせいか悔いは無いように見える。しかし、『オギレ』となるガムラの事をコウイチロウは複雑な気持ちで見ていた。


しかし、こんなことを繰り返していてこの種族に発展はあるのだろうかとコウイチロウは他星の事ながら心配になっていた。


(いっそ、別の種族に支配された方が平和になる気も……いや、支配する者が好戦的だった場合、惑星規模で他星に殴り込む危険な種族にもなりかねない……)


コウイチロウが思いを巡らせているとウモイが食事の用意が出来たと伝えてきた。異星の食事というレアなイベントをコウイチロウは緊張の面持ちで待った。


(『変化』で体の構造そのものはアムゼネスになっちゃいるが、とんでもない料理が出てきたらどうしよう。下手したらなんて概念すらないかもしれない。生の虫だの肉だの食べられるのか……?)


運ばれてきた料理はコウイチロウの予想に反して調理されていた。肉こそ何の肉だかわからないが、『変化』したコウイチロウの鼻にとってはステーキも同然の香りが鼻孔(?)をくすぐった。


「コーウ殿にはたくさん子供を産んでもらわんといけませんからな!」

コウイチロウは口から謎の草のサラダを吹き出しそうになった。


(そうか……この一族の『産み手』は族長である俺、ということになるのか)


コウイチロウが不思議な感覚に包まれたまま食事を続けていると、アゴウが

血相を変えて走りこんできた。


「族長! て、敵襲です!」

「何じゃと!? コーウ殿!」

「ああっ! 急ごう! 敵の場所は!?」

「村の南側です!」

「また、ババリサ村の連中か!」

「ババリサ?」

「この村に一番近い村じゃ! ガオウの一族となってからは襲撃の頻度が増しておる!」

「ガオウの手下か! ならば削るのは有効だな!」


コウイチロウはそう言うと走る速度を上げた。


村の南側の広場に着くと既に戦闘は始まっていた。その中に一際目立つ……というか異常な数の装飾品と木の実でもすりつぶしたのだろうか、真っ赤な口紅のような化粧をしたアムゼネスが立っていた。


「ヒャーハハハッ! 殺せ殺せ! 少しでも才能の有りそうなものはオギリさせるのよ!」

「このガオウ様特別隊のキラル様に服従を誓わせるのよぉ!」


……性別の区切りは無いもののなぜかの気配がするその敵はキラルと名乗った。


「お前がこの部隊のリーダーか!?」

「あら、素敵な娘♡あなたもアタシのしもべにしてあげるわ!」

「クッ、なんかやり辛い!」

「お前を倒せばこの部隊はアルデオサの配下だな!」

「やれるものならね!」

キラルは蔦を寄り合わせ、縛り上げた鞭のような武器でコウイチロウを攻撃した。


「ホーホホホ! この鞭の動き、見切れるかしら!?」

「なんの!」

コウイチロウはキラルの手元の動きから変則的な鞭の動きを予想し、キラルの懐まで飛び込んだ。

「うらぁっ!!」

鋭い一撃はキラルの鳩尾みぞおちを仕留め、そのまま気絶させることに成功した。


「よし、今からお前たちはアルデオサ村の配下に入ってもらう!全員戦闘をやめておとなしくしろ!」

コウイチロウの呼びかけに対しキラルの配下達は予想外にもそれぞれ手にしたナイフや槍などの武器を自らに向けて構えたのだった。


「ま、待て! オギリさえすれば命は助かるんじゃないのか!」

「我らは偉大なるガオウ様の配下。他の誰にも服従する気はない!」

「クッ! クソッ!!」


コウイチロウは自分でも気付かぬ内に『分身』を発動させ、高速でキラル配下達の

武器を叩き落とした。


「お前たちの命は俺が預かる! 1対1で打ち倒してでも俺に従ってもらうぞ!」


そう叫ぶとあっという間に全ての配下達を気絶させ、あとはアルデオサ村の面々に縛り上げてもらった。


(それにしても部下にここまでさせるガオウというのはいったいどんな奴なんだ……)


コウイチロウは今後の作戦を考えるべく、アルデオサ村の集会所へバモウと共に戻るのだった……。

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