~惑星 アムゼン編~

第8話 ホシザキ コウイチロウここにあり

初っ端しょっぱなからなんて所に来ちまったんだ……」


この星に来て地球時間で1週間が経とうとしていたが、コウイチロウは安易で安直な自分の考えを激しく後悔していた。




コウイチロウが転星システムを起動した直後の事。コウイチロウはまばゆい光に包まれ、あまりの眩しさに目を閉じた。そして次の瞬間目を開けるとそこは鬱蒼うっそうとした木々の立ち並ぶまさにジャングルと呼ぶにふさわしい場所だった。


「すげえ……これが転星システムか」

文字通り瞬く間に秘密基地から星へ移動したのである。時間にして0.3秒ほどの出来事だろうか。


感心していたのも束の間、鋭い刃先を持った槍のような物体が顔の横を掠めた。

「え……」

コウイチロウの頬にうっすらと血が滲む。


「なんじゃあああ! 貴様は! 見慣れぬ姿をしおって!!」

「しまった、まだ〈変化〉していない…っ!」

「ワシはアルデオサ族の族長、バモウじゃ! 早速じゃが死んでもらうぞ!」

バモウは軽快に森の木々を飛び回るとコウイチロウに蹴りを入れ、隙をついて先程投げた槍のような武器を回収した。


「ま、待て!」

「待たん! 死ねっ!」

「話を…! 聞いて…、くれ…っ!」

コウイチロウはバモウの槍をかわしながら説得を試みたがバモウは聞く耳を持たない。


地球人の姿では説得は無理か…。なら…っ!


「クッ……! 許せっ!」


コウイチロウはバモウの腹を蹴り飛ばすとバモウが吹っ飛んだ方向とは逆に全速力で駆け出した。絡まる蔦やひどく粘着質な葉っぱを掻い潜り、コウイチロウはひたすら逃げた。


遠くからバモウがコウイチロウを探す唸り声が聞こえたが、とにかく声から遠ざかるように走った。


「はぁっ、はぁっ、ここまで来れば…」

コウイチロウは太い木の幹に寄りかかり、変身を試みた。

「変…身…! ……でいいのか?」

コウイチロウの姿がみるみる変化し……

現れたのはスターレッドだった。



違う……! コレジャナイ!!



コウイチロウは座学の時に受け取った通信機のボタンを押し、ライザに連絡を取った。

「はいはーい。みんなのアイドル、ワンダーライザちゃんに御用ですかー。」

「今、そんな軽いノリの場面じゃない。今すぐ『変化』スキルの使い方を教えてくれ!」

「私の話を聞かずに飛んでっちゃうからですよーだ」

「頼む!着いた途端に現地人に襲われて今しがた撒いたところなんだ!」

「といっても『変化』に特別な条件はないぞ? ……と思ったけどコウ、あれか! スターレンジャーやってたのか! 『変身』と『変化』が少しコウの中で整理できていないかもしれないな」

「言われてみれば……。実際、今スターレッドになっている訳だが」

「だったら変身とは別の合言葉を自分の中に設定してみたら?ムー●プリズムパワー・メイクアップ!とかプ●キュア・メタモルフォーゼ!とか」

「なぜ女子の変身ワードばかり……」

「しかし、メタモルフォーゼというのはよさそうだ。これからは『変身フォーム・チェンジ』と『変化メタモルフォーゼ』で使い分けよう。ありがとう!」

「ほな、またー」ブツッ…


俺は、ツッコミじゃない。ツッコまない……!


「ともかく、『変化』を試してみよう。『変化メタモルフォーゼ!』」

コウイチロウの姿が先ほど出会ったバオウと同様、トカゲと人間のハーフのような姿に変わっていく。

「鏡が無いからよくわからんが腕や下半身の感じからいって成功のようだな」

しかし、コウイチロウは一つの、いや、いくつかの違和感を覚えていた。


さっき襲われたバオウにしてもそうだが、この胸は一体なんだ。まるで……


そう、コウイチロウは違和感の正体をすでに知っていた。


これじゃまるで女体じゃないか……!

コウイチロウの姿は皮膚の質感や長く伸びた尻尾を除いて、人間でいうところのと言っていい姿になっていた。身に着けているものと言えば水着を金属に置き換えただけのような胸当てと腰巻、皮のパンツで、後は貝殻なのかセミの殻なのかよくわからない生き物の殻をつなげた装飾品類だけだ。


雌雄がないってのは、雌しかいないって意味だったのか……?


まぁ、いい。とりあえず、バオウに会えば村なりなんなり辿り着けるかな?族長とか言ってたし。


コウイチロウは、先ほどとは逆に誰かに会うために動き出した。


先ほどバモウを蹴り飛ばした辺りをうろつくこと30分少々。ついにお目当ての人物と遭遇することに成功した…のだが、


「なんじゃあああ! 貴様は! どこの部族じゃ!」


しまった……、設定を考えてなかった。ごまかせるか!?


「チ・キウ族のコーウです!」

「ワシはアルデオサ族の族長、バモウじゃ! 早速じゃが死んでもらうぞ!」

「………え?」

バモウは軽快に森の木々を飛び回るとコウイチロウに蹴りを入れ、槍で攻撃を繰り出してきた。


「ちょ、ちょっと! 仲間でしょ! 仲間! 姿よく見て!!!」

「知らん! ワシの家族以外は敵じゃ! ワシより弱い者は動く障害物じゃ!」

「なんじゃそりゃ!」

「話したくば戦え! 従わせたくば闘え!」

コウイチロウはこのアムゼネスという生物の生き方を垣間見た気がした。


「ならば、俺の実力を示す!」

肉体的な強化はスターレンジャーからの引継ぎを受けているようで、バモウとも対等以上に闘える。あとは勝利後の展開がコウイチロウの思惑にハマるかにかかっていた。


コウイチロウはバモウの槍をことごとく避け、両手に力を集中した。

「喰らえ!(ちょっと手加減)鉄・拳・星・砕クランブル・フィスト!!」

「ぐあああああっ!!」


バモウが目を覚ますとコウイチロウが横に座ってくつろいでいた。

「なぜ…殺さん! この世界の掟は『弱死強生』! 強き者は生き、弱き者は餌にもならん! ワシを殺せばアルデオサ族はお主のものじゃ! 首を持って行け!」

「バモウ……あんたの命は俺の自由にさせてもらう。生きるも死ぬも俺の自由だ」

「くっ……、そういう事なら仕方がない……グッ……!」

バモウはおもむろに自分の尻尾を1/3ほど切り取った。

「えっ、何してんの」

「何ってオギリじゃろがい。さぁ、腰に括り付けろ」

コウイチロウは展開についていけず目を白黒させた。

「なんじゃ、お主。オギリも知らんし、変な技も使うしガオウみたいな奴じゃのう」


「ちょ、ちょっと戦い続きで記憶が……ハ、ハハハ。ところでそのガオウってやつは変な技を使うのかい?」

「ガオウはこの星一番の強者じゃ。10年ほど前に突如頭角を現し始め、瞬く間に500もの部族を従えおった」

怪しいな……星の一族か……?

「奴と戦ったものは皆気が付いたらやられておったという事らしいが」


漠然としていてスキルだとしたら特性がつかめない。やり合うには時期尚早か……


「ところでオギリってなんだっけ?」

「お主、敗者に説明させるとは酷な奴じゃな」

「悪い、記憶が曖昧で……」

「簡単に言うと服従じゃ。この尾は我らアムゼネスの誇り。それを切られた者は恥さらしとして自ら命を絶つか切った者に絶対服従せねばならん。ワシの生殺与奪はお前に握られているので自ら首の代わりに尾を差し出した」


なんちゅう星だ……


「なるほど! 思い出してきたぞ! ありがとう!」

「ワシが服従するという事は、一族の者も同じく服従ということじゃ。ついてこい。村に案内する」

「バモウ、一つ聞きたいんだが、村のみんなこんな姿なのか?」

「? 当り前じゃろ」


コウイチロウはバモウに導かれるまま、アルデオサの村を目指した……

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