分身
籔田 枕
推奨年齢 十四歳〜
去るころ、ある
忍者は、名を文太と云う。
文太は遊ぶのが大好き。文太がいつものように遊んでいると、
「ぶんた、 ぶんたが いつも げんきに あそんでくれるから、 おとうさんは うれしいよ。 でも、 ぶんたが しゅぎょう してくれたら、 おとうさん もっと うれしいな。 しゅぎょう、 できるかな?」
「できるよ!」
文太は元気よく
ところが文太は松の木の下に来るなり、すぐさま遊びたくなってきてしまった。
「しゅぎょう する よりも あそびたいな。 なに して あそぼうかな。 カエルと いっしょに ラーメン たべようかな? ヘビに のって そらを とぼうかな? ニワトリと いっしょに バレエ しようかな?」
あれこれ考えるうち、文太はよいことを思いついた。
「そうだ! ぶんしんを よんで、 ぶんしんには しゅぎょう してもらって、 ぼくは あそべば いいんだ! ぼく てんさいかも。 ウッシッシ!」
文太は早速手を組み大声を上げた。
「にんぽう ぶんしんの じゅつ〜!」
どこからともなく煙がもくもく立ちこめて、いつのまにか文太の隣には、なんともうひとりの文太がいるではないか。
「やあ、 ぶんしんの ぼく」
『やあ、 ほんものの ぼく』
「きょう きみを よんだのは、 ほかでもない。 ぼくの かわりに しゅぎょうを してほしいのさ。 ぼくは むこうで あそんでいるから、 しばらく したら、 よんでおくれ。 それじゃあ たのんだよ」
『なあ まてよ きみ。 その しばらくって、 どのくらいさ』
「しばらくは、 しばらくだよ。 あとで かわってあげるから、 また あとで よんでおくれ。 それじゃあ たのんだよ」
『なあ まてよ きみ。 その あとでって、 いつさ。 なんだか しんじられないな。 ためしに いま かわっておくれよ』
「なんだ じぶんが しんじられないってのかい」
『なんたって きみ だからね』
「なんて しつれいな やつ。 もう おこったぞ!」
云い争いの
「いてて、 タンマ、 タンマ。 まさか きみと こんな けんかに なる なんて おもわなかった」
『ぼくを だまそう なんて できっこないね』
「わるかった。 たのむから、 もう きえておくれ。 しゅぎょうは ぼくが やるよ」
『わかれば よろしい』
どこからともなく煙がドロンと立ちこめて、いつのまにか文太の分身は消えていた。
気が付けばあたりはもう夕方になっている。こうして文太は結局、遊ぶのも修行するのも、できなかったと云う。
おしまい。
「おもう ように いかない ときも あるさ。 だいじょうぶ、 つぎは きっと うまくいく」
「ありがとう。 おとうさん」
分身 籔田 枕 @YabutaMakura
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