第129話 神との闘い
「全騎士防御に徹せよ。戦いの余波から街を護れ‼」
「「ハッ‼」」
騎士たちは盾を構え、武闘家たちは肉体強化を施し、魔術師たちは結界を張る。
圧倒的な強者同士の戦いを前に、その余波から護るのが精いっぱいであることをよく理解し、自分たちにできることに全力を注ぐ。
「疑うな。今までの全ては無駄ではなかった」
ロウレイの大盾が白い光を纏う。
そして騎士団員たちもまた白い光に包まれた。
「さぁ、すべて護り切って勝利しよう」
防衛の用意は整った。
あとはベルが神を相手に勝利するだけだが…………。
「ベル⁉」
爆発が起きたと見まごうほどに大量の土を空高くまで舞わせ、ベルが結界のすぐそばに勢いよく飛来した。
深くえぐれた地面に頭を押さえながら寄りかかるようにして顔を上げる。
迫りくる腕を見るや空間を掴むようにして横に払う。
腕の軌道は逸れ、雲に大きな穴をあけた。
ベルは立ち上がりながら腕だけの神が立っているであろう地面ごと宙へ浮かべると、すさまじい衝撃をぶつけ遥か彼方まで吹き飛ばした。
「いちいち街の方にぶっ飛ばさないでほしいもんだな」
そう呟き息を吐くと、吹き飛ばした神のもとへ転移した。
着地前、身動きのとりづらい神めがけて蹴りを放とうとするが、反撃の拳に気付き再び転移し背後に回り蹴りを放った。
しかし握られた拳は先程の位置に向けて放たれたにもかかわらず、一瞬にして次の動きをはじめベルの蹴りを防いで見せた。
しかしここは空中であり足場はない。
神は地面にたたき落されることになるが、神が落ちるよりも数瞬早くベルは魔術を行使した。
空に浮かぶは塔ほどの巨大な光の矢、神を取り囲むは光の格子。
放たれた光の矢が神を穿つよりも早く、神は地上に降り立った。
放たれた拳が光の矢とぶつかり、そして光の矢を消し飛ばした。
空を浮かぶベルもまた、その衝撃を防ぎきれず右腕を消し飛ばされ地面に落ちる。
「俺はほかの神々とは違う。人の滅びを、世界の滅びを、楽しいと感じられるだけの感情がある。だが、今初めて知った。これだけの制限をすれば、終わりではなく戦いを楽しむことができると」
倒れるベルに神は語る。
「感謝しようソロモン、我が権能を封じたことを。感謝しようベル、我が肉体の顕現を止めたことを。ありがとう二人の魔術師、俺に新たな娯楽を教えてくれて。そしてさらばだ、すぐに他の者も送ってやる」
神は拳を握る。
今まで以上に強く力を込めて。
正真正銘、ベルを殺す最後の一撃。
「ベル。覚えておこう、貴様の名を」
弱いな、私は…………。
ギルティであれば勝てた相手だ。
アマデウスであれば勝てた相手だ。
二人とは違う、託すことをしない正真正銘の最強?
私はその二人よりも劣っていたというのに。
これではだめだ。
ここで終わったら、託す未来すら残せない。
「……………………」
防ぐすべもなく、ただ諦めたくないという思いだけで立ち上がろうとするベル。
無情にも放たれた神の拳は、今までの攻撃が児戯であったかのように思えるほどの衝撃を放つ。
思考を巡らせ、対策がないことを理解しながらに結界を構築し気合で耐えようと目を見開いたその時、視界の先、神とベルとの間に大盾を持った騎士が割り込んできた。
騎士は赤黒い光を纏う大盾を地面に突き立て、神の攻撃を正面から受け止める。
「ロウ…………レイ…………」
大盾の騎士の防御力は規格外たるベルが認めるほどのもの。
だがしかし、今大盾の騎士はベルの想像をはるかに超えて、神の一撃を正面から防ぎきってみせた。
「な、な、何者だ‼その力は、神の…………」
動揺しながら後ずさる神をロウレイは見つめて答える。
「いいや。私はただの人だ。どちらの私にも神の血は一滴たりともまじってはいない」
ロウレイの盾が纏う光は赤黒いものから白いものへと戻るが、盾を持つ右腕に装備された甲冑は赤黒く変色していた。
「お前が何者なのか俺にはわからない。だが、この世界を護る結界を張ったのはお前なのはよくわかった。そして今の力、これはもう遊びじゃねぇ、お前を殺すのは娯楽でも何でもない、神としての仕事だ」
「ベル。私はただ護るだけ。それはよく理解しているね?」
ロウレイは神を無視してベルに語り掛ける。
「彼を倒すという選択を取るのなら、君が倒さなければならない」
ロウレイは振り返りベルの目を見る。
「ベル、もう大丈夫だね?」
背中を向けて隙だらけのロウレイを狙う神の動きが、今はとても遅く感じられた。
放たれる拳を、ロウレイは新たな結界によってその威力をそのまま相手に跳ね返した。
遥か彼方まで吹き飛ばされる神からロウレイへと視線を変えベルは答える。
「ああ。悔しさで自分を殺してしまいそうだ、もう慢心はない。今度こそ必ず勝つ、だからロウレイ、見ていてくれ」
「任せたぞ、我が団の最強」
落ち着いている。
それでいて感覚は今までにないほどに研ぎ澄まされている。
「反撃開始だ」
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