第119話 ベルvsブルーノ

「では開始の合図は私がしよう」


長髪の男が壇上に上がる。

二番隊隊長の魔術師シモン。


「準備は良いか?爆発が合図だ」


二人の返事を聞きシモンは二人の間に火の玉を出現させ、それを爆ぜさせた。

爆発以上の音をさせて爆炎の中を突き抜けてきたのはブルーノ。

一気に距離を詰め勢いを全て乗せて拳を振り抜く。

ベルはその攻撃を倒れるようにして避けるが、避けたのを確認したブルーノはすぐさま腕を振り下ろす。

ベルの動きは避けたというよりは本当に倒れるようであった。

力を抜いて、ただ倒れただけとそう思えるものであった、しかしベルはふわふわと軽やかな動きで空中で身体を回転させるとブルーノの攻撃を避け、ブルーノの肩を蹴って距離を取った。


「避けるだけじゃ終わらん―――——‼」


ノーモーション、振り返る事すらせずに突如として巨大な石柱が射出されブルーノを襲った。

地面に跡を残し数メートル押されるブルーノだがその肉体には傷一つない。


「早いが脆いな」


距離を詰め殴り掛かる。

単純で一辺倒なブルーノの攻撃は、その威力と早さを以て一撃必殺にまで昇華されていた。

しかし


「殺さないのも、難しいものだ」


対峙する魔法使いは人の規格を超えていた。

全く同じ動きでブルーノの拳に自身の拳をぶつけ、単純な力比べで圧し勝つ。

殴り飛ばしたブルーノの着地を狙い追撃を行う。

体術戦という相手の土俵に立ち圧倒する。

それこそが実力を認めさせるもっとも簡単な方法だと結論付け、一気に勝利へと突き進む。

最短で防御に使うための腕を払い右肩に踵落としをして沈める。

そこから流れるように胸を蹴り飛ばした。

そして最後には魔法使いたる証明を。

射出された石柱はブルーノの額に激突し仰け反らせる。


「効かねえって……」


「知っているとも」


体勢を戻し視線を戻すと、目の前まで炎が迫っていた。

防ぐのは無理と理解し避けるが避けきれず右腕が焼け焦げる。

感覚がない、動かない、たった一撃で利き腕を潰された。

頑丈さが取り柄の男の肉体は一瞬にして大きな傷を負った。


「敵であれば両腕を失おうと脚だけで、脚がないなら噛み付いてでも戦うところだが、お前は敵じゃない」


ブルーノから闘志が消えていく。

ベルに近付くとブルーノは跪く。

使い物にならない右腕をだらんと下げて跪く。


「数々の非礼を詫びよう、ベル。お前の力はその理想に見合うものであった。その実力は団長の下で振るわれるに相応しいものであった。ベル、お前がこの騎士団の副団長だ」


その豹変ぶりに驚いているベルの下にロウレイがやってくる。


「君は彼にこれ以上ないほどに認められたんだ。それこそ、予定もしていなかった副団長の座に座らせようとしてくるくらいにね」


「けれどさすがに彼一人の意見では副団長なんて決められないだろう?」


「いいや。私と違って彼は厳しいからね、彼にまで認められたのなら皆君を信じてくれるさ」


観戦していた団員たちが次々と敬礼していく。


「そう…………ならまずは、騎士団にとって大きな戦力を失うわけにはいかないからね」


跪くブルーノの右肩に触れる。


「治すとしよう」


黒こげの右腕は一瞬にして完治した。

観衆の最前列でシモンが苦笑いを浮かべるのが見える。

この戦いにおいて最も力の差を思い知らされたのは他の誰でもない、この騎士団で最も優れた魔術師のシモンであった。

全てにおいて自分よりも上をいく天才の登場、苦笑いも浮かべたくなるもの、けれど、その程度で腐る程、二番隊隊長は弱くはない、団員たちは弱くなどない。

圧倒的な強者の出現は、騎士団員たちをより一層強くする。

団長ロウレイが信じたとおりに。

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