第118話 一番隊隊長ブルーノ
「今日は新入団員を紹介する」
皆が静まり返る。
団長自ら紹介するなど前代未聞であったから。
「彼は魔法使いのベル。私直属の部下だ」
「団長、そいつはいくら何でも」
上半身裸の筋肉の塊のような大男が席を立ち意見を述べようとするがそれをロウレイは制する。
「反論のある者も多いだろう。けれど、彼の実力とその理想は他の者を呑み込みかねない。私以外の下に付けるのはあまりにもリスクがあると判断した」
「…………そうか、団長がそこまで言うのならしょうがない。けどな団長、そいつが団員たちに示して、認められてしないと結局のところ何も解決しやしない。だからよベルとやら、お前はここで理想を語れ、そして俺と戦い実力を示せ」
「待て待て、それはいくら何でも」
「ロウレイ、いや、団長。止める必要はない、私は必ず私を認めさせるから」
「そう言う話では」
「私の理想は世界を救うことだ。団長が、騎士団が、戦わなくても、護らなくてもいい平和な世界、それが私目指すものだ」
堂々とベルはそう宣言した。
恥ずかしげもなく救世を宣言した。
その姿に男の空気が変わる。
「お前ら、こいつの理想を笑うんじゃねぇぞ。子供の見た夢みたいな理想だが、その理想は紛れもなく俺らに対する優しさだ。それで護れるならとその身を差し出した俺達に対する優しさだ。俺達だけは絶対に笑っちゃなんねぇ、わかったな」
この場の空気ごと重くするような声に騎士団の者たちはいっせいに敬礼する。
張り詰めた空気の中、男はベルの前までやってきてその身長差から見下しながら口にした。
「ベルっつったな。確かに、お前の理想は誰かの下につくにはデカすぎる。団長の直属の部下になるのも納得だ。けどな、団長の右腕ならばそれ相応の実力がいる。俺に、この一番隊隊長ブルーノに勝ってそれを証明しろ」
ざわめく団員たちをブルーノは一睨みして静める。
「こいつはそれはもうデカい理想を語った、だが実力の伴わない理想などそれこそ子供の夢だ。夢を見るだけの子供に、団長の右腕になる資格はねぇ、この団に入る資格もな」
「大丈夫、私は君よりも強いから、団長よりも強いから、必ず護るとも。団長は、君達は、この世界に必要だ。私一人が生き残っても何の意味もないから、私の命に代えても君達は必ず護るとも」
「…………そうかよ。それじゃあ外の訓練場で待ってるから、準備ができたら来い」
ブルーノの後を追ってベルもまた外へ出る。
戦う覚悟など必要ない。
勝てることはわかりきっている、今はただどうすれば認めてもらえるか、ただそれだけ。
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