第91話 知らぬ街
「…………君は誰?」
建物の中には誰かがいた。
ビル立ち並ぶ街には似合わないドレス姿。
「あなたがギルティちゃんね、市長から話は聞いているわ。あなたのお世話係に任命されたココよ。この街ではものづくりギルドの社長として服とか…………」
身体を回転させスカートをひらりと舞わせると、ギルティに向かって蹴り上げた。
届かないことも攻撃の意思がないことにも気付いていたギルティは一切動かず見つめていたが、靴の裏を見て少しだけ瞳が動いた。
「仕込み武器なんかも作ってるの。この街じゃ、女も強くなくっちゃ生きていけない。あなたみたいな子供にこの街で、それも殺し屋として生きていくだけの力があるの?」
「子供扱いするのなら、実力を測りたいって、子供にもわかりやすいよう言ったらどう?」
「じゃあ、やってみなさい」
張り詰めた空気の中、ココが小さなナイフを投げた。
それは攻撃というにはあまりに遅く、ギルティにこのナイフで私に攻撃を中ててみろと言っているようであった。
ギルティは回転するナイフの切っ先に触れる軽く弾き、回転を強め個々の背後の壁にナイフを突き立てた。
「君は僕の殺しの現場を見ている、知りたかったのは僕の実力じゃない。僕が、騙されない人間かどうかだ。あのナイフには何が仕込まれてるの?毒?」
何も言わず、ココはドレスグローブを外すと壁に刺さったナイフを握った。
突然突き出した刃がココの手を貫く。
「生物が直接触れると刃が飛び出る仕掛けよ」
「実践を、それもわざわざ片手を潰すような傷を負う必要はなかったはず」
ココはナイフを机に置き血だらけの手を見つめると視線をギルティに向け微笑んだ。
「罪を負う選択を取ったあなたを騙そうとしたんだもの、私にも罰が必要でしょう?」
応急処置を行うココとそれを見つめるギルティ、沈黙を破ったのは着信音と扉を開けて入ってきた男だった。
「ココ、来ているのなら来ていると言ってくれ。時間を無駄にしたじゃないか」
「あら市長、遅かったですね」
ココに連絡をしようとしたら地下から着信音が聞こえてきて慌てて降りてきた。
無駄も無駄、わざわざ建物の中に隠れてロルフが外へ出るのを待っていたのだから。
「…………子供好きが祟ったか。今回は相手が悪かったな」
治療中の手を見てロルフは笑う。
治療を終えるまで待ってからロルフは話を始めた。
「その手を見て言うのもあれだが、ギルティ少年の世話役を頼みたい。無理なようなら」
「受けるわ、当然ね」
「そうか、それはありがたい。では頼んだよココ」
話がまとまるとロルフはすぐに出て行ってしまった。
どうやら予定はカツカツらしい。
「さてギルティちゃん。あなたに渡しておくものがあるわ」
そう言って取り出したのは狐の半面。
それをギルティの顔に付けた。
「うんピッタリ」
「これは?」
「やっぱり人を殺すなら人相は隠さないと。それに、ギルドの長になるのなら知名度も必要。顔が出せないならシンボルがあった方が覚えてもらいやすいわ」
他人を殺すという人間を思いのほか容易に受け入れるその感性を理解できずいるままにあれよあれよと服まで着替えさせられる。
「白髪赤目に白狐の面、真っ黒い服にすればより一層印象にも残りやすい。さぁこのまま街に繰り出すわよ」
ココに手を引かれギルティは建物を出て行った。
比較的狭く暗い道ですれ違った誰かを気にしながらも、手を引くココに逆らうことをせずに付いて行く。
「こここそ私たちの暮らす、あらゆる種族が集う都市、世界の中心と呼ばれる理想郷リバティーよ」
人間らしからぬ姿をした者も行き交う街。
文化の違いがありながらも出来る限りの自由を提供しようとした結果の犯罪都市であった。
今だって、視界の端で爆発が起こっている。
駆けだそうとするギルティをココは制止した。
冷えていながらも何かを訴えるような目をするギルティだが、ココは首を振る。
「依頼を受けていないあなたは動けない。そういうものなの」
「…………救出するだけなら」
「駄目。力ある者が自由であることはあってはならない。この街にいる力ある者は皆自分の役割でしか動けない。アストライアが悪を裁くためにしか動けないように、あなたも誰かを殺すためにしか動けないの」
見ている事しか出来なかったギルティだが、一通のメールによって状況が大きく変わった。
「…………ギルティ、これはあなたの案件よ」
メールに記載されていたのは犯人の情報。
ありとあらゆるものを食べられる男として、鎖や檻どころか建物までも食い破って過去三度脱獄している。
今回の事件では事前に食べていた炎を吐き出したことによってガスに引火し爆発。
過去の事件と似通っていたために数日前に脱獄したこの男ではないかとのこと。
「脱獄するなら殺せと、そういうことか」
「仏の顔も三度まで。まぁ今回は四度目だけど、彼はもう機会を失ったのよ」
「そう。じゃあ、行ってくる」
一言残してギルティは消えた。
その数秒後にギルティは空から降ってくる。
そしてそのまま地面を蹴り音を置き去りにして消えてしまった。
「…………想像以上の出鱈目ね」
ギルティが走り去って三十秒と経たずに一通のメールが送られてきた。
犯人の死亡を確認したとのことであった。
「…………いくら何でも出鱈目過ぎるでしょ」
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