第90話 有罪

「……………………」


真っ白で、真っ暗な、無機質な部屋で目が覚めた。

中には何も無いので、取り敢えず唯一の扉から外に出る。

ビルが立ち並ぶ明るく五月蠅い外の世界。

街行く人…………人?

人とは思えぬ様相の者もいくらかいるが、誰もが平穏な日常を送っていた。

だがそれも鳴り響く警報と少女の悲鳴によって終わる。

三メートル近くある竜と人が混ざったような姿をした大男の強盗の出現。

そして強盗の逃げる道にいた少女が今まさに邪魔だと言わんばかりに強盗の巨腕によって殴り飛ばされようとしていた。

体格差と加減をする気の無いその様子から、殴られた時点で死ぬか、着地の衝撃で死ぬかの二択しかないことを理解させる。

誰もが目を覆うような状況で、一人の少年が動いた。

強盗の腕が少女に触れる直前、その巨腕を蹴りで止めると、何処からともなく取り出した黒いナイフで強盗の首を斬り落とした。


「貴様、何者だ?」


遅れて到着した警察が、武器を向けて問う。

白髪赤目の少年は、感情の無い瞳で答えた。


「わからない。此処がどこかも、僕が誰かも。けど、そうだね、僕は有罪ギルティ。殺さずとも止められたにもかかわらず殺したんだ、当然だろう?」


「その言葉を聞いて、俺はお前を捕まえるべきではないと判断した」


何処から飛んできたか、目の前に着地した男は頭を下げる。


「我々だけではこの街で起きる全ての事件をカバーすることが出来ない。どうか協力して頂けないだろうか」


「…………警察は御免だ。僕は殺す事しか出来ない」


「ならばそれでよいのでは、アストライア?」


人混みを割ってやってきた男は、頭を下げる男の後頭部に扇を乗せた。


「確か一つギルド用の建物が残っていただろう。そこで殺し屋ギルドの長として依頼された悪人を殺していくのはどうだ?君好みではないかもしれないが、手が足りていないのは事実だよ」


「…………罰に差が出るのは良いことではない。捕えて裁かなければ」


「けれど、捕らえられない異能力者や種族もいる」


日常茶飯事の脱獄を前に、アストライアと呼ばれた男は何も言い返せない。


「では決まりです。ギルティ少年、ついてきなさい。アストライアは少女を保護して保護者を探して来るといい」


そう言って男はギルティを連れて街の中を歩いていく。

ありとあらゆる目新しいものを、冷えた瞳で見つめながら男に付いて行くと、一つの建物の前で止まった。

階段を降り、地下から中へと入る。


「自己紹介が遅れたね。私はロルフ。この街の市長をしている。ようこそギルティ、今日からここが君の城だ」

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