死の一族編
第56話 転生
極東、和の国。
広い広い屋敷で怪しげな儀式を行う者達がいた。
死者蘇生の秘術を完成させようと子へ孫へと知識を、技術を継承し、数百年もの間この地で死体を集め研究を続ける一族。
そして今日は長年の研究が実を結ぶかもしれない日。
一族が一つの死体を囲みブツブツと文言を唱え、地面にはよくわからない陣が彫られている。
傍から見ればおかしな光景、にもかかわらず、数百年の研究の中で突き止めた物の配置による効果で、それはごく自然な風景に感じさせられる。
しかし物陰から見つめる一人の少年は、それを自然だと感じることが出来なかった。
少年の名は
紅月家に生まれ、紅月家で育ちながら死者蘇生の秘術を死者を弄ぶ行為のように感じ忌み嫌っていた特異な子供。
まだ子供故に儀式に参加させられていなかったが、儀式を行うことは知っておりこうして覗き見ていた。
儀式は大詰め、死体を取り囲む者達は手の平を刃物で切りつけ血を陣の中に流し込んだ。
大量の血は陣の溝を辿って全体に広がると、死体のある中心へ集まっていく。
死体の内に入り込み、ついに死体は動き出した。
儀式を行っていた者達は動き出した死体に目を輝かせ歓喜の声を上げる。
ようやく完成した死者蘇生の秘術、果たしてそれは本当にし覇を蘇生したのだろうか。
立ち上がった死者は呻き声をあげながら儀式を行った者の一人に襲い掛かる。
すぐさま屋敷の中に控えていた者が指叉で首を地面に押さえつけ動きを封じた。
「素晴らしき第一歩。暴走の原因を突き止めるべく検証を重ねる必要があるな」
屋敷の中で儀式を見守っていた老人は楽しそうに笑みを浮かべる。
「捕縛しろ。決して殺すな。決して壊すな。大事に扱え」
暴れる死体を縄で縛り上げる。
少年はもういない。
暴れだした死体を前に逃げ出した。
ここにいてはいけない。
この一族は壊れている。
屋敷の塀をよじ登り外へ出て街へと飛び出す。
走って、走って、とにかく遠くへ、紅月の手の届かぬ場所まで。
怖くて怖くてどうしようもなくて、周りが見えなくなるほどに焦り走って、道に飛び出し牛車に轢かれた。
「……………」
死後の世界。
幾千幾万の魂を選別する大男が一つの魂を手に取り見つめる。
それは世にも珍しい、運命から外れた魂。
本来死ぬはずのタイミングとは違うタイミングで死んだ魂。
「……特異点か」
「どうなされましたか閻魔様?」
小さな鬼を見下ろし思考する。
自分がどう行動するべきなのかを。
「……何でもない」
手に持つ魂を両手を合わせ潰した。
「あっ……」
「何か?」
「いえ」
鬼は頭を下げ、壁際に張り付く程に下がっていった。
此処は死後の世界、冥界の主人たる閻魔こそが絶対である。
口出しなど出来ようはずがない。
まして鬼は神の部下、驚くという反応をしたこと自体がおかしなことだった。
しかして今、一つの魂は消え去ったに思えたが……。
…………ここは?
知らない高い天井。
彩り豊かなガラス。
聞こえてくる子供の声。
立ち上がれず、起き上がれず、視界に移る伸ばした手はあまりに短く、そして小さい。
この手を知っている。
差し出された指を一生懸命に握る赤ん坊の手だ。
罰が当たったのかなぁ。
悪いことばかりしてきたから、お天道様が怒ったのかなぁ。
一人で逃げだしたからダメだったのかなぁ。
皆で罰を……でも僕怖かった。
あんなの見ていられない、あんな場所もういたくない。
だったら、何もわからないこの場所も、彼の血が混じっていないこの身体も、僕にとっては幸福だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます