第55話 四人の生活

「なぁ、お前なんで生きてんの?」


椅子に姿勢よく座って目を瞑って眠るようにしているフレイをイザヤが指差す。


「先祖返りは短命だって聞いたんだけど」


「なんだそういうことか。突然罵倒されたのかと」


「んなことするかよ」


直情的なイザヤと自分のペースで煽るフレイ。

嫌っているわけではないのだが、相性が悪かった。


「復讐の炎で魂を補強している。復讐心が途切れればすぐにでも死ぬ」


「へー……じゃあ殺し合う?」


「やめろバカ」


ジンが突然殺気を放ちだしフレイが肩を跳ねさせる。

身体を強張らせながらもまたかという風にイザヤはため息を吐きあしらった。


「思いが薄れれば死ぬんだろ?なら俺を殺したいって強く思わせておけば生きられるし、俺と戦ってれば強くもなれる。一石二鳥ってやつだと思うんだが」


…………一体いつの間に本読んだのやら。


「助けられている自覚があっては復讐心は芽生えない。それと、強くさせたいのではなくお前が戦いたいだけなのだろう?そういうことなら俺が相手になろう」


「それは……それはとても魅力的な提案ですが、まだまだ実力不足。もう少しお待ちいただければ、多少なりとも楽しませられるかと」


「そうか。好きにしろ」


ジンは笑みを顔に張り付け、頭を下げた。

戦いたい気持ちが押さえきれず漏れ出しているが、今はまだと断った。


「ジンは手加減を知らない。アマデウスの手を煩わせるような事でもない。なら俺がやればいい」


椅子から立ち、イザヤはフレイに剣を向ける。


「種族に胡坐掻いてるわけじゃないが、俺は天使だ、エルフには負けない。それに、話振ったのは俺だからな。行こうか」


フレイを連れ屋敷を出る。

広い草原にポツンと立つ屋敷。


「勿論剣は使わない。斬ってしまっては大変だからな」


手に持っていた剣は風に吹かれるように消えていった。

完全に舐めている。

自分が格上だという確信を以て対峙している。


「死んでも知らないぞ」


「やってみろ」


炎が数度明滅し、爆炎を上げた。


「あーあついあつい。冷やさないとだな」


同時に地を蹴り、神を殺さんとする者同士の戦いが始まった。




「その程度じゃ、神には勝てないぞ」


二人の戦いは長くは続かなかった。

結果としてはイザヤの圧勝。

フレイが纏う炎は確かにイザヤの身を焼いたが、それ以外の攻撃をイザヤは一切喰らわなかった。

うつ伏せで地に倒れるフレイは、屋敷へと戻って行くイザヤを地に伏したまま見つめる。


「手加減するんじゃなかったのか?」


「そのつもりだったが、ここはプライドを叩き折った方がいいと判断した」


「俺も同じようにしただろうが、お前のそれは単なる同族嫌悪だろう?」


大切な誰かを護れなかった。

護れなかったくせに自分だけがのうのうと生きている。

弱い自分が許せない。


「安心しろ、お前達は強くなる。俺が強くする、神を殺せる程に」


しばらくしてフレイが戻ってきた。

屋敷を出た時とは顔つきが変わっている。



「俺は神より強くなる。無論お前も超えていく、イザヤ」


宣戦布告。

フレイもまたイザヤが嫌いであった。

同じ眼をしているから。

同じ表情をしているから。

まるで自分を見ているようで嫌いだった。


「そいつは無理だな。お前が俺に追いつく頃、俺はもっと強くなってる」


「言ってろ」


力の差を見せつけられた。

とてつもなく強かった。

だが、追いつけないとは言わなかった。


「神がいつ襲って来るかはわからない。突然の襲撃にも備えられるようこれからは厳しい修行を行っていく。死ぬようならその程度と見捨てる故、必死についてこい」


そう言ってアマデウスは手に持つ本に視線を戻す。

タイトルの全ては読めないが、教師という単語だけは読み取れた。

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