第12話 光の国
「…………」
「…………」
「……遅くないか?」
「そうだな。だが、来たようだ」
遥か遠く、丘を越えて城へと向かってくる一団が見えた。
「あれから一年。随分と待たされたな」
「必要な時間だったのだ」
城の門が開くと、魔人の言葉を遮り聖人が口を開く。
「中へ入る必要はありません。魔王アマデウス様と、その側近のスペック様をお呼びいただければそれで構いません」
「一国の王を呼び出すとは、聖人という種族は礼儀を知らぬ種族のようだな」
「よい、既に来ている」
「なっ、アマデウス様⁉」
魔人はすぐさま跪いた。
楽にしろと言いたいところだが、こやつらにとっては我に対して跪いている方が気が休まるのだろうな。
「して聖人、名をなんと申す?」
「名乗るような名は御座いません」
深々と頭を下げて、そう丁寧口にするものだから、アマデウスは声を上げて笑った。
「随分と面白い奴を寄越したな。実によく頭の回る奴だ。だが、名乗らぬのなら我はこれから貴様にしか話しかけぬがよいな?」
「えぇ、それで構いませんよ。我々は全員同じ聖人ですからややこしいでしょうし、そうして頂けるとこちらとしても有難いです」
「では、往くとするか」
アマデウスは流れるように門から出ようとした。
「まて。今は停戦中とはいえ行き先は敵国、護衛を必ずつれて行け」
「それは無理だろう。こやつらが呼んだのは我等なのだから」
「えぇ。残念ながら聖王様が招かれたのは魔王アマデウス様とその側近であるスペック様のみですので」
本当によく頭が回るのだな。
「馬鹿を言うな。敵国に立った二人で入るなど出来るはずがないだろう」
「抑えよスペック。この機会を逃せば平和が遠のくであろう」
「無礼を働くなよ」
「まさか、我々は平和の為に手を取り合う仲間ではありませんか」
あぁ、やはり面白い奴だな。
スペックを前に臆せず微笑んで見せるとは。
「アマデウス、いいんだな?」
「あぁ。怒るな、その心に嘘を吐いてでも来い」
「……わかった。それじゃあ乗ってくれ、この方がずっと早い」
スペックは足下に浮遊するじゅうたんを広げた。
その材質はやわらかく、それでいて安定して立てるほどに硬い。
絨毯の上に全員が座ると、絨毯は飛び立った。
涼しい風を感じる余裕は無く。
何が起きているのか理解できないという風だった。
勿論、アマデウスとスペックは何が起きているかを理解させる気もなかった訳だが。
あの日からアマデウスは変わってしまった。
圧倒的な強さを手に入れ、別人と言われた方がまだ納得できるほどに、雰囲気から何から何まで変わっていた。
11歳にしては、あまりに大人びている。
その余裕は、傲慢とも思えるほどだ。
信用はしているし、信頼もしている。
だが、その往く道が不安だった。
傲慢だから、俺が護らなくてはならないと思っていた。
だがすべて間違っていた。
『心に嘘を吐け』
魔王アマデウスは、俺の知っている、俺の親友のアマデウスだった。
「アマデウス、信じてるから」
「あぁ、知っている」
辿り着いたるは城下町。
闇の国とは真逆の、街を城よりも前に持ってくるという形。
王は民を護るものという考え方の魔人では到底理解できないが、見栄えが良いことは確かであった。
城の中へ入ると、大勢の兵士が出迎える。
奥へ奥へと導かれ、王室の前に立たされた。
重い扉が音を立てながら開くと中には……。
「なっ⁉」
豪華な装飾のなされた玉座には男が座っている。
そしてその隣には、拘束され地面に転がされるアリアの姿があった。
「捕まっているなぁ」
「まさか聖人にはアリア以上の強さを持つ者がいると?」
「アリアを無力化するのは簡単だ。人質を取るだけでおとなしく捕まるほかないのだから」
アマデウスの言葉は淡々としていた。
事前からこうなることを知っていたから。
当然のことだとそう思っていたから。
「犠牲を許容すれば、戦争と何ら変わらない。我にもよく効く手段だ」
「それを解っていながらここに来たのか⁉」
「拒否すればアリアを殺すと脅されるだけだ」
「……俺達を、騙したのか‼協力し平和を目指すというのは嘘だったのか‼」
憤り、叫ぶスペックをアマデウスは宥める。
「そう熱くなるな。奴らは嘘など吐いていない。奴らの言う平和とは聖人の勝利を意味し、その平和の為に我等に死ねと言っている。我等は仲間だ、平和の為死んでくれるだろう?と」
スペックの空気が変わる。
「ふざけるのも大概にしろ」
「スペック、我は言った。自分に嘘を吐けと」
「…………理解はしている。だが、怒ることくらいは許してくれ」
「では、後は頼んだ」
スペックに微笑むとアマデウスは玉座に近付く。
「話は終わったか?」
「あぁ」
「平和の為ならば命は惜しくないか?」
「あぁ」
「平和の為に……自ら命を絶つがよい、魔王よ」
「…………あぁ」
アマデウスは剣を取り出し、喉元に突き立てた。
「では、さらばだ魔王。またいつか」
「あぁ、さらばだ聖王。またいつか」
噴き出す血。
侵食する光。
アマデウスの身体はほんの数瞬で光によって消失した。
「あの戦場で拾っていたか。なるほど、はじめから想定していた事態だったわけか」
人質という手を取られる以上は何もできない。
「そこの魔人。魔王は死んだと、国へ伝えよ」
「…………アマデウスは死んだ。俺はそう、嘘を吐いた」
「なに?」
その時背後から聞こえた声に、聖王は驚愕した。
「またいつか……随分と早い再会だったな、聖王よ」
「な……何故、生きて⁉」
「さて、その話はまたいつかだ」
そこに立っていたのは光によって消失したはずの魔王アマデウスであった。
そして、聖王は抵抗する間もなく闇に呑み込まれた。
「アリア、無事だな?」
「えぇ、けれどどうやって?」
アリアの拘束を解くが、目の前で起こったありえない現象に目を丸くしていた。
「スペックの魔術で幻覚を見せた」
「魔術?」
「あぁ、我には闇が、貴様には光がある。スペックには魔術という心を形にする力がある。スペックに心を偽らせ我の死を見せたというわけだ」
「よくわからない」
「理解する必要はない。そもそも我等には使えぬ力故、理解など到底できんがな」
「それもそうね。それで、殺したの?」
スペックの持つ魔術という力についてはそれで納得したとして、問題は闇に呑まれた聖王だった。
「一年だ。それだけの時間があれば、闇を使い殺さず捕えることもできるようになっている」
「なら、いいわ」
「そうか。では、人質を解放するとしよう。スペック」
「既に位置は掴んだ」
「……そこか」
アマデウスが呟くと、闇が足下に広がる。
城の床や壁を辿り、しばらくすると闇が引いた。
「何をしたの?」
「人質を城から出した」
そう一言言うとアマデウスは部屋を出る」
「何処へ行くの?」
「街が一望できる場所だ」
「何をしに?」
「無論……同盟の宣言だ」
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