第12話―闇は不可視に蠢くⅥ―

晴人とカーミラはダンジョンの罠により落ちてから歩き続けた。

無策で歩いた結果、晴人はこれが複雑に入り込んだ道だとことを

直感的に訴える。


(これは迷路か。ゲームだと辟易するんだけど異世界だとワクワクするじゃないか!)


楽しくなってきた晴人は右手を壁に当てると、そのまま歩き始める。


「気になったんだけど何をしているんだ?壁に手なんか当てて」


魔物を気配が近くにないか後ろに警戒して歩くカーミラは疑問を呈する。


「ああ、これは確実に目的地にたどり着ける裏技なんだよ。ここって迷路だろ。それに暗いし、だからこうして行けば間違いはないはずだ」


「へぇー、そうなのか」


純粋なカーミラは晴人を信じてついて行き魔物が襲ってきても背後から倒していく。曲がり角を使った奇襲はなかった。それは気配を察知したカーミラの姿を捉えない速さにより晴人より前進をして逆に奇襲をしたからだ。

危うい場面はなく進んでいくが…


「本人にこれって進んでいるのか?なんだか同じ道を回っているような気がするんだけどよ」


「…おかしいなぁ。どうしてなんだ」


晴人の解決案には確実。ただ、これには袋小路も入り出るという手間が掛かるため時間を要する

覚悟をしないといけない。

運が良ければすぐにゴールへと着くが悪ければ晴人のように多くのコースを通る事になるのだ。


「階段が見えた…やっと迷路から出られたんだ!」


「や、やっとかよ。でも着いた…やった。わあぁぁーーー!」


晴人とカーミラは出られた事に歓喜のおたけび。連帯感が生まれた仲間意識によるハイタッチをした。

石段いしだんを超えて晴人は上がった階段に振り返る。

これを作ったのって誰なのかと疑問を持つがダンジョンだから深く考える必要は無いかと結論づける。


「ほら、早く行こうぜ。ブルックリンに小言を食らいたくないからな」


「あっ、ああ!そうだなぁ。早く合流しないと心配しているだろうし」


どういう構造となっているか疑問を今は置いて上へ向かう。ここは複雑な道が無く順調に進めるようになっているが、それは魔物がいるのを除いたならばだが。


「うげぇ!?な、なんだよあれは……追いつけない。どうして」


だだっ広い通路を走っていると韋駄天いだてんのような足が疾走。そして晴人との距離が目視できないほど離れていく。

迷路でいた虎視眈々と狙いを窺う魔物を見つけて撃破に行ったと思った晴人だったが違うと気付いたときには遅かった。


「おいおい。まさかこんな事で孤立してしまうのか。どうする?

急に一人になったら怖くなってきた…」


ただでさえ彼は異世界で身寄りがなく頼れる人も少数。

危険な場所なんて知らず暮らしていた晴人には厳しかった。

彼の心は孤独と恐怖が込上がり侵食して支配されていく。

唯一のすがるべき存在はカーミラしかいない。無敵に等しい能力と貴婦人をとりことさせる整った顔立ちを手にしても心は同じで平和な世で生きた深山晴人のままなのだ。

追いかけるしかなかった。


「待ってくれよ!いくら腕に自信があっても危険だから戻ってくれカーミラ。聞こえているのか?」


年下に情けない所を見せられない見栄はある。あまり取り繕っていないのが声音で現れているが、

そんな判断する余裕は無かった。

心細くなる晴人は通路を全力で走っていた足を減速。速度を落としたのは目の前で起きる戦闘。

広大な円形の空間の前で起きているのは稚拙な動作で進行する腐敗した死体、嵐が起きて空中へと飛ばされたと思ったら体の一部を光りが暗い空間を照らすと全身に駆け巡り浄化して跡形も無く消滅。


(カーミラを見つけたと思ったら、こんな激しい戦闘を…いや蹂躙しているのか。決闘で使った走れば起きる暴風で上で飛ばして無抵抗な敵に斬撃を入れて一撃必殺を決めている。俺も加勢した方がいいのか…これは)


「だあぁぁ!!」


カーミラが走った道には颶風ぐふうが起きるスキルは烈風速。

鈍足の死体はダークアンデッド。魔物とは少々、異なる存在。元は人間であってネクロマンサーにより絶命した者に使役とし命令させる人形。

単純な命令しか動けず臨機応変する機能があるはずもなく操られ、襲うだけ。杖を持つ元は魔法使いであったアンデッドを空中へと無防備にさせたところを光属性を付加で、なでるように横腹に袈裟斬りで浄化。


「すごい…これが剣聖なのか」


そして軌道を右へと変える。何もない空間に風魔法を作り出し、それを蹴り別方向へ移動させる技術。生前は戦士だろうアンデッドを横一文字へ斬り浄化、軌道を変えて名も無い騎士に左から袈裟斬り浄化させると空を蹴り次の標的は下に。


「ハルト目を閉じていろよ。今から殲滅の大技を使用するぞ!」


「せ、せんめつ!?」


「これで終わりだああぁぁーー!」


燦然さんぜんとまばゆく剣を閃光へと変えて地面へ突き刺す。その光景は石に刺さった聖剣を抜こうとする一幕のようであった。

敵中の真ん中に着地したカーミラは剣を地面に刺して数秒後に起きるのは下から噴き出すは膨大な光。最上級の光属性剣技である

[スプレンデンスノヴァ]を使用。

威力を抑えた輪状の光が弱まって消えていくとそこに立つのは金髪碧眼の少女。ダブルXカリバーを引き抜きダークアンデッドを殲滅。

完全なる鏖殺おうさつに晴人はただただ言葉を失うばかり。


「ハルト来るのが遅いぞ。まぁ、無事でよかったけど…」


剣を収めると人懐こい笑みを浮かべて手を振る。


「あ、ああ。遅くってごめん…じゃなくてカーミラが速いんだよ!

たぶん俺じゃなくても追いつけないと思うんだけど。ブルックリンさんとかに注意されなかったのか?」


「ぐっ、何も言えない。ごめんなさい今度は気をつけます」


「い、いや別に頭を下げなくても。調子が狂うなぁ…えーと、それじゃあ俺を追い越してからは気持ち悪いアンデッドを戦っていたのか?」


「そうだけど、ハルト気持ち悪いのはやめろよ。アイツらは生きていた人間なんだ。死んでしまったのに無理やり戦わせられて…

メチャクチャになったのを、そんな言葉で汚すなよ」


「あのアンデッドが…元は人間だって言うのか?」


晴人の問いにはカーミラは悲痛な表情で頷く。冒頭された事に少し怒りを感じたのはそういうことだったのかと納得した。まだ聞いて実感はしないが憐れむ気持ちは晴人にもある。


(待ってよ。カーミラはアンデッドになった人間と戦ったのか。

つまり、この先にもアンデッドと接触するんだよな。死んでいるけど人間だった相手を俺は、この剣で斬れるのか…それはただの外道じゃないか?)


シャレにならない。死亡した人と戦うなんて…そう心に呟く晴人は震えていた。カーミラは膝を折り屈んでいるのを訝しむ。


「神様…どうかあの人達に幸せを」


剣聖は、手を組むと逝ってしまった人達のために祈る。

慈しむ彼女に晴人は優しく微笑むと隣に進んで屈むと一緒に祈るのだった。


「気になったんだけど、怖くなかったのか?」


広々とした空間の奥に進むと通路が続いていたが次の層へと進む階段を発見、歓喜したものの終わりではなかった。次の層は広くもなければ複雑でもない。


「んっ、何をだ?」


「いや、えーと…その」


「………」


「………アンデッドと戦って」


「そういうことか。いつか誰かがやらないといけなかったんだ。

それがワタシだった話だよ」


「そうか。立派なんだなカーミラは」


「な、なんだよ急に。褒めるなんて」


行動を共にして戦いを見て時に見せる優しさ、カーミラの性根は

優しい。現に俺を安心させるために手を繋いでいるのがそうだ。

本人は迷子になるから手を離せねぇなんて乱暴な言葉で言っていたが、正直じゃないなと嘆息する。

晴人は新しくカーミラ評を更新していたら魔物が現れていないと気づく。何か嫌な予感を覚えて歩いていたが…


「まさか、何も起きないなんて」


3体ぐらいしか出てこず次の階段を見つける。


「いや、まだ上にいるかもしれない」


「そうか、俺達を油断をさせて襲い掛かる古いパターンか!

もし襲ってきても守ってやるから安心しろよカーミラ」


「無理しなくていいぞ。ワタシが倒してやるからなぁ!」


白い歯の純粋な笑みに晴人は苦笑するしかなかった。いくらなんでも小さな女の子に守られるのは

情けないにもほどがあると自分に叱責する。気合を入れて警戒心を最大にして進むが何も起きずにたどり着いた。


「ボスとか出てくるイベントみたいな雰囲気があったんだけど

拍子抜けだったな…よし行くか」


「おう!」


勇ましく返事をするカーミラ。一応は年頃なんだから女の子らしく

しないのかなと心配して手を繋いだまま歩く。

このエリアは魔物が出てこず散歩しているみたいだった。そんな場所だからこそ晴人はようやく気づく。今なにをしているのかを。


(んっ。あ、あれ?俺って手をにぎっているの美少女で…それも金髪碧眼。そ、そう考えると恥ずかしくなってきたぞ。

彼女いない歴イコール年齢が起きてしまうアレが)


「なぁ、手に汗が出ていて、すべるんだけど何かあったのか?」


「なっ、えっ!?いや、な、な、なっなな、何もないよ」


「本当か?そうは見えないぞ」


「何か話をすれば治まると思う」


女の子と手を繋いだ事がないから心拍数が上昇するんだ。だからこそ意識から逸らす狙いもあった晴人。


「そうか。ならワタシの思い出を話してやろうかな。

長くなるけどいいか?」


「それは構わないけど、いいのか。俺なんかに話をして」


「なんの心配しているんだよ。

ハァー、いいか、ワタシがしたいんだ…知ってほしいんだよ」


最後のセリフには複雑な感情を込められていた。恋愛的な意味ではなく彼女の切実な願いが。


「ワタシの家は貧しく両親はお金ほしさでワタシを…売った」


「?売ったのは大事な物」


「エイブリーみたいな反応をするんだな…売ったのは娘であるワタシ。つまり奴隷になったんだ」


「なっ!?……」


(バカな!そんな親がいるのかよ)


晴人は信じられなかった。娘を奴隷にさせる親がいたことに。

カーミラが嘘をついていないのが無邪気な笑みから自虐的で弱々しい大人のような笑顔をしたら。


「休むこと許されず、少し休憩なんかすればムチに打たれた。

もちろんお金も貰えるわけがなく動物みたいだった。最初は何度も泣いたけど泣き疲れて…もう心は死んだって諦めたら楽になった。

けど同じ仲間が病気で亡くなったり、妹のようにかわいがってくれたお姉ちゃんは辱めを受けて泣いて死んだ」


「…そう、だったのか」


凄惨な話だった。小さな女の子が体験するにはあまりにも無慈悲で悪逆。どう声を掛ければいいか分からなかった。優しく声を掛けたいが何を言えばいいのか。


「外を出れば両親と楽しく笑っている同い年を見ていると思うんだ。どうしてこんなに違うのかって、泣いてその日は帰って働くしかなかった。9歳になってワタシを買った大人の友達がお姉ちゃんみたいな目で見てきたんだ。

怖かった…すごく。このままでいいのか考えても諦めるしかない。荷物を運んでいると大きな教会に声が聴こえた。仕事を終えて忘れものがあるって抜けてきて向かったんだ。

そしてワタシは選聖剣せんせいけんダブルXカリバーを抜いてから剣聖となったらしい」


絶望の日々から抜け出すのは出来ないと諦めていた少女は聖剣に

選ばれた。壮絶な人生に晴人は

相槌を打つしかなかった。下手な優しさは傷つくだけだと知っている。

ただ普段なら恥ずかしくて口に出来ない言葉に効果があるかもしれない。


「聖剣に神様だって認めたんだよ…きっと。カーミラは頑張っている救われる必要があったんだ。

それに、カーミラと出会えて

俺は嬉しいよ」


「…ありがとう。でも幸せなのはワタシだけなんだ」


それはどういう?っと返事をする前にカーミラは間、髪かん、はつを入れず語る。


「ワタシを買っていた大人は当代の剣聖を奴隷としていたのかと捕らえられた。あんなに恐ろしく思ったのが

小さく見えたのが今でも覚えている。働いていた仲間は保護することに決まったけど…

奴隷だったから、いじめられている。周りの大人は、こぞって言うのは選ばれし英雄とか選ばれた少女…みんなは言うんだよ選ばれたって、そんなばかりで嫌だった」


剣聖となってから扱いが変わった。彼女を酷使していた人は暴虐の存在として断罪され、カーミラは選ばれた事で救われ、そして選ばれなかった仲間は今後の生活は平穏ではなかった。


(だからカーミラは、選ばれた事に良心の呵責で苛まれている事なのか…)


けど、そんな事は許されるものなんだと晴人は強くそう思った。


「俺が言えるのはカーミラ…

俺が必ず守ってやる。必ずだ!」


晴人はカーミラに自分に誓う。

つややかな金髪を優しくでる。

カーミラは目を見開き少しだけ救われた気持ちになる。

長い話を終えて数分後に上に上がる階段をまたも発見。これで終わってほしいと願い晴人とカーミラは温度を確り分かるほど強く手を握る。


(もうこれで終わってくれよ)


そう心中で願う。上に着くと最初に通った道と類似した壁や天井の空いた穴からの陽光。

どうやら、着いたんだと晴人は感じた。しかし右も左も分からない二人は直感で進むことにした。

そして――震撼させるほどの絶叫。


「もしかしてドラゴンなのか!?」


「グッオオォォッ!」


長い翼を広げ、トカゲのような尻尾と鋭利な爪、そして頭の頭上の左右には角が生えていて首はキリンのように長く猛威の化身けしんが吠える。

俺は爆音のような声のした方向へ走り始める。カーミラは晴人の

後ろにスピードを合わせて走る。

宝石のような岩石が所々にある。

近づくにつれて内容を聞き取れる。

そして広さも高さもケタ違いな空間。中央に座するのはドラゴン。


「すげぇー、本物のドラゴンだ」


「ハルト抜剣しろよ。戦っているのエイブリーとブルックリンだぜ」


「ああ。そうみたいだな!早く加勢をしないと」


晴人はソティラスセイバーを抜き突貫。晴人とカーミラがいるのは刻焔竜こくえんりゅうの背後。そして竜の前に攻防を繰り広げているのはエイブリーとブルックリンの二人。晴人は突撃しようとして足を止め身震いする。


「お、大きい…高さは5メートルほどある銀色の竜が」


「ハルトしっかりしろよ。せっかくの挟み撃ちなんだからよ」


挟撃する形となり交流となった。


「フン。矮小な存在よ、時に還れ」


刻焔竜は広範囲に時間を戻す力を駆使した。テリトリーに入れば従うしかなく時間には逆らえるわけがない。


「あれ?俺だけ動けるみたいだ」


晴人には通用しなかった。


「いえ私も動けますよ」


事象を逆らえるのは何も晴人だけではなくブルックリンもそうだった。

最強の防御は伊達ではなかった。


「おのれ…しかし二人で何が出来る」


刻が巻き戻そうとする空間でいられるのは二人だけ。


「必ず…勝ってみせるんだ。

はああぁーー!!」


勇気を振り絞り晴人は高く掲げて振り下ろす。大上段斬りを。


「ぐおおぉぉぉーーー!」


「悲鳴を上げている…なら私も攻撃に転じるべきね」


そう言うとフルプレをしたブルックリンは盾を捨てて槍を持ち前進する。

二人の攻撃に刻焔竜は苦労することなく倒した。


「ぐわああああぁぁぁ!!?」


大きな音を立てると動かなくなったドラゴン。晴人は額の汗を裾で拭う。


『頑張ったね。貴方は一人じゃない』


「っ―!?」


竜を倒した晴人はリリスの声を背後から聞こえた。

振り返るがそこには誰もいなかった。

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