第10話―闇は不可視に蠢くⅣ―

晴人達は玉座の間にいた。

一糸乱れぬ整列された騎士、

魔法を究めんとたたずむ魔法師。

高貴な身分を怠らず矜持を持つ貴族。

与えられた言葉以外を発する事を許されない厳かな王の間、やんごとなき王の発言で場は騒然となる。


「…国王様!恐縮ですが先程のお言葉に刻天竜こくてんりゅうの討伐と仰りましたか?」


最上級の一つであるアークファランクスを持つ彼女は騎士としての主君に示す片膝をつきこうべを下げる最敬礼を示すが王の言葉に驚き禁じ得ず。

無礼なのは承知で確認をするブルックリン。王はワインレッドのカーペットの上にいるブルックリンに肯定の動作をした。


「左様、刻天竜を屠るのは今。

東の地へ足を目指すにはダンジョン中央部にねぐらとする

古代文明期の上位種を討たねばならないのだ!」


「し、しかし混沌時代を生き残った古代文明期の竜なのです。

どんな能力を駆使するのか不明であり、憶測の域を出ていない強敵に挑むのは早計ではないのではないでしょうか」


「貴様!?王の決定に不満があるというのか!!」


グレイソン国王は対局を見据えて現在の戦力差を吟味した上で決断したのを掻い摘んだせいで

冷静で穿うがった見方を持つブルックリンは希望的観測な決断だと止めようとする。その

静止の言葉を恨めしく眉をひそめて憤激するは一介の大臣。

ブルックリン・ボナパルトの父は凄腕の傭兵で数多の武功と善行から将軍に成り上がっている。そのため正道を行かないいやしい者と高い地位を持つ貴族らに蔑視されている。

その娘は世界で最強の盾であるアークファランクス。自分の地位のためなら陥れる工作や流言もする。その醜い嫉妬心と執念にブルックリンは顔に出さないように

注意して心の中で辟易すると嘆息をこぼした。


「よい。百戦錬磨の将軍ブルックリンの言葉には重みがある。

戦場を赴く将としての使命を果たさんと余の言葉に異を唱えたのだろう」


「はっ!我が後ろには大勢の命や想いを背負っている故に…」


ブルックリンは王の信頼に値する慈悲を礼節で返す。

飛び交うのは親しみがまったくない言葉に晴人は傍観するしかなかった。

どうにか遠回しな言葉の内容を理解しようと努力に注力している。

しかし両隣の美少女は対象的である。

右には片膝をついて屈んだまま金髪碧眼エイブリーは口を結み真剣に耳を傾けていた。

反対方向の左のカーミラはウトウト船を漕いで今にも眠りそうだったのだ。


「戦場以外にも義勇を見た。

されど、その使命を果たそうとせんなら一刻も早く竜を討伐しなければならぬ。

そうせねば離れて今でも戦う同士の安否情報が取れず、常時いつでも瘴気を放つのなら倒さなければならぬ」


情報不足での討伐任務に動員されるだろう部下を無駄死を避けるため

諫言かんげんをするが王の言葉にも一理はあった。ブルックリンもこのまま野放しままではダンジョンを通過は出来ず援軍も送れない。

竜の瘴気はダンジョン外にも流れていて蝕む。グレイソン王は家臣と救世主達を見渡しすと腰を上げる。


いにしえの竜を対峙が出来るのは英雄の器を持つ者だけ。

そのため救世主ミヤマハルト、剣聖カーミラ、将軍ブルックリンの3人には古代竜の長き歴史を終焉を打つ事を要望する」


「…承知しました。必ずやご期待を応えてみせます」


少数での討伐任務。大軍で動けば食料や敵との接触率が上がるなど

デメリットがある上に屠るべき竜は精神を蝕む力を持つからこそ。

そしてブルックリンは与えられた任務の戦力を分析をする。


(カーミラは聖剣に選ばれたばかりで剣術は我流。敵は魔物だから駆け引きはそう多くないから心配はない。救世主の実力は私と同等かそれ以上の盾を持つから…前衛にするべきかしら。

いえ、その前に彼女がいない―)


「その陛下、私の名前が無かったのですが……」


エイブリーは右手を頭の横に上げて挙手して自分がいない事と主張する。

それはブルックリンも疑問に思った所だった。晴人は失念したのかなと考え、カーミラは、つまんないから早く終わらないかなと思っていた。


「エイブリー・パティエーンスには奪還した砦に向かってもらいたい」


それを指すのは一つだけ。深山晴人が異世界で召喚して奪還したカーステレオ砦である。


「お言葉ですが、もうそこは――」


「防備を固めている猶予ゆうよは無かった。敵はすぐに動き出し攻めてきたのだ…難攻不落になる前に」


敵の攻撃を受けたと報せ、援軍要請に準備と編成を済ませて向かうまで落ちていないだろうかと

空気が重たくなるのだった。


―――◇◇◇◇◇◇◇―――

結局は虚構のように上手くはいかない。

いつまでも悲嘆にならずにはいられない。エイブリーとブルックリンは王から多額の軍資金を拝受してすぐに遂行に移る。

エイブリーが先に続き退室した3人は回廊に歩いていた。


「なぁ、竜ってそんなにスゴイのか?」


「ここでは知らないけど俺がいた所じゃスゴイだけじゃないなぁ。

長命だし絶対的な強者で空を駆け巡り炎を吐く」


「わあー!そんな生き物がいるのか。早く見てみたいなぁ」


「ふふっ、これから竜を討とうと言うのに二人とも楽しそうで

転ばないように」


苦手意識が残っていた晴人はカーミラの純粋な疑問に答えると

距離が縮める。災害の化身けしんとも謳われる竜に心を踊る二人を微笑む。


「それでは旅支度たびじたくに取り掛かりましょう。整えましたはエントランスホールで」


ブルックリンの言葉に晴人とカーミラは頷くとそれぞれ部屋に進んで入ると武具など身に着ける。


(エイブリーさんがいないのは心寂しいけどカーミラは素直で可愛いし、ブルックリンさんは

エイブリーさんと違うタイプのお姉さんキャラでよく見てくれるよなぁ)


ありのままの自分を映す姿見は好きではないのだが、生まれ変わってから忖度そんたくは皆無で映るのはイケメンアイドル並みの眉目秀麗。まだ得体の知らない

感があるが前よりも見慣れてくる。

そうなれば様々なポーズをしてみたくはある。右手で青髪を右目を隠れないよう触れて腰を

少しほど曲げ、左足をつま先で立ち最後に左でウインクして微笑。

よし、告白するときはこれにしよう。

っと決意を固めるが彼女いない歴イコール年齢レベルではなく

家族以外で普通に会話をしたのが、かなり前になる晴人が貴婦人にカッコイイ姿を見せるのは難儀だろう。


(こんな事をしている場合じゃなかった。早くエントランスホールに行かないと!)


異世界転生の特典であるチート装備はよし!っとドアを開けようと

して足を止めてひらめく。


(異世界チート装備で

思いついたのがカッコ悪いが。

エイブリーが俺の魔法の行使に驚いていた。なら、もしかして俺TUEEEEEつえーーー系なら必ず取得している転移魔法を使えるのでは?)


もし可能なら試す価値はありそうだ。

エイブリーと動向も出来るし一石二鳥だ。そうはやる気持ちに従い晴人は目を閉じて最初に召喚された地を、情景をきりがかった浮かばせる想像力イマジネーションで座標を定めて唱える。唱えた、そして

吹き荒ぶ風になぶく青髪。

それは全身にも同じく強い風が襲う。目を開くと晴人は現在の状況を知る。大空で落下していたことを。


「うわあぁぁーー!!落ちる落ちるおちるぅぅぅぅぅーーー!?

…落ちていない?」


普通ならジタバタと抵抗しても結果は変わらない。されど嘘のように止まっていた。

飛行操作スキルが晴人の求めに応えて発動した。本人は何が起こったのか把握はあくしていないが。


「一体、何が起こって――!?」


眼下には戦いが起きていた。

魔族の攻勢に城壁の上で魔法や弓矢で迎撃する兵士。

カーステレオ砦は籠城ろうじょうしていた。しかし奪還したばかりで士気は低く原因となるのは食料不足。すぐに攻めてはこないと考え食料を貯蓄するのではなく修繕に力を入れていた。

城壁を超えて侵入した魔族を討っても敵の士気は下がらず一方で

また一体と侵入され斬っては斬られる阿鼻叫喚の光景。


「いや、何をのんびりと眺めているんだ俺は!

早く助けないと」


晴人は城内に侵入してきた魔族の銀の軽装をしたゴブリンに空色の剣ソティラスセイバーで急降下からの唐竹割り。

縦一文字に斬られたゴブリンは血飛沫を飛び断末魔を上げずに倒れる。


「なっ、空からゴブリンを倒してくれた!?」


「まるで英雄…いや神に選ばれた勇者」


(あながち間違ってはいないけど。

神には会ってはいないんだよなぁ)


晴人は一身に浴びられる憧憬に

心の中で苦笑する。それからは、兵士と強力して魔物を倒していき。


「これが最後になるか…」


数分で城壁に近づこうとする周辺を魔法で倒してカーステレオ砦の

南西の方角に100メートル距離に

敵の指揮官の姿を捉えられる。

城壁の南西に外側を佇んで敵を確認する晴人。

彼の周囲には死屍累々ししるいるいとなる魔族の亡骸なきがら


「ここの人達をこれ以上は死なせない。これで、終わらせる!」


晴人は右手を向ける、傍観しているでおろう遠くにいる敵に。

掌から魔法陣が現れて赤く輝く。


(焔を[フレイム])


無詠唱の焔属性初級フレイムを放つ。本来でならボールサイズの

焔が直進する。しかし、大きさは規格外でありバランスボールほど

ある。


「いけええぇぇぇ!!」


発射する。8発を同時に放って、敵がいる方へ着弾すると爆炎が起きて晴人がいる場所にわずかに地面が震えるほど威力。

そして続けて連射のフレイムを放つ。

3回目の連射するフレイムは8発を同時に突き進み爆炎を起こす。

ハルトは5連撃8重魔法のフレイムにより壊滅させた。

5連撃とは魔法用語の一つで一度にどれだけ同時に放つことである。しかし優秀な魔法師でも2連撃以上を取得しているのは数少ない。

そして8じゅう魔法。魔法用語であまり専門的な知識ではない。数字に入る重魔法とは

魔法陣を重ねる数のことを指す。

3重魔法を使えれば天才と呼ばれ

4重となれば神の領域と称賛される。

あまりにも複雑で特別な事でも無しに自然な魔法陣を重ねるのは高すぎる情報処理や一致させるように動かさねばならない。


「…これだけすれば終わったかな。少し、いや!やり過ぎたかな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る