第8話―闇は不可視に蠢くⅡ―

目を開くと、そこら一面には様々な色の花で彩っていた。


「ここは…どこだ?」


いて言うならここは夢の世界かな?』


深山晴人みやまはるとは声の方へ振り返ると予想したとはいえ瞠目すると同時に得体の知らない哀愁が込み上がる。

晴人はそんな奇妙な感情に戸惑いながらも歓喜している自分に驚く。


(生前と言えばいいのか、俺は美少女どころか普通の女の子さえも上手く話せる自信なんか無いんだぞ。

なのに緊張や恐怖じゃなく懐かしいと思うのは何故なんだ!?

エイブリーとカーミラのような美少女に緊張や意識をするのに…彼女にはそれが無い。

まるで、これは……)


「あ、あっああがああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッーーー!!」


『っ―!?それ以上は無理をしないで!その先の思い出は続きを

後にゆっくり話をするから、ねぇ』


あまりにも頭痛に屈んで抑えていると彼女は優しい声で背中をさすられる。

そうされ続けられ次第に呼吸が楽になりほとばしる感情を抑え込む。まるで自分の身体ではないようだ…いやそもそも転生されているから厳密的には自分の身体かも怪しいものだと晴人は考察する。


『落ち着いた?良かった…あんなに苦しそうにしていたの初めてみたよ』


安堵のため息をすると右隣に膝を抱えて座る。所謂いわゆる、三角座りである。

晴人はこの世界を見渡して置かれた状況を分析する。

澄んだ青空に雲が垂れずの快晴、ホトトギスのさえずりが森の中から聞こえてくる。

そして俺と彼女が森に囲まれて空いた場所。その景色はいつでも四肢折々の花々が咲いているようだ。

晴人は郷愁感が薄れていくのを感じながら、絵に描いたような千紫万紅せんしばんこうを全身に味わっていた。


「…なんだか迷惑をかけてしまったみたいですみません」


『ううん、迷惑なんかじゃないよ。

それよりも少し見たんだけど、エイブリーちゃんとカーミラちゃん

可愛いよねぇ』


「えっ…ああ。可愛いけど」


『えへへ……けど、何かな』


気障きざみたいな事を言うけどキミの方が可愛いよ」


晴人は何を言っているんだ俺は!!っと心の中で絶叫した。ピンク色のロングヘアーは風に小さく舞い上がり芸術的な顔を赤らめる。


『ふえぇ!?そ、そんなこと無いと思うけど。あ、ありがとうねぇ』


「いやお礼される事じゃ…それよりもどこか痛くないか?心とか身体とか」


『どこも痛くないけど、どうしてそんな事を?』


首を傾げて怪我をして心配されるような事はなかったはずだが晴人は彼女が元気そうに見えても

無理はしていないかあの時の、、、、怪我は無いかを――

不安でいっぱいだった。

どうしてそう思ったか訊かれても理由は無かった晴人。


「いや俺も正直どうしてそう思ったかなんて分からないんだ。

けどこうして、軌跡が起きて、リリス、、、と会ったらそうくのは当然じゃないかな……なっ!?俺は何を言っているんだ!?」


途中から晴人の無意識がそう応えた事に混乱をする。彼女、リリスは意外な言葉を受けて、雪を欺く白い頬を紅潮させる。


「ぐっ!?あ、頭がぁぁ」


痛みが襲う。何かを想起すると無用な情報を無理やり入れようとしているかのような割れそうな痛み。


(どうして俺はリリスって名前を知っている?どうして。

俺はどこかでリリスに会っているのか)


『これ以上の干渉は難しいようね。

話せて嬉しかったよ』


「ま、待ってくれ!まだリリスに伝えたい事がいっぱいあるんだ。

だから…いかないでくれ」


『…だめだよ。私は、わぁたぃしは』


泣いていた。リリスは儚い笑顔で頬から伝う水滴に俺は手を伸ばす。

ようやく拭う事が出来た。もっとこうしていれたら…。

リリスは驚いていたが微笑ましく愛おしい笑みを浮かべて……視界が闇におおわれると何も見えなくなる。


(何も見えなくなった。それに手の感覚も何もかもが消えている)


不思議と恐怖はない。これは目覚めるための過程であると頭の中で理解はしていた。

リリス、異世界召喚してエイブリーと助けて…いや共闘して悪魔をたおして報告に行って一人になって現れた幻の美少女。

これは本当に幻なのか?

全ての五感が同時に一瞬で戻った非現実的な現象に吐き気を催そうになるがすぐに収まり目を開く。

上半身を起こして部屋を改めて見渡す。豪華な装飾品が飾られていて100メートルは出来る広いさ。


「なんていうか、異世界転生は夢じゃないのか。さて、それよりも気になるのは素材なんだが」


天蓋てんがいベッドから降りてから何を使われているかを触る。

フワフワで柔らかく弾力性がある。感触からしてウール素材かポリエステルなのか専門的な知識が無くて判別は出来ないが

俺の世界では存在しないものだと晴人は確信する。実際その勘は間違っていない。

ふわふわな魔物の素材で作られた物で現代日本では味わえないそれはある。


「後はどうしてツッコミたいものが…あれなんだよなぁ」


晴人は誰に対して話をしているかは謎だが異世界に召喚される前のぼっちスキルによるものだろう。

独白して向かったのはトイレ。


「洋式はともかくとしてだ。

レバーを引いたら水が流れる。トイレットペーパーはあるしウォシュレットもついているしで現代社会か何かかなここは?」


馴染みがあり過ぎるトイレを見てそうツッコミをする。

晴人が取り敢えず生前でいた世界で無かった物を探す方が難しいほどだ。

異世界に無いのはテレビやスマホ、アニメやゲーム等。

晴人はソファーに深く座ると重たいため息をしてみる。


「ハァー、ケータイらしき物はものがあるんだよなぁ。

何でもありな異世界だな」


窮屈を感じなくもないけど晴人はそれなりに満足している。異世界では科学は遅いのを魔法で補っているのと人類の驚異であるはずの魔物素材。

日本や世界よりも一部だけだけど発展していた。

それにイケメンで最強チートとハーレム付きは大きい。人生イージースタートで小説にすれば超駄作となるであろう物語。

勝つのが確定して伏線もなくてただ無双してのモテるだけの…。


「なんだかフラグを立てているみたいで怖くなってきた。

少し廊下を徘徊に行くか」


晴人はまた一人で自虐する。

ぼっちスキルの一つを発動した。

オートスキル何もする気がなくてとりあえず歩き回るアレだ。

大きなドアを起こさないよう配慮で音を立てずに開ける。

さて、探索の始まりだ。


「スゴイなぁ。こんなに広くて同じ景色が続いていると迷宮じゃないか」


ほとんど代わり映えのしない回廊かいろうを目的もなく歩いていく。


(それにしてもさっきの夢は本物?それともニセモノか何か?)


夢の世界で見たリリスは鏡花水月きょうかすいげつのように哀切の微笑みを浮かべて目を覚ました。


「ハルトくん?」


「えっ?その声は…」


「やっぱりハルトくんだぁ〜。

どうしたのかニャー」


「ニャー?」


ハルトの背後からエイブリーの声が聞こえて振り返ってみれば黒色のネグリジェ姿でいたエイブリー。

金髪のサイドアップと碧眼そして視線を下げれば強く主張している

物が気になってしかたなかった。

もっと驚くべきなのは色気が漂って甘い声になっていること。


「こんな所で何をしていたのかな?」


「ただの散歩ですよエイブリーさん」


「本当かな?嘘をついていない」


「ついていない。ウソなんてつく理由がないでしょう。もしかしてスパイとか思われていますか」


「まさか。ねぇ、それよりも…」


どこか妖艶ようえんな笑みを浮かべると近寄り晴人の右腕に自然と主張していた胸が当たって心拍数は急上昇する。


「ねぇ、部屋にいかない?その…分かるよね?」


潤った上目遣いで思考が停止してしまう晴人。これ誘われているの?いきなり早くないかな!?

…倫理観がそれなりに高い晴人はエイブリーの肩を優しく押して離れさせた。


「えっ?嫌だったの」


「そうじゃなくて、こんな事はまだ段階を進んでからで」


「ううん。今じゃないと困るの!

早くしないと…奪われるから」


拒んでも諦めずに迫ってきた事に晴人はまたも頭が沸騰したみたいに熱くなるが、その行動に疑問を覚える。


(エイブリーさんがこんな大胆な事をするか?それに、どうしてこんな目撃されるかもしれないのにネグリジェという格好で)


まだ知らない所がある人だが少なくとも露出が多めの格好を好むような人ではなかった。

真面目で甘えるというよりもお姉さんキャラみたいな人なのだ。

矛盾は言動で著しく少しの推察で

浮かぶのは。


「エイブリーさんではないですよね」


「えへへ、何を言っているのかな?どう見ても私だよ。

それとも裸を見たいのかな」


上のボタンを一つ一つはずしていく。…えっ、ちょっと谷間がリアル過ぎるので目を逸らします!

解説つきの謎の心中、本当に目を逸らした晴人はあせる。

こんな露骨な色仕掛けに困惑していることに。衣擦れが原因で余計に思考か止まりそうになる。


「わ、分かっているんだ。お前の正体が!」


消去法に考えて、これ以上はまずいと、なんとか反撃の言葉をして偽者のエイブリーに向くと白髪のツーブロック髪をした黒い角をした170身長の男は禍々しいコート…。


「えへへ、そんなに見られると恥ずかしいなぁ」


中年男性の声でそんな事を言った。

なるほどあの人がエイブリーの偽者ってわけか。危うく吐きそうになったが、どうして正体が見えたのか不思議だ。

姿を変えれるのは制限付きかと晴人は、そう納得したが実はスキルの発動だった。

[新魔眼しんまがん]視覚系のスキル。あらゆる幻影や不可視物体を視認を可能にさせるもの。

意識と認識によって発動したスキルである。


「もう見えていますよ。

中年男性で白髪の黒い角が生えていることも」


「なっ、なんだと。貴様、どうして分かったのだ!」


「えーと、なんとなく」


後ろに跳躍して正体を見破った晴人に苦々しそうに睨む男。


「まぁよい。我の名はオセ。

元ソロモン72柱のメンバーである。武器を持たぬ貴様には、ここで永遠に眠ってもらう」


オセという男は懐から短剣を取り出すと自分の左手首を切る。

血の水滴が落ちると赤い魔法陣が高速で作りだす。そして地の色で光り輝きが増していき収まると

中央から黒い騎士の姿が。

兜はクワガタの形と右肩にはマントで暗黒騎士を召喚を成功させた。


「あっはははは!諜報活動で魔法使いスタイルで活動していたが、もうやめだ!貴様を倒す」


オセは勝利を確信をしていたが晴人は右手を伸ばし掌を広げていると虚空から粒子状が一点に集まっていき形成していく。


「成功するか半信半疑だったけど…

試しにやってみるものだな。

神聖剣ソティラスセイバーァァ!!」


空の剣による横一閃により暗黒剣を抜く前に暗黒騎士は一刀両断されてそのまま倒れて動かなくなる。


「バカな!?バカな、バカな!!

何が計画を狂ってしまったのだ。油断をしたからか?いや過信したからか?それとも奴を甘く

見たからか?」


「はああぁぁーーー!!」


晴人は人外な俊足なスピードで一気に懐に入るとそのまま左から右の逆袈裟斬りをする。


「がああぁぁーー!!」


悪魔オセの断末魔が回廊中に響き、呆気なくその最後は晴人だけが知って終わりを迎えるのだった。

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