第4話―剣聖カーミラの一騎打ち―

「救世主をそなたには魔王を打ち倒してほしい。

蹂躙じゅうりんされし国民、道半みちなかばに倒れし騎士。脅威にさらされ簒奪さんだつされていく。

終わりが見えない絶望の日々を終止符しゅうしふを打ってもらいたいのだ。

そのため魔王討伐ためにが提供しうる軍資金となる」


そう厳かな事を言って 第31代フィデス国王グレイソン・セイクリッド。静かに佇む宰相は金貨がチャリチャリと懐から出して鳴るのは丈夫な袋。

宰相フィレット・クリプトンはゆっくりと儀礼的な歩行で階段を降りていき救世主の前にひざまずくように屈んで袋を差し出す姿は王に献上品を差し出すように。


「どうぞ、御笑納ごしょうのうください」


御笑納とは笑って受け取ってくださいの意味。お受け取ってくださいよりも敬語。

畏まった言動に晴人は分相応な対応に心身共に石化したように固くなる。


「は、はい!必ずや達成してみせます。えーと・・・わたくしが必ずや魔王を倒してみせます王様」


「「「おおぉぉーー!!」」」


ただの高校生が、過大評価が異世界転生でよくある唯一無二の力により絶対強者の扱いに慣れない。

拙い答えにも大臣や騎士らは歓喜せざるにはいられなかった。

それほど救世主は戦いにくれた人々からは期待されている。国王は受け取るのを見ると腰を上げる。


「エイブリーよ。砦を奪還任務の完遂、救世主の発見をした事をかんがみても実に功は見事。

改めて言おう!大義であった」


「は・・・・・はっ!その我が身に余るお言葉に恐縮であります。ですが奪還したのは晴人くん――救世主の活躍であります」


「フム。虚偽な報告をしないことも含めて清廉潔白な騎士である」


晴人は気づいた。エイブリーが国王の称賛の嵐に白磁な頬を赤らめているのを。きっと光栄で嬉しいのだろうけど恥ずかしいのだと。


「それでは救世主殿。逗留とうりゅうするべき所は確保していますかな」


「えっ?あ、いや・・・えーと、あの。とうりゅうってどういう意味なのですか?」


晴人は自分の足りない知識に恥を覚える。問われたフィレットは恥を欠かせまいと優しく微笑する。


「滞在…という意味でございます」


フィレットは周囲には聞こえないよう斟酌しんしゃくの返答。


「あ、いえ。あの恥ずかしながら確保はしていません」


左様さようですか。でしたら城内に逗留が出来るよう準備しておきます」


「あ、ありがとうございます」


王の謁見とは疲れるものだと晴人は異世界で学ぶのだった。それからエイブリーやフィレットの質問を晴人はいきなり高貴な人達に場違いを感じならがらも応える。

ぎこちなくフィレットが提案したのは土地勘がない晴人にエイブリーが案内役をやってもらい見識と

富饒ふじょうな都市を知ってもらいたいと考えていた。

エイブリーは迷いない「謹んで承ります」と首肯しゅこうする。

王城の回廊かいろうは広い。幅は人が横並びで20人ほど収まり硝子ガラスは汚れが一切ない陽光で照らされる作り。

フィレットが先頭にエイブリーが晴人の隣で案内をしていた。


「ん〜、疲れた。貴族の社交界や

軍を率いるよりも苦労した」


エイブリーは解放されたと腕を天井に向けて伸びをした。


「俺も緊張しました。受験に合格しているかと確認するよりも疲れました」


右往左往はするが衣住食を確保した事にひとまずは安心する晴人。


「救世主殿にはフィデス城を我が家と存じてくだされば理想的ですが難しいですね」


「宰相殿・・・ありがとうございます」


ここまで好待遇を受けた事がなく、どう返せればいいのか普通の高校生には知識がなかった。


「それにしてもハルトくん、石化に掛かったみたいだったよね。もしかして慣れていない?」


「はい。アニメや本ではよく見ますけど体験したことはありませんし、どう振る舞うかなんて知らないので」


「あにめぇ?はよく分からないけどそんな本があるんだ」


エントランスホールからそのまま出入り口から敷地に出る。

高層ビルの高さに遜色がない石像や達人が手入れされた木花。

池の水面みなもは透明感があり陽で照らされ、透き通って吹く風は心地よく山に登った昼食に似た清々しい。


「西洋式の東屋あずまやもあるのか。しかもいくつかもあるし広いんだな」


「ふふっ、ハルトくんがいた故郷ではそう言うんだね。古風でカッコイイ呼び方だね。

私達の間ではガゼボと呼んでいるの」


「へぇー、今まで知らなかったけだそうなのか」


エイブリーは首都と地方の異なる呼び方と誤解をしている。晴人は

俗称とか方言みたいに思われているのを知っていながら指摘しなかった。


「もしよろしければ立ち寄りますか救世主殿」


「あっ、大丈夫です。また別の機会でゆっくりしたいと思います」


フィレットの提言に断る晴人は内心こう思っていた。あんな真面目なキャラが救世主殿だと扱いされると役者が違うってスゴイんだけど。

中央の道を歩けば護衛の兵が左右に組んで腕を胸に当てる忠誠の証を示す礼をするのを晴人は驚く。

隣のエイブリーが振り返り首を傾げる。

さすか公爵家の次女と呼ぶべきか高い地位の騎士かは知らないけど

慣れ過ぎじゃないかな?

とハイスペックさに引いたりして尊敬の念を抱く晴人。

何でもないと再び歩く。エイブリーはニコッと微笑んで同じ速度で歩いていると一陣の嵐が吹く。


「おりゃあ!」


緑色の流星が大地に駆けて障害物となる兵を避けながら真っ直ぐと晴人の方へ向かい白い剣を背負いななめに振り襲う。

それは速く隣にいたエイブリーでも気づくの遅れるほど神速の技と移動。

そして狙われた晴人も自身に殺意が込められた攻撃を気づけずにいた。

防ぎようがない攻撃を見えない

純白で一部の障壁が虚空から出現して襲撃者の一撃を防いだ。


「ハルトくん!?ッ―はっああぁぁ!」


エイブリーは襲撃に対して紅蓮の聖剣カレドヴルムを焔の放出を無しでの居合切いあいきり。

さやから抜いた横からの一閃を難なく後方に飛んで避ける。

重力を感じさせない跳躍ちょうやくだった。


「なっ!敵襲か」


「宰相様と救世主殿を守れ!」


次々と護衛が抜刀。

そして盾を構えて守りを作る。しかし宰相は驚きはしたが襲撃者の顔を見て元の涼しい顔に戻る。


「大丈夫だ。彼女は敵ではない。おそらく先程の一撃は挨拶あいさつのようなものだろう。

そうであろうカーミラよ」


「えっ!ミラちゃん…またなの。むやみに襲っていけないって、お説教をしたばかりなのに。危ない悪戯イタズラは控えないといけないよ」


フィレットとエイブリーの敵意とは真逆の好意的な対応に一部の騎士達は困惑と見知り合いの騎士は

疲れ成分の嘆息をして剣を収める。

晴人は警戒態勢を敷いてすぐに解いたことよりも襲撃者の姿に驚いた。

まだ小さな女の子が剣を持っていた。


「あはは驚かせてわるかったよ。バルバトスだけ?とにかく強い悪魔を倒した救世主どのっていう奴がどんなものか試したくてよ。

攻撃してみた!」


晴人はこう思った。まだ小学高学年ほどの少女じゃないかと。

攻撃したのは剣だが一応は致命傷にならないようさやに収めていた。


「えーと、あの子は?」


どんな人物なのかエイブリーに訊いた。


「この子はカーミラ。すごく可愛くって小さいのに頑張るの。

少し女の子としては突出をそんなにして大丈夫かなって心配はするんだけど」


「いや、ワタシよりもブルックリンの方が――」


「ブルックリンさんは攻撃を防ぐ役目を担っているのだから比べるの違うでしょうミラちゃん」


「ぐぬぬ」


反論できずと悔しそうにするが顔から見て本心ではない。ため息をこぼす動作が幼かった。

カーミラの容姿は美幼女と呼ぶに相応しいものだ。現実ではありえない翡翠色ひすいいろのサラサラのショートヘアー、紫紺しこんの瞳は幼女特有の幼さと負の感情がない好戦的。

薄緑の軍服はシワだらけ彼女の個性がよく出ていた。


「もう少し詳細に説明をさせていただければ幼き英雄殿は事情があり、あのような体型ではあるが実は13才の淑女なのだ」


「え、ええぇーー!?マジすか宰相さん」


「おい、聞こえているぞ救世主!

まったく小さくてわるかったな」


「まぁまぁ、そう怒らないで。

小さくて可愛いのは正義だよ」


「頭をなでるなぁエイブリー!!」


和やかな雰囲気に警戒心を捨てないでいた少しの兵は頬を緩み戦意が霧散する。エイブリーがカーミラの緑色の髪をでたいと晴人も衝動に駆られそうになるが思い留める。

そんな事を日本では同意がなく行えばセクハラになるから。


「待ちさないカーミラ」


「げぇ!ブルックリンが怒っている。やぁ、離せえぇ」


「ミラちゃん抵抗しない!」


声の方向を見れば少し離れた場所で走る女性が見えた。

栗色のショートポニーテールを揺らして理知的な瞳の二十歳ほどだろうか。銀色の重武装して左手には兜を持っている。着用すれば全身鎧のフルプレ姿になるのかなとぼんやりと考える晴人。


「あっ、ブルックリンさん。ミラちゃんのお世話ですか?」


エイブリーはカーミラを抱いているのを開放し次にブルックリンという女性に同じ事をされる。

その瞬間を晴人は愛玩あいがん動物だなと少し同情する。


「いつも言っているじゃないカーミラ。急に襲ってはいけないって」


「あーもう。わるかったよ」


「謝る相手は誰かな?」


優しく悟るようにブルックリンは言うとカーミラは不満そうにしながらも晴人の方へ向き頭を下げる。


「ごめん…なさい」


「いや、怪我していないから平気だよ俺は」


「そうか。なんなら決闘しないか?」


「け、決闘…」


カーミラは楽しそうに白い歯を見せて、まるで子供が遊んでほしいと誘われたのだった。

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