第2話―異世界に来たら首都に行くのが約束―

「そのエイブリーさん。

いえ、エイブリー殿…これは?

俺が倒した黒い槍を操っていた悪魔はどういう存在なのか教えてもらえませんか」


戦闘や異世界での特有さがあるのを去ると俺は戻ってきたエイブリーに委縮していた。

幻のような美貌、絹のような金髪を右に束ねた髪型のサイドアップが似合う美少女の騎士に

近づき声を潜めて尋ねる。


「うーん、実は私もそこまで知っているわけじゃないの。

歴史書や記録書には、遥かな時代からの魔王に仕えし精鋭部隊ソロモン72柱の一体。

そんな強敵に倒したのは実直に言って素晴らしかったよ」


ニッコリと笑みを浮かべて言ったエイブリーの顔を間近なので、その美貌に緊張で

鼓動が早鐘のように聞こえる。

見渡すと、戦闘では苛烈に燃え上がっている砦は煙が立ちのぼり目が染みることはない。すでに鎮火ちんかされてモンスターが溢れていたのが今は人しか見えない。


「そんなことは……。

どうしたら、あのような活躍を出来るのですか!それに・・・かのような剣を見たことがありません!」


「ねぇ、規格外な連射も驚いたけど、いくら初級魔法とはいえ上位悪魔を

倒した。その秘訣をお姉さんにだけ教えてくれないかしら?」


片目を閉じてウインクをして尋ねられた。俺に感謝して讃えて、その行動とな裏腹に騎士の流麗な礼儀を持って敬意を払った。突然そこまで向けられるほど俺は立派じゃない。

爽快感だったのが今は情けなく感じてしどろもどろになった。

それで終わりと思ったのだが騎士団らしき若い人たちの魔法使いにも質問攻めされている。


「そうですけど・・・やっぱり元ソロモン72柱なんて肩書きを倒したのは大きいってことか」


「そういうこと。ほら、この戦いには立ち役者であるハルトくんを盛大な拍手喝采を」


「「「うおおぉーー!!」」」


「や、やめてえぇーーー!?」


まさか、この伝家の宝刀セリフを美少女ではなく男の俺が叫ぶ事になろうとは夢にも思わなかったよ。コミュ障を甘く見ないでもらいたい、なんなら全速力で逃げた

いのを右も左も分からないから

従っているんだから勘違いしないでよエイブリー。・・・俺は何をツンデレ覚醒しようとしているのか。


「エイブリーさん。俺はコミュ障なんですよ!?情けないのは重々と承知で言いますけど、知らない人と話を避けるようにお願い致します!」


初めて美少女にコミュ障を理由に

他の人とは接するような事をしないでほしいと頭を下げて懇願した。

そこまで熱狂的ではない一部の騎士ら魔法使いが満足して離れていくと俺は迷わず決行したのだが、いくら待ってもエイブリーの返事がない。

さすがに情けない姿に言葉を失ったのかと頭をおそるおそると上げると口を開いたままで

キョトンと首を傾げていた。


「その、訊くのが恥ずかしくて…

私が浅学非才の身でコミュショウ?というのを知らないの。

あはは、恥ずかしいけど教えてくれると助かるかなハルトくん」


あー、そういえば異世界だから何でも通じると思ってしまった。

それなら、どうして日本語なのかなんて素朴な疑問があるけど異世界転生ではよくあるので細かいことは考えてもしかたないだろう。

神様とか公用語が日本なのだろう。知らんけど。


「そうですね……話すのが苦手意識を持っていて病的になっている人でしょうか?」


「なるほど。内向的な意識にあることを言うのかな?この認識は間違っていないかな」


「あ、ああ。それでいいと思うよエイブリーさん」


お姉さんキャラで真面目。

うん、アリだなぁ。これからオタク用語を口走っても蔑むような眼差しは無い・・・いや、待って!

そうであるならオタク用語を披露すれば逆に知識人に見られるではないだろうか?

そうであってほしい。


「エイブリー様。砦の守りを固めておきました」


くすんだ茶髪をした男が駆けつけてそう伝える。

俺と同い年ぐらいの若い騎士が片足を膝をつけた礼と報告。エイブリーさんの顔は

談笑から厳格な表情に切り替わる。


「ご苦労様です。私は国王に事態の報告に戻らないといけません。

砦を任せましたよ」


「はっ!必ずや命を賭してでも守り抜くことを誓います」


「無理をしてはいけませんよ・・・私は凱旋をする!馬を用意をしなさい」


「「はっ!」」


お、おぉー。これがエイブリーさんカッコイイなぁ。命令を受けた

兵達は忙しく駆け足で与えられた任務をこなしていく後ろ姿を目で追う。

いや!こんな事をするんじゃなくて俺も何か手伝たりした方がいいのかな?


「それではハルトくんは私と共にフィデス王国に凱旋をしますけど・・・よろしいですか」


「あっ、はい。そうしないと俺が困るぐらいで。…それで俺はエイブリーさんの後ろに乗ればいいのですか?」


エイブリーさんが歩き始めたので右隣に駆け足で触れないよう気をつけて笑顔を作り答えるとエイブリーさんは足が止まりポカンと驚いていた。

俺もエイブリーさんを口を塞がらない反応にびっくりする。


「わ、私の後ろですか?馬術にはいささか自信がないので乗り心地は保証は出来ないから

ハルトくん一人の方がいいと思うよ」


どうやら乗せたくないのか、それとも乗り心地が最悪のどちらか。まぁ考えても前者だろう。俺がイケメンで

転生したからといって突然モテるわけがないのだから。

あの幻に出てくるピンクの髪をした美少女ぐらいで・・・・・


「トくん――ハルトくん。あっ!どうしたの悲壮ひそうな顔をしていたようだけど。何か無礼な事を口に出てしまったかな?」


「いや・・・何でもないよ」


夢かうつつかなんて判断力はあるはずだ。なのに、どうして名前も会ったこともない幻の美少女に周囲の音を遮断するほど集中して考えていた。

どれだけ自分に問うても明確な答えは返ってこない。

――砦を出てフィデス王国へと向かうことにるのだけど…。


「うおおぉーー!?速い、はやい

、速すぎるううぅぅ!!」


「ハルトくん、そう叫んでいると舌を噛むわ・・・よ!」


視界が風景が激しく過ぎ去っていく。まるで早送りしたテレビの画面みたいに目まぐるしい。

砦から馬で移動して山に入るとスピードを落とすどころか邪魔な岩があるとジャンプして越えていく。エイブリーさんは慣れているようだけど俺はエイブリーさんを

しがみつく事で必死で背一杯だ。

恐怖で叫んでいた俺は指摘された通り舌を噛む・・・すごく痛いがその痛みがすぐに癒やされていく。

たぶんチート能力である自動回復で傷を直したのだろう。


「噛んでしまったけど、すぐに痛みは消えましたけどね」


「えっ、なにそれ?」


「いえ。ただの確認、じゃない!深い意味はないので流してください」


俺の自動回復の説で当たりでいいだろう。キョトンして知らないように傾いているエイブリーさん。

または後ろに護衛の5人の騎士(乗馬している)の誰かが回復魔法を使用した線もあるけど、見た感じ魔法が使えそうな人は見当たらいので除外していいだろう。


「・・・苦しくなってきた。エイブリーさん落としてくれませんか」


「了解。顔色が青いけど回復魔法いる?」


「いえ、時間が経てば収まっていきますので・・・」


激しく揺れていれば起きるのは乗り物酔いによる吐き気を催すこと。

しかしこれも

自動スキルの回復で体調はよくなっていく。どうやら、これは傷を高速で治癒するものと違い遅々とした

効果を比較したら効果は下になる。

その遅い効果があって戦闘では吐いてしまったし。


「えーと皆、ごめん。少しゆっくりしたいのでスピードを落とします」


「かしこまりました」


どうやら俺が原因にしないエイブリーさん。うーん、優しい騎士である彼女と邂逅かいこうした運命に感謝を神にするとしよう。


「のんびり移動するのって、たまにはいいわねぇ。ねぇ、ハルトくんは、どうして空から私の前に降りてきたの?」


なんか小さい頃にそんな作品があったなぁ。空から舞い降りる美少女が。


「えっ?ああ、そうなりますか。

たまたまですよ。駆け巡って降りた場所がたまたまそこだった、だけで特別な理由は無いですよ」


実際はそんなことはなく交通事故で異世界転生したのが砦。それを除いたら転生した場所だっただけの話。

彼女の視点からすれば目の前に舞い降りたように見えたのやもしれない。


「エイブリーさん、もうスピードを上げてもいいですよ。体調は

良くなりましたので」


「そう?でも苦しかったらいつでも言ってねぇ。鎧に吐かれたら

冷静になれないから」


そうなったら怒られることか。

本当にそうなるか試しにやるわけにもいかず俺は「了解」と応える。


「それとハルトくん私の事はエイブリーさんじゃなくてエイブリーでいいからねぇ」


「えっ?・・・どわああぁ!!?」


振り返りウインクと意外な発言にドキッとしたが速度を上げた。

自分で言ったスピード上げてほしいのを、速度を落としてくれないか悩みながら恐怖に絶叫するしかなかったのだった。

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