第7話 クソニートが遠出する件について
散々の抵抗も空しくムンクはセルディスに用意された馬車に揺られながら運ばれていく。もちろん、行き先は魔王軍に絶賛侵略されているジークフリートだったりする。
「うーん、結局行くことになったかぁ……だるいなぁ……帰っていい?」
ムンクはめんどくさそうにふんぞり返った。
「ぶっとばすわよ?」
アリスの目は
「ていうかさ、今回もう過剰戦力でしょ。これ僕達行く意味あるの?」
「あ、ありますよ!! いくら神の使途様達でも魔王軍相手にたやすく勝てるとは思いません!!」
「でも、リルムちゃんさ。あいつら結構化け物だよ? もはや人類なのかも怪しい」
実際、ムンクは自分達が行く意味があるのか疑問視している。それぐらい、神の使徒と言われる存在は常識外れなのだ。まぁ、一人で戦況をひっくり返せるなんてチートもいいところだろう。
「ていうかさっきから僕の顔にやたら視線が投げられている気がするんだけど。おかしいなー、僕は清廉潔白なのにー」
「ほんとなんですかその顔!? 普段と違うっていうかもう別人じゃないですか!? 若干イケメンにしてるとこが腹立つんですけど!?」
確かにリルムの言う通りムンクの顔は普段とは似つかないぐらいイケメン顔になっている。というか、特徴が何にも残っていない。金髪碧眼だし。
「あー、これね? まぁ、ほら色々とあるんだよ。男の子日てきなあれね?知らない?」
「何常識みたいな言い方してるんですか!?言ってる意味がわからないんでけど!?」
「ほら、顔ばれするとなにされるか分からない世の中だし」
むしろ、顔ばれしたらヤバいからそうしているとも言える。実際、ムンクはこの能力でやりたい放題しているのでばれたらヤバいのだ。
「あなた顔を変えて相当あくどいことしてるものね」
「してないよ!? 精々貴族様の余り物を拝借してるぐらい。いやぁ貴族様は太っ腹だよね」
「うわぁ
しかも、痕跡も一切残らないから犯人も見つけられず王国貴族は手を焼いている。
「あれ、僕のことだったのかぁ……まぁ、顔ばれてないしセーフだよね? うん。セーフだ」
ムンクは全く悪びれる様子もない。むしろ他人事のようだ。
そんな状況にリルムはため息を吐くぐらいしか出来なかった。
ーーーーー
「あれムンクさん。荷物が少なすぎじゃないですか?」
リルムは首を傾げてムンクを見た。確かにムンクは少しボロめの外套を身に付けているだけで、荷物と言えば腰につけているバックパックぐらいだ。
「あぁ、大丈夫大丈夫。僕猫型ロボットなんだ」
「???」
「貴方ね、彼女混乱するでしょ」
「ごめんごめん。僕はマジックボックスを持ってるんだよ」
マジックボックスとは空間を圧縮し中に大量のものを持ち運べるというものであり、決して著作権に触れる四次元的なポケットではない。
もちろん、大変高価なもので潰れかけの何でも屋なんてのを経営しているムンクごときがが持てるようなものでもない。
では、何故そんなものを彼が所持しているのか?
「そんな
そういうことである。
「ま、まぁまぁ、喉乾いたでしょ!? キンキンに冷えてるからどう?」
そう言ってムンクはマジックボックスから変わった模様の入った筒を取り出した。
リルムは流れで受け取ってしまったことを後悔した。筒の中には薄茶色の液体が入っているようだ。
得体が知れないし、正直飲みたくなかった。だが、持ち前の生真面目な性格のせいか、一度貰ったものを突き返すわけにもいかない。
少年漫画の主人公ばりの決心をして、一思いにゴクリ。
「お、おいしい!? 今までこんなもの飲んだことないです!? というかなんですか!? この柔らかいガラスは!?」
ムンクが取り出した筒は透明なガラスで出来ているものだった。しかし、ガラスなのに柔らかいのだ。
リルムはもう訳が分からなかった。
「んー錬金術の秘奥。柔らかい石って知ってる?」
「やめなさい、平然と嘘つくの。リルムさん気をつけなさい? この粗大ゴミは平然と嘘つくから」
ちなみに、柔らかい石とは錬金術の秘奥である賢者の石の別名である。賢者の石はただの石ころを純金に変えれると言われている。
もちろん、ムンクごときがそんな伝説上級のものを持っているわけもない。
「まー本当のこと言うととある秘境から取り寄せた珍しいやつだと思ってくれればいいよ。入手経路とかは企業秘密だからご愛敬」
まんまと話題を逸らせてご機嫌になるムンク。本当にクズである。
ーーーー
「うわぁ……」
「これは……また、壮観ね」
「一体どうすれば……」
ムンク達はジークフリート領に差し掛かる直前、馬車を止め、目の前に広がる光景に呆然としていた。
魔王軍が侵攻しているのだから、魔物に遭遇するのは当然予想できた。
「まぁ、うん。魔物が出るのはしょうがないんだけどね。千体以上とかやりすぎでしょ」
ムンク達の先には、見渡す限りのゴーレム。広々とした街道は埋め尽くさんばかりにゴーレムが埋め尽くしていた。
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