第4話 ムンクがせこい詐欺をしている件について
結局、ムンクはこの貴族の令嬢(暫定)を街まで連れ帰ることにした。彼女が移動に使っていた馬車の馬も騎手も忽然と消えていたので置いていくわけにも行かなかったのである。
流石のムンクもその状態で置き去りにするほど人でなしでもない。
現在、ムンクはリルムを職場である何でも屋に連れていくため、その途中ある屋台や出店が並ぶ通りを歩いている。
「嬢ちゃん嬢ちゃん! このリンガどうだい?」
果物屋という割りには強面の店主が話しかけてきた。その手には赤い果実が握られている。
「はい! とてもおいしそうです! いただきます!!」
リルムは渡されるがままに、リンガに囓りつく。彼女は頬を紅潮させ、満面の笑みを浮かべた。美味しそうだ。
「お! いい喰いっぷりだねぇ!!」
「とっても、美味しいです! ありがとうございました!」
リルムはこともあろうか、食べるだけ食べてそのまま去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? お代がまだだよ!」
「お代? なんですかそれ?」
「はぁ!? お金だよお金! リンガ食べただろ!?」
「食べました! ……必要なんですかお金?」
「必要に決まってんだろ!!」
街に入って数分。たった、それだけの時間でトラブルが発生していることにムンクは頭が痛くなってきた。しかし、彼女は金の使い方も分からないらしい。もしかしたら、そうとう高位な貴族かもしれない。
「胃がキリキリしてきた……」
ムンクは貴族が苦手だ。ニートなので礼儀とかろくに出来ないのでよくトラブルを引き起こしてたりする。
正直なところ、現実逃避して帰りたいところだが、流石に放置するわけにもいかない。
「あー、悪いねこの子少し世間知らずでさ。お代は僕が払うよ」
「兄ちゃん、しっかり手綱握っててくれよ。思わず兵士につきだしてやろうかと思ったぜ」
「まぁ、ほらお詫びと言ってはあれだけど、もう一つリンガを貰うよ」
「あいよ!百ギルだよ!」
ムンクは懐をガサゴソとあさって、一枚の硬貨を取り出した。
「ん? おい、兄ちゃんこりゃなんだ?うちじゃこんな硬貨つかえねーぞ?」
「あら? 可笑しいなぁ? 使えるって聞いたんだけどなぁ」
「そもそも、これは本当にこいつは金なのか?見たことねーぞ?」
店主は怪訝な顔をして、ムンクを睨む。ムンクが出した硬貨はここら辺で見かけることがないものだった。
「いやいや、そんなことはないはずだよ。ほら、そろそろ王国祭でしょ? で、今度のはなんと千周年らしいんだよ! それで、その記念に新しい硬貨が作られたんだよ」
「へぇ、そういやもうそんな時期か! なるほどなぁ! 分かった! それでいいよ! そんな目出度いものをこんな早く手に入れれるなんて願ったりかなったりってもんだ!」
ーーー
「おいおい、これ見ろよ! 千年記念の硬貨らしいぜ! いいだろぉ!」
果物屋の店主は隣の道具屋店主に硬貨を見せびらかしている。やたら、嬉しそうだ。人は希少価値が高いものを手に入れるとやたら見せびらかしたくなるのだ。
「はぁ? お前何言ってんだ千年記念って来年だぞ?」
しかし、返ってきた返答は予想外のものだった。
「はぁ!? だ、だって、さっきの兄ちゃんはそう言って……」
「そっか、お前王都に来たばっかりだっけ。あーやられたなお前。そりゃ
「ファントムぅ?」
「まぁ、ここら辺に居座る盗賊というか義賊みたいなもんだな。普通俺たちみたいな平民から盗まないんだが、たまにイタズラのみたいにそういうことするんだよ」
怪盗団ファントム。王都周辺で活動している盗賊だ。噂では私腹を肥やすためではなく、虐げられてる誰かの為というのが信条という珍しい盗賊団らしい。今どき珍しいタイプの盗賊で、王国民からは義賊と見られている。
「そういうわけだから……御愁傷様」
まぁ、つまりそういうことだ。このリンゴ売りの店主は騙されたということなのだ。
「そんなあああ!!!詐欺だああああ!!!!」
店主の悲しい慟哭は虚しく響くのであった。
ーーー
「ムンクさん」
「何かな? 世間知らずのお嬢さん?」
リルムは呆れたようにムンクを見つめる。対するムンクは特に気にした素振りすら見せず、リンガを囓っている。
「そ、それはすいませんでした! いつもはメイド達が全てしてくれていたので……」
ムンクの小馬鹿にした返答に、彼女は恥ずかしそうに俯く。まぁ、いきなり世間知らずのところを見られてしまったのだから仕方ない。穴にでも入りたい気分なのだろう。
「って! じゃなくて! 何でリンガ屋さんに嘘ついたんですか? 千年記念は来年ですし、新硬貨の話なんて聞いたことありませんよ」
「へぇ お嬢様はお金の使い方は知らないのに、硬貨の存在は知ってるんだ」
「そ、それはすいませんでした! だから、話を逸らさないでください! リンガ屋さんのことです!」
「まぁまぁ、元はと言えば君があんなことするからいけないわけだし。今回は見逃してよ」
「うぅ、それを言われると弱いです……分かりました! 今回だけですからね!」
リルムは諦めたようにため息を吐いた。一応怒られているというに、やはりムンクは気にせずリンガを齧り続けている。
「というか、よくあんなずさんな嘘を通せましたね。普通ならあんなの騙されませんよ」
「お、中々着眼点がいいね。まぁ、一度見られてるし隠すこともないか」
「えっと……」
リルムは何が言いたいのか分からず困惑する。
「僕の能力はそういうモノだからね。一応これでも祝福持ちなんだよ」
リルムはハッしたような表情を浮かべる。どうやら、思い当たる事があるようだ。
「なるほど。だから、騎士相手にもあんなハッタリが通じたわけですね?」
ムンクはこの世間知らずなお嬢様の評価を少し修正した。理解は早いし、頭はそこまで悪くなさそうだ。
この世には
この中で
そして、
「僕の祝福技能はね、詐欺なんだよ」
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