EX1 ニートを追放したら暗殺者に襲撃される件について


 魔王の本拠地を目指し旅を続ける勇者一行。

 彼らはその道中立ち寄った街でまた暗殺者の襲撃に会っていた。


「勇者!! 覚悟!!!」


 勇者一行四人に対して黒装束の男達が少なくとも百人以上。

 人数差もそうだが、慣れてない街ということも相まって絶対絶命の危機だったりする。

 



 ーーーー

 

「これで最後かな」


 聖剣が煌めき、最後の暗殺者を切り伏せる。

 辺りは死屍累々。一面に暗殺者達が倒れている。

 襲撃されたのは真夜中だったが、既に朝日が差し込み始めていた。



「はぁはぁ……もうこれで何回目よ!!!」


「三十九回目であります!!!」


「馬鹿正直に答えてんじゃないわよ! うざい!!」


 勇者パーティーの回復術師ヒーラーであるユイはうんざりしたように吐き捨てた。

 しかし、ここまで鬱憤が溜まってしまうのも仕方ない。


 「だいたい何よ! 今までこんなこと一度も無かったわよ!? 何なのよ一体!!!」


 ムンクが勇者パーティーから離脱してはや一ヶ月。驚くべきことに、この一ヶ月で、ユイ達は三十九回も暗殺集団に襲われている。一日一回以上という壮絶な状況だったりする。



 「それはあり得ないですよ。歴代の勇者の三分の一は暗殺で死んでいるのですが……?」


 リカルドは怪訝な顔をする。少なくとも現勇者パーティーが結成されてから数年は経過している。それで、暗殺者の襲撃が一度たりともないなど歴史上おかしい話だ。


 「はぁ!? 何言ってのよ!! あたしの言ってることが間違ってるっていうの!?」


 リカルドはユイの怒りように困惑する。最初は冗談だろうと話し半分に聞いていたが、どうも本当らしい。


 「……」


 リカルドは違和感を感じつつもその正体が分からないようだ。

 そもそも、勇者は人類の希望とされているが、実態はやや違う。王都に近い人間はそう思っているが、離れれば離れるほどそうで無くなっていくことが多い。

 要は共存派だ。

 リカルドにとって嘆かわしいことだが、魔王軍との前線に近ければ近いほどその傾向は顕著だ。

 そういう人間にとって勇者という存在は時に毒となってしまう。

 だから、歴代勇者には常に暗殺の脅威がつきまとった。

 しかし、現勇者パーティーはそんなこと一度もないという。話がちぐはぐだ。


 「まぁ、落ち着いてユイ。今までそういうのはムンクがやってたからね。仕方ないことだよ」


 勇者であるハヤトは極めて冷静だ。慣れたようにユイをなだめる。


「だったら、リカルド! 代わりに入ったアンタがやりなさいよ!! あのボンクラに出来たんだからそれぐらい誰にでも出来るでしょ!!」


「それは、む、無理であります! 無数に存在する暗殺者から逃れるなど聞いたことありません!!」


「チッ 使えないわね!!! じゃあ、トール!!アンタがやりなさいよ! 曲がりなりにも魔術師でしょ!?」


 「うるさいアホ女。なんでこの僕がそんなことやらなきゃいけないんだよ。だったら、お前が勝手にやればいい」


 魔術師のトールは苛ついたように吐き捨てた。


 「はぁああ!? なんでヒーラーのアタシがそんなことしなきゃいけないのよ!!! アタシはパーティーの要よ!?」


 「うるさいな!!! 騒ぐだけのヒステリック女が!!!」


 「なっ! ハヤトーーーー!!! どいつもこいつも使えないのよ!!! どうにかしてよ!!!」


 「ユイ、俺はこの件は口出ししないよ。そもそもムンクをパーティーから追い出そうと言ったのは君達だからね。自分の発言には責任を持たないと」


「何言ってるの!? ハ、ハヤトだって賛成してくれたじゃない!?」


「俺はどちらでもいいと言っただけだよ」


 ハヤトはいつもの微笑を浮かべているだけだ。この状況をどうにかするつもりは微塵もないということが、ユイには分かった


「そ、そんな……」


 ユイは顔面蒼白になりながら後ずさる。彼女はハヤトに心酔している。ハヤトに拒否されたのが相当ショックだったのだろう。心なしか足取りもフラフラしている。


「ふんっ 不様だな」


 トールの見下した発言にも反応すらしない。いつもであれば親の敵の如く喰いかかるというのに。


 「もぅ、嫌。せめて寝る時ぐらいゆっくり過ごしたい……」


 しかし、そんなユイの願いは届くわけもなくーー


 「ゆ、勇者殿!! ま、また、暗殺者の集団が!?」


 リカルドが言うように辺りにまた人の気配が溢れだした。あれだけ倒したというのにまだ出るのか。もう暗殺者のバーゲンセールといっても過言ではない。


 「もう、こんな生活嫌ぁああああ!!!!!」



 

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