第6話 漁師は異世界初の刺身を食べる。(前編)
俺はさっき釣った魚を取り出してみる。
全長は1.5mほどある大型魚だ。まあ、クラーケンが普通にいるこの海で大型魚と言えるのかは分からないけど。
「これ……どうしようかな……?」
漁師という存在がいない以上、魚という概念も分からないのに売りに出すのはどうかと思う。
これから本格的に漁業に乗り出すのに売り手がないのは非常に困る。
袋に保管しておくという選択肢も無くはないけど、袋にどれだけはいるのかが分からない以上それは最終手段にしておきたい。
「今日は一旦帰ろうか。普通に疲れた……」
今日スパルについてから直行でこっちに来たから休めてないし、あと1時間ぐらいで日が沈みかけていた。
ちなみに昼飯については馬車の中でだ。美味しそうなものを選んで袋に入れていたのだ。非常食代わりとして。
だから腹は大丈夫なんだけど……なんか疲れた。主に驚いたということで。
そういう訳で俺はスパルの海岸まで戻ることにした。まあ命令しただけだけど。
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俺は騒ぎを立てないようにアルゴノートをスパルから少し離れた場所で袋にしまった。
これまたご都合主義みたいに、入って欲しいって思いながら袋に手を突っ込む動作をするだけでアルゴノートは中へ収納される。さすが異世界。
俺は浜辺の近くを歩きながら、スパルヘと戻る。
キラキラと夕日に照らされている海を見て、ここが魔境であることん忘れ去ってしまいそうだった。まあ、魔境でも今のところはアルゴノートがあるから安心かな。
俺がスパルの門までたどり着くと、特に確認をされることもなく通された。
伝達が行っているんだろうなー。ありがたい。
俺は街まで戻ると、とりあえずはギルドマスターの所まで行くことにした。だって行くあてがないんもの。
「いらっしゃいませ……あ、スガワアヤト様でお間違いないでしょうか?」
「はい。そうです」
「ギルドマスターがお会いになるそうです。場所は分かりますか?」
「はい」
「ではよろしくお願いします」
「分かりました」
俺は軽くそうやり取りし、ギルドマスターの部屋へと向かっていった。
その部屋の前に着くと、俺はノックする。
「入れ」
昼間も聞いた声を聞いて俺は中に入っていった。
「帰ったか」
「はい」
「それで、海はどうだった?」
「中々にヤバいところでしたね。いきなりクラーケンと出くわすとは思ってませんでしたよ」
「それは……倒したのか?」
「まあ。船の影響が大きいですけどね」
正直いってあの漁船とは思えない船がないとそもそもで挑むことすらしていなかった自信がある。
1キロ先からでも見える相手に近距離でやりあえと?無理無理。死……にはしないけど圧倒的にボコられる可能性大。
「クラーケンの死体は持ってきているのか?」
「いや、クラーケン自体が跡形もなく吹っ飛んじゃって回収しようにもできなかったんですよね」
「……そうか……」
ギルドマスターはため息をつく。そして俺に言った。
「そういう討伐の仕方でも構わないが、最低限の素材は残るようにしてくれ。そうしないと、こちらも報酬を支払えんからな」
「分かりました。あと、魚は1匹釣れたんですけでどうしたらいいですか?」
「……どのぐらいのサイズだ?」
「1.5mぐらいだと思います」
「それじゃあ場所を変えるぞ。ついて来い」
俺はそう言われると、突然席を立ったギルドマスターについて行くのだった。
特に歩くことも無く、そこにたどり着いた。
俺たちが今いる場所は学校の体育館以上はある大きい倉庫だった。
「それじゃあここで出してくれ」
俺はそう言われ、自分が釣った魚を袋から取り出す。
改めて見ると、少し鰹に似ていた。サイズはそれより大きいが。
魚はもう諦めているのか、一切の抵抗はなかった。
「これが魚か……どうしたものか」
「……使い道がないってことですか?」
俺は多少不安になりそう尋ねた。
「いや、そういう訳では無い。価値はあるんだが、それをどうすれば価値が上がるのか……素人の俺たちには分からないんだ」
「……そうですか」
そうは言われても俺もそういうのはあんまり詳しくないし……そういう専門家がいるのかはそもそもで不明だし。
あ、そうか。ちょっと待って……これ、この魚のステータス見れるんじゃね?
船が見えたってことは無機物にも俺自身にも出来るってことは有機物にも可能って訳だ。
なら当然魚も見れるっていう寸法だ。
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名前:ホシカツオ
性別:男
詳細:身に脂がよく乗っている。3枚に下ろしてから刺身にするのがいいだろう。
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出来たのは出来たのだか……ヤバい。俺、3枚下ろしなんてやった事ないんだけど……。
「これを……3等分にしてくれるのならまだどうにかなるかもしれません」
「3等分って……こうか?」
ギルドマスターが横たわっている魚に対し、縦に3等分かと聞いてきた。
「いえ、魚は大体真ん中に骨があるのでそこを沿うように3等分するんですよ。そしたら魚の刺身が作れるんですけど……」
「つまり真ん中の骨を取り出せばいいんだな。なら……おい!分解持ちの職員はまだ残っているか!」
いきなりギルドマスターが大声でそう言った。
「自分は分解持ちっすけど、どうしたんすか?」
「ああ、この魚の骨がこう通ってるらしいからその骨を抜き出してくれるか?」
「……そっすね。多分出来ると思うっす」
「なら頼む。失敗しても文句は言わないから」
「了解っす」
なんか職員との間で話が進んでいって俺が完全に置いてけぼりにされている。
「それじゃあ……〈分解〉」
職員がそういうだけで、魚の頭から骨に続き、尾までが取り出された。
血がブシャッ!と飛び散るかと思っていたが、そんなことは無く、ヒュッ、ストンみたいな感じで骨が抜けた。
そして残ったものが真っ二つに割れていて、後は内蔵を取り出して、包丁である程度の大きさに切れば刺身の完成だ。
「これでどうだ?」
「 後はこの中の身だけを取り出すことは出来ますか?内臓は予め取っておいた方がいいと思いますけど」
「それじゃあ先に取ってくれるか?」
ギルドマスターは俺にそう頼んだ。
はっきり言って生の魚の内臓に直で触れるのはやはり抵抗はある。だが、この世界にビニール手袋なんてものが無いのは既に把握済みだ。
俺は魚の臓物に手を突っ込む。
先程の分解でエラが取れてくれていたおかげか、特に抵抗もなくスルッと内臓を取り出すことが出来た。血はべっとりと付いたが。
「じゃあ後は皮より内側の身と、外側で分解のスキルを使って剥がすことは出来ませんか?」
俺はそう尋ねると、職員の人はうんと頷いた。
「じゃあお願いします」
「OKー。〈分解〉」
それだけで魚の身だけを綺麗に取り出すことは出来た。
「じゃあ後はこれを丁寧に洗って一口サイズに切れば刺身の完成です」
俺はそう言うと、キッチンのシンクの方を借り、魚をシンクに置き、蛇口をひねった。
蛇口が存在していたのは驚きだったが、海の水を少し利用しているらしいので、ここスパルだけだそうだ。
俺は血が無くなるまで念入りに洗った。不思議とドバドバ血が出ていたが、気持ち悪いといった感情は全くなかった。
カツオの身はほんのりと赤みがさした色になっており、俺の食欲をそそるものとなった。
「じゃあ後はこれを一口サイズに切り分けて……っと」
多少の料理の経験があるおかげで、まな板の上で包丁を使って身から一口サイズ分を切り抜けた。まあ、1時間近くかかったんだけど。
だがここで問題が起きた。
「醤油がない……」
そう。刺身としての重要なあの醤油がここにないということに今更ながらに気づいてしまったのだ。
漁師の俺は海でのんびりお金を稼ぐことにします。 藤堂獅輝 @toudousiki
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