第5話 漁師は海に最強の船を出現させる。

  ということで、俺は早速海へと向かうことにした。

  そしてギルドマスターが言っていたもんにたどり着いた。話は伝わっていたのか、すぐに通してもらった。


  門から出たその目と鼻の先には白い砂浜と青い海が広がっていた。


  「やっと着いた……!」


  俺は背伸びをし、背中から砂浜に倒れ込んだ。

  数日かけての旅は地球の世界ではなかなかすることがなかったからか、精神的にも疲れた気がする。


  「それじゃあ早速気になっていたことを試しますか」


  俺はそう言って袋の中に手を突っ込み、ある物体を取り出す。

  俺が取りだしたという意識をした瞬間、海に全長100メートルは軽く超えてあるであろう圧倒的な巨大戦艦が現れた。

  バッシャーンッ!!みたいに水しぶきが飛ばないのはそれなりの考慮なのだろうか?だが。


  「えぇ…………」


  絶句。

  それ以外に言葉がなかった。

  せいぜい海賊船ぐらいかなーとか軽い気持ちで取りだしたのに中から出てきたのはSF物に出てきそうな宇宙戦艦。圧倒的にオーバースペックなものだった。絶対に漁師が乗る船じゃないと思う。


  「……ていうかこれどうやって乗るんだ?」


  その疑問に答えるかのように、俺の足元から甲板までに薄い板のような階段が何個も並んだ。これを使って上れと船が言っているように感じた。


  無事甲板まで上がりきると、まるでゲームの指標みたいに床に矢印が浮かび上がった。まるで着いてこいとでも言いたげに。


  「流石は勇者の一味って言うところか?」


  この近未来感。絶対異世界などの中世では味わえない世界観だろうな。


 俺は中央管制室らしき場所へと辿り着いた。すると、機械の電源が一斉に入った。


  《所有者の確認を》


  そう言われると、俺の目の前に薄い板が現れる。そこにはいかにものように手の形をしてあった。


 「……これに触れということか?」


  そう察した俺はとりあえず右手を合わせるように置いた。


  《所有者、栖川絢翔確認終了。本人に間違いなし。主電源予備電源ともにクリア。戦艦アルゴノート、起動します》


  すると、モニターにそれぞれの場所での映像が映し出される。空から海の中までアルゴノートの周り全ての様子をモニターで確認できるようになっていた。


  《マスター。命令を》


  そう言われたので俺は言ってしまった。


  「アルゴノート、全速前進っ!」


  《了解致しました》


  そう命令するだけで、船底に取り付けられているエンジンが稼働し、まっすぐ進んだ。

  だいたい時速100キロ程で進んでいく船に俺は倒れそうになりながら、モニターを眺めていると、水平線上にある物体が見えた。


  「アルゴノート、停止っ!」


  《了解致しました》


  そう言うと、アルゴノートは段々と減速して、ある物体の1キロ手前で止まった。

 

  「前方をズームしてくれ」


  俺がそう言うと、1つのカメラが先にあるものを捉えた。

  それは全長がこの船と同じぐらいありそうな巨大なイカ、通称クラーケンだった。


  「マジか……」


  1キロ手前だけど、いきなりクラーケンに遭遇するとかないと思うの。初心者向けな訳ないじゃん?

  ここからなら……何が出来るんだろ?俺この船の性能というのをあんまり理解していないし、現代の船みたいに遠距離攻撃が出来るものをバンバン詰め込んでいるのかすら不明だからな……。

  相手さんも気づいてないし、今のうちにこの船の性能について調べておくか。


_______________________

  名前:アルゴノート


  詳細:魔境の海を渡ることが出来る唯一最強の船。全長170m。


  スキル:〈超速再生〉〈破壊成長〉〈弾数無限〉〈自動操縦〉


  攻撃手段:魚雷発射管12門、対空小型ミサイル24門、重機関銃7門、自動狙撃銃5門等。


  〈超速再生〉:壊れた場所から次々と回復していく。速度は72㎥/sずつ破損箇所が修復していく。


  〈破壊成長〉:この船が破損する度に船のステータス全般が上昇する。


  〈弾数無限〉:取り付けられている銃の弾、ミサイル、魚雷等が無限に存在している。


  〈自動操縦〉:自動で最適な運転をする。

_______________________


  こうだった。

  どうしたらいいのかよく分からなかったから、自分のステータスを見た時と同じ要領でやったら出来た。


  そして内容を見ていく限り、完全にチートな件。

  まだ絶対に壊れないとか書かれていないだけマシだけど、なんでそんなに武器が取り付けられてるの?この船ってどこかと戦争するの?って話だよな。


  「……じゃあ試しに魚雷使ってみるか」


  俺はアルゴノートにあのクラーケンに魚雷を発射させた。

 今回は 試しに1つだけ魚雷を使ってみることにした。

  魚雷は船から解き放たれると、グングンとスピードを上げ、クラーケンへと衝突する。

  すると、


  ダンっ!ダダダダダダダダダダンッ!!


  と、着弾の後の連打の音に1キロ以上離れていても耳が壊れそうになった。

  もちろんと言うべきか、クラーケンは海の藻屑へと変化していた。


  「えぇ……」


  明らかなるオーバーキル。

  魚雷1発でクラーケンを倒せるこの船ヤバい。

  そう思った俺だった。


  「威力強すぎませんかね?」


  逆に考えると、これだけの装備がないとこの海は越えられない敵がいると考えると、誰もここを占領できないのがよく分かる。


  「……今日はお金も稼ぎたいし、ここいらで釣りでもしようかー」


  若干の現実逃避に入り、俺は船のことを一旦諦めて、釣りを開始する。

  ようやく漁師っぽいことが出来る!

  え?船?あれはノーカンでしょ?


  俺は甲板まで戻り、これまた万能袋に入っていた釣竿と餌とタモ網を取り出した。

  竿の性能も多少……いや、大分おかしいが、こんな感じだ。


_______________________

  名前:漁師の釣竿


  詳細:よく釣れる釣竿。竿はもちろん、針と糸切れることは無い逸品。


  スキル:〈不壊物質〉〈誘導魚類〉


  〈不壊物質〉:絶対に壊れないもの。


  〈誘導魚雷〉:釣竿を垂らすだけで魚が寄ってくる。

_______________________


  まあこんな感じだ。

  まず壊れない時点でおかしいと思うが、船と比べるとまだマシなのでここはスルーしておく。

  タモ網は壊れないだけだったけど、これもスルー。


  餌は1年分で、1日10個使うとしたら10×365で3650個もの丸団子っぽい餌が入っていた。

  餌は多いことに越したことはないし、腐らないなら尚更だ。


  「じゃあ始めるか」


  俺は釣竿の針に餌をつけ、海に投げる。

  そのまま5分程、何もしないで様子を見ていると、竿に当たりの反応があった。


  「お、来たか……っ!」


  確かな手応えを感じ、俺は竿を立て、リールを巻き上げようとする。だが、魚も負けじと応戦し、簡単には上がることは無かった。


  続けること10分。

  魚の本体がようやく姿を現した。

  俺は片手に竿を持ち、もう片手で袋の中の網を取りだし、魚が水上に上がってきたところを捉えてタモ網ですくい上げた。


  「やった……やったぞっ!!」


  俺はすくい上げた魚をとりあえず袋の中に入れ、甲板に倒れ込んだ。

  初めて自分で魚を釣ることが出来て、俺は嬉しかった。

  サビキ釣りのような小さな魚では無いのが尚更。


  「そう考えるとなんで俺の職業は漁師なんだろうな……?」


  その疑問は尽きないが、とりあえずは今は喜んでおくとしよう。記念すべき俺の漁師道の1歩目だからな。


 

 

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