第3話 漁師は中間の町で1泊する。
俺は食事を取り、早めに休んだ。
翌朝。
「それじゃあ行ってくる」
やっぱり皆は良い奴で、俺が行く時にも全員で送り出してくれた。
流石に王宮の馬車は目立つということで俺は身分を隠し、民間人も用いる定期便に乗ることにした。
多少の不便もあるが、こっちの方がいいだろう。
「とりあえずは城下町まで降りて、そこからミレイス行きの便に乗るのが最適だろうな」
1人でそうつぶやき、俺は定期便の所まで向かう。
しばらく歩くと、ターミナルっぽい所が見えてきた。
「すいません。ミレイス行きの馬車に乗りたいんですけど、いつ来るか分かりますか?」
俺はターミナル付近にたっている人にそう話しかける。
「ミレイス行きかい?それならあと5分もしないうちに……いや、もう来たようだね」
その途端、大きな声が俺の耳に入ってくる。
「ミレイス行きー、ミレイス行きの馬車が到着ー!乗る人はターミナルに集まってくれ!」
野太い男の声が少し離れているここからでも聞き取れる。
そして馬車が到着し、集まったのは数名だった。
しかし、その数名でも定員に近い人数だと思うと、不便さも感じる面もある。科学が発達していないここで言うことじゃないが。
「ミレイス行き、出発するよ!」
男はそれを言うと、周りに乗る人がいないか確認し、馬に鞭を打ち、馬車を動かせた。
それに合わせてガタガタと馬車も動き始めた。
そこから馬車の旅が始まった。
_______________________
野宿を数回挟み、3日後。ようやく商業都市ミレイスへと到着した。
道中は魔物に襲われるということはなく、比較的穏やかな旅路だった。
「なぁ、アヤトはこれからどうするんだ?」
俺に声をかけてきたのは3日の旅路の中で知り合った冒険者のリヒトだった。
「うーん……スパルに行けるならすぐに行きたいけど、どうだろう?」
「いや、確かスパルの最終便は確か5時だったはずだからもう無理だな。明日まで待たないと」
「だと思った」
現在の時刻は6時半過ぎ。
流石に今から出る馬車は無かったらしい。
「お金には余裕があるんだよな?なら、今日は俺と同じ宿に泊まらないか?いい宿だぞ」
「そうだな。今日は宛もないし、そうさせてもらうよ」
そういうことで俺の今日泊まる場所が見つかった。
しばらくリヒトに付いていくと、羊の皮亭となんとも言えないネーミングセンスの宿屋で泊まった。
「ここだ。何故か評判もいいし、ご飯も美味しいのにお客だけが少ないんだよ。なんでだろうな?」
それはその微妙に生々しい名前だから近寄りたくても近寄りづらいものなんだと思う、と思ったが俺が口を出すのもどうかと思ったので心にそっと秘めておくことにした。
「イルザさーん、いるー?」
そんな軽いノリでリヒトは中に入っていき、俺も一緒に入っていった。
「おや?リヒトじゃないかい!久しぶりだね。王都で頑張ってたのかい?」
「そうだよ。休暇も取れたし、こっちに戻ってしばらくはゆっくりしようかなって」
中にいたのは赤髪の魅惑的な体のお姉さんだった。
「そちらの少年は?」
「ああ、馬車の中で知り合ったアヤトだ。今日はここに泊まるから連れてきた」
「あら。リヒトにしてはなかなか気が利くじゃないかい。私はイルザ。この宿屋で女将をやってる者だ。よろしくな!」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺とイルザさんはお互いに握手をする。
「それでいきなりで悪いんだが、料金の話だ。1泊て銀貨3枚だ」
「分かりました」
俺は漁師の網袋(見た目は普通の袋)の中を漁り、中に入っている金貨の山が入っている袋の中から1枚の金貨を取り出した。
「これでお願いします」
「あいよ」
イルザさんが金貨を受け取ると、銀色の硬貨、銀貨を7枚俺に返す。
「もうすぐご飯が出来るから今のうちに荷物を置いてきな。これはあんたらの部屋の鍵だ。リヒト、案内してやってくれ」
「はーい。それじゃあ行こうぜ」
「おう」
俺とリヒトにそれぞれ鍵を渡され、俺の部屋の近くまで案内してもらうことになった。
階段を2階へ上がり、突き当たりの部屋が俺の部屋だった。
そしてその隣がリヒトの部屋だった。
「そう言えばリヒトは金を払ってなかったよな?」
「ああ、俺は信用されているのか、イルザが後でいいらしいからその言葉に甘えることにしてるんだよ」
「なるほど」
後払いでもOKということを考えると、それだけ信頼されているということだろう。多分。
「それじゃあ荷物を置いたらここに集合名)
「分かった」
そしてお互いそれぞれ自室へと入っていった。
数分後。
「すまん。待ったか?」
「いや、俺も今来たところだから」
何だかデートの最初の常套句みたいになってしまったが、お互い男同士。そんな感情は俺には一切持ち合わせていない。
「それじゃあ行くか」
俺はリヒトについて行き、1階の食堂まで進んだ。
「お、来た来た。もうご飯できてるよー!」
イルザさんが厨房から手を振るのが見えた。
俺たちは近くにあったテーブルに座り、厨房の近くに置かれている料理を取りに行くことにした。
「今日は定食Aセットです。ゆっくり味わいながら食べなよ」
「「はーい」」
俺たち2人は料理の乗っている大きめの皿を持ち、自分の席へと持っていった。
「それじゃあ食べるか」
「そうだな。いただきます」
俺がそうして食べ始めると、リヒトの頭には?が浮かんでいた。
「その挨拶は……」
「これは俺の国の食事前の挨拶だよ」
テンプレ的な質問を全て聞くことなく察した俺はまたテンプレであろう回答をもって返した。
「へぇー、じゃあ食べるか」
特に気にした様子もなく、リヒトは晩ご飯を食べ始める。俺も食べ始めた。
「そう言えばこれからスパルに行くんだっけ?スパルで何するんだ?あそこ海に直結しているからお洒落何てものは一切ないぞ?観光じゃないよな?」
「その海に用があって来たんだ」
「わざわざ何しに行くんだ?」
「それは一応秘密だから、言えない」
今はぐらかしたのは、海に魔物を倒しに行く、とか言ったら変な目で見られるそうだから要件については秘密にしておけ、と王様から言われたからだ。
実際そうだ。国ですら手が出ない海に1人で魔物を倒しに行くとか言うものは、ほら吹きかただの馬鹿だろう。つまり俺も馬鹿ってことになる。
「まあ、深くは追求しねぇよ。人には誰にも見られたくない秘密があるからな」
「ありがとう。それでリヒトはどうするんだ?」
「俺か?俺は今は休暇を貰ってこっちに帰ってきてるだけだからなー。俺の所属しているクランは王都を本拠にしているからあと3日ぐらいここで過ごしたら帰るな」
「じゃあ明日にはお別れだな」
「まあ行先も違うしな。王都に戻ってきたら俺たちのクランに遊びに来いよ。『暁の夜明け』って冒険者クランだから」
「そうだな。その時はお土産持ってそっちに行くよ」
「ああ、楽しみにしてるぜ」
そんな話をしながら俺たちはご飯を食べてると、いつの間にか食べ終わっていた。
「それじゃあ俺はもう寝るけど、どうする?」
「俺も今日は寝るよ。馬車が疲れたから……」
「分かった。ゆっくり休めよ」
明日に備えて今日はゆっくり休ませてもらうことにした。初めて馬車というものに乗って精神的にも肉体的にも疲れた……。
「明日、出る時は教えてくれ。案内ぐらいはするから」
「助かる」
リヒトは振り向きざまにそう言ってくれた。
ちょうどどこに行けば乗れるのか分からなかったところだ。
「それじゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」
そして2人は別れ、別々の部屋に入り、すぐに休むのだった。
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