第2話 漁師は王女と話す。

部屋に戻った俺は何をしようか迷った。なんせ何もすることがないのだ。


「どうしようかな……」


そう考えると、窓から皆が訓練している様子が伺えた。

どうやら体を動かす訓練をしているようだ。

あそこにいるのは戦闘職位の人数しかいなかった。生産職はどうやら別のところで修行のようだ。


「頑張れー」


遠くからそう応援し、俺はベッドに倒れ込んだ。


「眠い……」


アルトリウスさんがこっちに来るのにも時間があろうだろう。

そう思った俺はぐっすり眠ることにした。


_______________________


「………-い。……きてください」

「んっ?」


ぐっすり眠っていた俺の耳に知らない人の声が入ってきた。


「起きてくださいっ!!」


そう言われ、被っていた布団を豪快に地面に放り投げた。


「……君、だれ?」


そこにいたのは、13歳ぐらいのロングの金髪の美少女だった。


「名乗らず失礼しました。私はこの国の第2王女、アリア・フォン・ルーンフェルトと申します」

「これはどうもご丁寧に。俺は栖川絢翔と言います……じゃなくて!王女様がどのようなご要件で?」


第2王女と知らされ、驚きながらも、要件を伺った。ここて変なこと言って極刑とか最悪だからな。


「アルトリウス様から仕事を賜ってきました。お父様……陛下がお待ちですよ」

「もうそんな時間か……」


俺は壁に掛けられた時計を見てそうつぶやく。

この世界の時間軸は地球とそう変わっていなく、差があるとすれば、曜日の読み方が少し違うぐらいだ。


「それじゃあ出向くとしますか」

「それでは私についてきてください」


俺は彼女、アリアの後ろを着いて行った。

そして後ろ姿を眺めながら歩くこと数分。

俺たちが召喚された王の間とは違う重厚な雰囲気を纏った扉だった。


そこでアリアが扉を3回ノックする。


「アリアです。ただいま漁師様を連れて戻りました」

「入れ」


中から王様の声が聞こえた。


「失礼します」

「……失礼します」


俺は少しうつむきながら挨拶をし、中に入った。

中は執務室という感じでデスク1つに会談用のテーブルとソファが設けられていた。

王様はこの前の王族感のある服ではなく、スーツを着た執務スタイルへとチェンジしていた。


「よくぞ参った。早速なのだが、お主にはエルゲー海へ向かってもらいたい。地図はこれだ」


そう言われ地図をデスクへ広げ、王様は俺をそこへ近づける。


「ここが我がルーンフェルト王国の首都、ガッセルだ。そこから南にずっと行った先に商業都市ミレイスがある。ミレイスに着いたらそこから経由して防衛都市スパルへ向かってくれ。スパルに着いたらすぐそこが海になっている」


詳しく地図を使いながらの説明でよく分かった。


「これは道中に必要になるだろう路銀だ。無駄遣いして足りなくなるなんてことはないように」


王様は俺に何かが入っているであろう革袋を渡してくる。俺はその中身を受け取ると、中には沢山の金色の硬貨が入っていた。


「金の知識がないだろうから言っておくが、その金貨は1つで10万だ。身近な物の値段をあげるなら、焼き串1本でだいたい100ぐらいだ。それで分かるか?」

「この袋の中身がとんでもない大金なんだということは分かりました」

「よろしい」


王様がふっと笑う。

俺も王様と同じように笑い返した。


「何か悪いことをしてる気分です……」


アリアが何か言っていた。が、ここで大金が手に入るのは、今後が凄く楽になるな。


「出発はどうする?もうすぐ出るか?」

「いや、皆にも連絡してから行きたいから行くのは明日の朝かな」

「よかろう。では、7時に食堂に集合させよう。遅れずに来るんだぞ?」

「努力はする」


俺はそのまま部屋から出ていこうと思ったが、既で振り返る。


「暇を潰せる場所とかないですか?することがないから暇で暇で……」

「ああ、そうか。そう言えばお主には待機しか命じていなかったな。アリア、良ければお前が案内してあげなさい」

「いいんですか?俺みたいな他人とお姫様を一緒にして」

「アリアも多少の武は心得ている。しかもここは陸地だ。いくら海上最強のお主でも流石に一国を相手にはすることはあるまい。こちらに案内させた時も何もしなかったと聞いている」


しっかり先を見すえての判断なんだったな。

……ていうか。改めて王様から海上最強なんて言われるのは少し照れる……。


「それで、アリアはどうなんだ?」

「いいのですかっ!?」

「ああ。今日はもう予定は無いはずだろう?」

「はい!」


思ったよりもアリアが元気だった。


「じゃあ娘を頼む。もしもの時は首が飛ぶと思えよ」


その言葉を聞くと、背筋がゾクッとなった。

絶対に何かあれば彼女を守ろう。そう思った俺だった。


「それじゃあ行きましょう!」


テンションの高いアリアに連れられ、俺はその場から立ち去るのだった。


_______________________


「それで……何をするの?」


白の中庭らしきところに連れられ、2人はベンチに座っていた。


「もちろんお話てす!」


俺はどうしてそんなに機嫌がいいのか疑問に思い、それを聞いてみた。


「私……昔から勇者様のお傍にいることに憧れてたんです。そして勇者様はこの国にやってきてくれた。……だけど、今は忙しくて話す機会がないんです……」

「あー……皆は訓練に忙しいからね」

「だから、少しでも勇者様の故郷の事を知っておきたくて……」


シュンと落ち込んでいる彼女を見て、俺は励まそうと頑張る。


「じゃあ俺が故郷の事を話してあげるよ」

「本当ですかっ!?ありがとうございます!えへへ」


その笑顔は年相応な可愛い笑顔だった。

……一瞬だけ幸太郎の奴が羨ましたと思ってしまった……。


_______________________



それから数時間後。

俺はアリアに色々な事を話した。

コミュ障な俺でも、彼女からどんどん話しかけてきてくれたので、会話に詰まるなんてことは無かった。


「もうそろそろ時間かもな」


辺りは暗くなっており、待ち合わせの時間が迫っていた。

朝飯しか食べていなかった俺だが、腹が減ってなかったということもあって軽めの軽食を挟んだだけだった。


「……もうそんな時間なんですね」


しょんぼりしているのが見て取れる。

俺はアリアの頭に手を置いた。


「そんなに悲しそうな顔をするな。俺がいなくても他に勇者と同郷の者は沢山いるんだ。皆から話を聞けばいい。それに俺は帰って来るしな」

「……はい」

「それじゃあ食堂に行こうぜ。話すことはなくても、顔を知ってもらえれば、話す機会だって生まれるかもしれないし」


俺はやや強引に彼女を食堂まで連れていった。


「皆、お待たせー」


俺達が食堂にたどり着く頃には、全員が席に座って待っていた。


「あれ?その子だれ?」


クラスメイトからそんな言葉が漏れた。


「この人はこの国の第2王女アリア・フォン・ルーンフェルトさんだ」

「「「「「王女様っ!?」」」」」


全員の驚く顔がみてとれる。

注目されるのに恥ずかしいのか、ややアリアの顔が赤い。


「は、初めまして!先程ご紹介に預かりましたアリア・フォン・ルーンフェルトと申します!よろしくお願いいたします!」


そうアリアが挨拶すると、拍手が上がる。


「そういう訳だ。よろしくしてあげてくれ。そしてみんなには1つ連絡がある」


俺はほんのりな雰囲気から急に真顔に変える。

それを見て、大事な話なんだとクラスメイトの雰囲気も変わる。


「俺は明日から海へと行きたいと思う。だから皆とはしばらく別行動だ」

「ちょっと待ってくれ。確か聞いた話なんだと海には魔物がそこら中にウロウロしているんだよな?」


やはりと言うべきか、幸太郎が止めにかかる。


「ああ。そうだ」

「そんな所に栖川を向かわせるなんてことは出来ない」

「俺は海の上では絶対に死なない。それを分かっているから俺もその事を了承した。それに意外とステータスも強かったし」

「それでも……いや、止まる気はないのか?」

「俺だけ何もしないのは流石に不味いでしょ?だから俺は俺のできる分野を行う。それだけだ」

「……分かった」

「天野くんっ!?」


天野が認めたことに高坂も驚いていた。


「これは止まりそうにしなかっただけだ。一応栖川のことは小学校から一緒だったしな……」


あれ?天野って小中一緒だったっけ?

やべぇ。全然覚えてないわ。俺ボッチだったし。


「俺は絶対に生きて戻る。だからお前らも負けんなよ」


俺の一言でクラス全員の考えも決まった。

そんなこんなで俺の海行きが認められることになった。




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