第3話

少年は、『神様』となり、

少女は、『神様』をやめた。


少年は消えてしまった少女の姿を探し、辺りを見回す。

しかしここには隠れる場所なんてほとんどなかった。

念の為に四方の柱の裏まで見ても、やっぱり少女の姿は無かった。


ひとまずイスに座り直し、少年は少女を待った。

何も言わずに姿を消した理由は分からなかったが、またどこかの街に向かったのかもしれない。少年はそう結論付けた。


けれどいつまで待っても、少女が現れる気配はなかった。


少女を待つ間、少年は色々な事を考えた。

ふと、さっき助けた生徒の事を思い出した。


「・・・あれから、どうなったんだろう」


知りたい。

そう思った次の瞬間、少年の頭の中に映像が流れ込んできた。

それはたった今思い浮かべていた生徒だった。

知らない教室。高校生くらいの同じ制服の生徒たちがひしめき、思い思い過ごしている。

そんな中、先程の生徒はひとり机で俯き、頭を抱えて静かに震えていた。


どうしたんだろう。


すると今度は頭の中に知らない声が響いた。


なんださっきのはっ、消えた⁇ どこに⁉ 僕もあいつらみたいに、消える、のか???


それが生徒の声だというのはすぐに理解した。

それとともに、理解不明の現象に酷く困惑し、怯えている感情も伝わってきた。


せっかく助けたのに、やっぱりあのやり方はあまりよくなかったんだ。


次はどうしようかと、意識が生徒から外れた途端に声は聞こえなくなった。

少年は次第に力の使い方に慣れていった。

困っている人がいないかと考えれば、声や映像が浮かぶ。

欲しいものがあれば、思い浮かべるだけで現れる。

願うだけで、なんでもできた。


いつしか少年は、少女のことも忘れて世界中を見周り始めた。


・・・


痛い。辛い。怖い。嘆く声が聞こえた。

少年は一つ一つ、大事に原因を解消していった。

喜び、笑い、感謝し、祈る声が聞こえるようになった。


少年は、胸にあたたかな感情が灯るのを感じた。


・・・


・・・・・・


人々の願い応えていくうちに、少年もどんどん力を扱うのがうまくなっていった。


もっとたくさんの声が聞こえるようになった。

その全てを叶えてみせた。


頭の中は絶えず誰かの声で埋め尽くされるようになった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


力の扱いも、解決の方法も、さらに上達した。


食事も睡眠も必要とせず、自分の苦痛さえ消してみせた。

声が聞こえればすぐにその原因を排除するやり方に変えた。


少年は気付かなかった。


幸せが深まるほど、欲望も膨れていたことを。

叶う感謝が増えるほど、叶わない怨嗟も増えていった。


そしてその声の対象は、いつしか『神様』に向けられたものばかりとなっていた。


・・・


・・・・・・


・・・


頭の中に、声が響く。


なんで俺がこんな目に、どうしてあいつばかり、お前のせいで。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


心の優しい少年がいました。


しかし優しすぎた少年はついに、



自分の『感情』を消してしまうことにしました。

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