6.I have control!
「コンピューターウイルスヲ、ケンチシマシタ。」
アルファが放ったその言葉聞いて、ブリッジの中にいた者は声を失ってしまった。
どこで感染したのだろうか?可能性が高いのは、港で点検を受けたとき...?いや、誰かが通信ドローンに細工をしたとも考えられる。でも誰が...?何のために...?
ヨウコは船をなんとか安定させようと奮闘していた。少しでも油断をすれば、たちまち船は激しく回転しながら、明後日の方向に飛んでいってしまうだろう。
船体から伝わる細かな振動がじわじわと体力を奪っていく。視界が霞む。汗がディスプレイに垂れて数値をうまく読み取れない。
船長はすぐに自分が操縦を替わらなければならないことに気づいた。しかし、この状況で、それはとても困難なことだった。失敗は許されない。船長はそーっと操縦桿を握る。
「I have control!」
ヨウコが操縦桿から手を放す。船は少し揺れたが無事だった。ヨウコはその場に倒れ込んでしまった。
すぐにジョンが介抱する。
照明が落ち、真っ暗になった船内で、レナは懐中電灯を片手に船体の損傷状況を調べてあと、制御不能になった姿勢制御用のエンジンのうちいくつかを強制的に停止させた。これにより、操縦は格段にしやすくなった。
船長は1時間程、操縦を続けたが、限界が近づいてきたので、回復したヨウコが再び担当する。
「I have control.」
「You have control.」
一時よりマシになったとはいえ、操縦の交代は慎重にする必要があることに変わりはなかった。
サムはウイルスをなんとかして排除しようと考えた。幸いアルファは感染していない。ありったけの方法を試した結果、感染したコンピューター初期化してシステムを再起動することができた。異常が発生してからおよそ3時間後のことだった。
船内は静まり返った。警報の音も船が軋む音も全て聞こえなくなり、耳をすますと、発電設備とエンジンの音だけがかすかに聞こえる。
サムはこれ以上、自力で航行するのは危険だと考えた。船長にワープ空間から出て、船を完全に停止させ、救助船に助けてもらうべきだと言った。
船長は一瞬だけ悩んだ後、この提案をを受け入れた。
船首からがドローン2つばかり発射され、レーザーで加速させられる。管制基地に救難信号を届けるためである。
ワープ空間から出て、船を停止させ、そこで再びドローンを発射して位置を知らせる。あとはそのまま救助船が来るのを待てば良い。
アルシア3号は180度回転し、メインエンジンを前に向ける。これで、ワープ空間から安全に出ることができるスピードまで減速することができる。
姿勢制御用のエンジンのうちいくつかが使用できないので、うまくできるか心配したが、杞憂だった。
まず、イオンエンジンをフルパワーで稼働させる。このエンジンはキセノンのイオンを帯電させて噴射することで推力を作り出す。効率がとても良く、推進剤のキセノンをそれほどたくさん消費しない。また、作動に必要な電気も船内の核融合炉で効率良く作ることができるので、好んで使われる。
続けて、レーザー核融合エンジンを120秒間作動させる。このエンジンは燃料である重水素にレーザーを当てて、核融合反応を起こさせ、それによって起こる爆発を推進力に変える。爆発は毎秒200回にも及ぶ。パワーはあるが、効率が悪く、安全も考慮して、普段は素早く加減速を行うときにだけ使われる。長時間連続して使用すると故障するので、一度に10分以上使用することは控えている。
(因みに、レーザー核融合ロケットは磁場閉込め核融合ロケットとは違う技術である。)
衝撃と爆発音に耐えた後、十分に減速できたか確認する。ワープ空間から安全に離れることができるスピードまで下がったので、アルシア3号は後ろ向きのままワープ空間を離れる。
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