外1.宇宙のオアシス号 前編

 宇宙のオアシス号は少し前に就航したばかりのフェーン船籍の宇宙客船で、惑星フェーンで業界最大手のウェルン社のフラッグシップを担っている。


 外観は見るものを虜にする優雅なデザインで、内部も豪華絢爛に作られている。


 磁場閉込め式核融合エンジンと新型イオンエンジンを搭載していて、滑らか且つ、力強く加減速ができるようになっている。もちろん、船体も軽く丈夫にできていて、急な加減速でも安全性が確保されているだけではなく、軽快な動きを可能としている。


 それらのおかげで実現した高速性能は、ワープができる速度まで素早く加速して、目的地までの所要時間を短縮ことができるほか、ワープを使わない星系内でのクルーズでも活躍する。


 高度な人工知能を搭載していて、船内の様々な設備が自動化されている。


 そして、自動化できない仕事を担当する乗員は、全員、厳しい試験に合格したエリートで揃えられている。


 今、宇宙のオアシス号は、ドートに向かうチャーター船として、フェーンの宇宙港へ出発しようとしている。


 乗客は、政府関係者や要人、その家族、そして、ドートに研修に向かう芸術やスポーツなどの面で素晴らしい活躍をしている青少年達である。


 宇宙のオアシス号の隣には護衛の船が5隻も付く予定である。


 なぜこんな厳戒態勢になっているかというと、最近、グリの武装勢力が何かを企んでいるという情報が入ったからである。






 グリの武装勢力の歴史はプラとへサの間に起こった戦争から始まる。惑星プラは元々あった沢山の国が協力して作った、統一政府が星全体を管理している、自由を重んじる星だった。一方、隣の星系の惑星へサは強い権力を持つ王が星を治めていて、住民も王を支持していた。


 どちらの星も長らく平和だったが、お互いに相手のことはあまりよく思っていないらしく、積極的な交流は少なかった。


 さらに悪いことに、どちらの星にも過激派がいて、デモを行ったり、自分の星の良さを宣伝していた。


 ある時、フェーンの宇宙港で過激派同士が殴り合いの大喧嘩になって、死傷者が出た。


 それが遠因となり、溜まっていた不満が爆発、戦争が始まった。結果、プラは統一政府が崩壊し、幾つもの小国が誕生して、小競り合いが頻発する様になり、へサでは王が失脚し、武装勢力が幅を利かせるようになったので、どちらも戦争ができる状態ではなくなり、戦争は終わった。


 現在は2つの星とも新しい統一政府が作られて、復興も進んでいるが、へサの武装勢力の残党たちが宇宙に逃げ出し、他の星を占領して、拠点を作り、へサの奪還を試みようとしているのが現状だ。


 グリの武装勢力はそのうちの一つで、平和の王国と名乗っている。勿論、国家としては承認されていないが、グリの住民を洗脳し、無理やり協力させることで勢力を拡大しているという。


 へサ人はグリ人と似ているというから洗脳もしやすいのだろう。


 因みに、へサ人と地球人はあまり似ていないが、グリ人は割と地球人と似ていると言われている。


 フェーンはプラとヘサの復興を支援したため、武装勢力から、目をつけられたようである。





 

 宇宙のオアシス号は出港の準備が整い、ドアが閉じられようとしていた。


 しかし、宇宙港側から、


 「あと1個荷物が残っていた。もう少し待ってくれ。」


 と告げられる。仕方ないので、出港を先送りにする。



 船内では、研修に向かう青年たちが雑談に花を咲かせていた。


 また、大人たちの中にはいつまで経っても出港しないことに苛立っていた者もいたが、顔には出さなかった。




 ボディガードが教授に囁く。


 「教授、もうすぐ最後の乗客が乗船するころでしょう。」




 宇宙港では職員が大きな箱を宇宙のオアシス号に運び込もうとしていた。 


 大きすぎるのと、衝撃を加えてはいけないということで、機械ではなく人が運び込むことになったのだ。


 中身は楽器だというが、やけに重く、運ぶのに苦労した。




 結局、宇宙のオアシス号は30分遅れで出港した。

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