5.ウイルス

 様子を見ているうちに、また自動操縦が解除された。  


 1度目では、すぐに復帰することができたが今回はなかなかうまくいかない。それどころか船は細かく振動し始め、やがて大きく揺れ出した。船首も変な方向を向いている。着席していなかったら、壁に叩きつけられていて怪我していただろう。無理な力がかかり、あちこちの部品が悲鳴をあげる。


 操縦士のヨウコは操縦桿を強く握る。船は2、3回程大きく揺れたが、やがて細かい振動だけになった。


 船長はモニターと計器を見て状況を把握する。事態は思ったより深刻だった。姿勢を制御するエンジンのうち、いくつかが制御を失っていて、なかにはフルパワーで稼働しているものもあった。


 原因はなんだろう。


 「コンピューターウイルスヲ、ケンチシマシタ。」


 これはすぐにわかってしまった。







 コンピューターウイルスの歴史は長い。


 そして、現代においても、コンピューターウイルスは厄介なものである。


 様々な対策がなされているのは事実だが、コンピューターウイルスの方も進化を続けており、鼬ごっこである。


 現代では猫も杓子もコンピューターを使うので、毎日のように被害が発生している。






 では、コンピューターウイルスは船にどのような影響を及ぼすのだろうか?



 例えば、アルシア3号には4機の小型核融合炉と1機の超小型核融合炉が搭載されているが、それらを全て制御不能にされたら、助かる見込みはないだろう。とはいえ、これをを行うのは至難の技である。


 アルシア3号にも、相応の対策がされており、コンピューターウイルスによりメインエンジンや核融合炉をはじめとする機関が制御不能になる事態はほとんど心配しなくても良いようになっている。


 しかし、現実は甘くない。照明をコントロールされただけで、船の電気系統を破壊することも可能なのだ。


 アルシア3号には数えきれない程の照明があるが、全部を点けると相当な電力を消費することは容易に想像できるだろう。


 では、これらの照明が一斉に点いたり消えたりを繰り返したら。電気系統にどれだけの負荷が掛かるだろう。



 そして、照明を乗っ取られただけで、電気系統を破壊された船にはどんな運命が待ち受けているのか考えて欲しい。



 そう、コンピューターウイルスは宇宙船の乗員にとっては文字通り悪夢なのだ。





 今、アルシア3号は姿勢制御用のエンジンを乗っ取られている。幸い、いくらか手動操縦が効く状態だが.......

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