第28話:青島さんじゃないのかな?
──青島さんの態度に、何か変化があるだろうか?
一匠はそんなことを思いながら今日一日を過ごしたが、特に理緒にはそんな感じは見られないまま、放課後を迎えた。
(うーん……やっぱりRAさんは、青島さんじゃないのかな?)
それとも『仲良くなれたか自信がない』なんて言っていたから、きっと遠慮しているんだろうな。
あ、いや、もしかして……帰るときに急に、「白井くん、一緒に帰りましょうか」なんて言って来るのでは?
などと、一匠の妄想が止まらない。
一匠の頭の中では、完全にRAさんは理緒ということになっている。
しかし──
「じゃあ白井くん、さようなら」
終礼が終わると、理緒は親しげにニコリと笑ってそう言った。一匠の期待通りではなかった。
「あ、さよなら青島さん……」
一匠は力なく答える。
しかし焦る必要はない。また明日には何か進展があるかもしれない。青島さんのあの親しげな笑顔だけで、今日は満足しておこう。
そう考えて一匠も帰ろうとした。すると後ろから瑠衣華が小声で話しかけてくる声が聞こえた。
「あの……白井君。昨日カラオケで私が部屋にお邪魔したの、迷惑だった?」
いつもの瑠衣華とはちょっと違って、憎まれ口を叩くような雰囲気じゃない。少しオドオドしたような、そんな感じだった。
「えっ……いや別に……迷惑じゃないよ」
「ふぅーん……逆に嬉しかった……とか?」
「はぁっ? なんで?」
瑠衣華が予想外のことをいきなり言ったきた。だからつい一匠は速攻で怪訝な声を出してしまった。
「べべべ別にっ! なんでもないっ! やっぱ白井君は、青島さんみたいな可愛い子といた方が嬉しいんだよね?」
「なんのことだよ?」
「だからなんでもないって。じゃあね、バイバイ!!」
瑠衣華は何かまずいことを言ってしまったように、焦って真っ赤になりながら、スタタタと走って帰って行く。
──変なヤツ……
と思いながら、一匠も教室を後にした。
その日の夜──
今日は特にこれという出来事もなかったからRAさんからのメッセージは届いていないだろうな、となんの期待もしないまま相談サイトの画面を何気に開く。
しかしそこに書かれたRAさんからのメッセージに、視線が吸いつけられた。
『えんじぇるさん、私どうしたらいいのでしょう? この前のカラオケで一緒になった件は、迷惑じゃないと彼は言ってくれたのですが…… それが本心なのか、悩んでいます』
そう言えば今日、青島さんにそんなことを聞かれたな。ちゃんと『迷惑なんてとんでもない。楽しかったよ』と答えたのに──
と、一匠は思い返した。
「青島さんって心配性なんだな。もちろん本心だよ」
思わずそんな独り言を口にしながら、返信を打ち込む。
『あんまり心配しなくていいんじゃないかな? 彼の言葉を信じましょう』
これで理緒は、少しは安心してくれるだろうか。
そうだ。明日は自分から理緒に、親しげに声をかけてみよう。とても勇気がいることだけど、相談者が理緒だとわかった今なら、きっとそれもできるに違いない。
一匠は心にそう決めた。
『そうですね………でも私、ついついいらないことを言っちゃうんですよ』
(要らないこと? なんだろ? 別に青島さんは、そんな変なことは言ってなかったと思うけど。気にし過ぎだよ青島さんは)
一匠は軽く考えて、何気なく返信を書いた。
『いらないことって?』
『ちょっと恥ずかしい話なのですが……』
(恥ずかしい話? そんなのあったっけ? 青島さん、ちょっと言いにくそうだな……)
相談者が理緒だと確定しているわけでもないのに、一匠の中では完全にそれは理緒だと思い込んでいる。
だからこそ余計に、次に画面に現れた文字を見て、一匠は脳天を雷に打たれたような衝撃を受けた。
その文章は──
『私がカラオケで彼の部屋に行ったことを、嬉しかった?とか調子に乗って聞いちゃったんです』
(えぇぇぇっ!? こ、これは……赤坂さんだ!)
一匠は呆然として画面を眺める。
頭がボーっとして、何も考えられない。
そんな一匠の目の前で、さらにRAさんからのメッセージが現れる。
『彼は怪訝な顔をしてました。それってやっぱり、ホントは私を迷惑に思ってるんですよね?』
──間違いない。
相談者のRAさんは、100%赤坂さんだ!
その事実だけが一匠の頭の中をぐるぐると回り、止まらなかった。
そう。
今まで【どこの誰だかわからない女の子の恋が上手くいくための相談相手】だったはずの一匠は。
この瞬間──
【俺を振った元カノが、俺との恋が上手くいくための相談相手がなぜだか俺】
という、ものすごくワケのわからないポジションに立っていることに気づいた。
== 第一部 完 ==
******************************
【読者の皆様へ】
ここで第一部完です。
次話より新展開の第二部になります。
第二部は、ちょっとコメディ色が強くなる予定です。
(次話の投稿まで数日間、お休みをいただきます。申し訳ありません)
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