第21話:赤坂さん? こんなにくっついて大丈夫?

「あの……赤坂さん? こんなにくっついて大丈夫? 他のクラスメイトもいるのに」


 一匠が心配して、瑠衣華に小声で尋ねた。


「あっ……」


 瑠衣華は横で立っている田中をチラッと見た。田中は一匠と瑠衣華を見ている。


 瑠衣華はハッと焦った顔になった。そしてまたずりずりとお尻をずらして、一匠とちょっと距離を取る。


(やっぱり他の人には、俺との関係を知られるのは嫌なのかな……?)


 そうは思ったものの、田中がきょとん不思議なものを見るような表情で自分たちを見ているから、一匠にとってもその方が都合が良かった。


 鈴木も一匠と瑠衣華が気になってるようで、そちらをチラチラとみていた。しかしマシンガンのように喋る高木さんの前から逃げられないでいる。


 ふと気づくと、田中は少し離れたところに腰を下ろしていた。田中はこの状況にどうしていいかわからず、取りあえず遠慮してぽつんと座ったようだ。


「あっ、ごめん田中。こっちに寄れよ……」


 一匠が田中に気を使ったところで、またルームのドアが開いた。見覚えのある顔は、クラスの女子2人だ。


「瑠衣華ぁ~ たかっちー もう時間だから帰るよ~ 早くおいでよー」


 瑠衣華は4人で来てると言っていた。残りの2人が彼女達のようだ。


「はーい。ごめんねー。盛り上がっちゃった~」


 高木さんが立ち上がって、鈴木に「じゃあまたね」と手を振っている。鈴木も遠慮がちではあるけど、ニヤニヤしながら手を振り返す。


 この短い時間の内に、彼らはすっかり仲良くなったようだ。


 高木さんと瑠衣華が出て行ったあと、ルーム内はシーンとした。その静寂を、田中の突然の声が破る。


「おいおいおい。鈴木ぃ~ なんだあれは? お前、高木さんと仲良しだったのかぁ?」

「いや違いますよ田中君。あんなに喋ったのは今日が初めてです」

「あ、だからさっき、スマホで連絡先を交換してたのかぁ」

「あ……ああ、はい」

「あれは絶対、鈴木のことを好きなんだよぉ」

「そ、そうですかね?」


 鈴木はまんざらでもない表情で、頭を掻いて照れている。


 一匠は瑠衣華から聞いたから、高木さんが鈴木を気に入っているのは間違いない。だけどさすがに聞いたと言うわけにはいかないから、すこしぼやかしながらも肯定する。


「そうだよ鈴木。俺が客観的に見てても間違いないと思う」

「やっぱり、そっか……」


 たまたまここで会ったチャンスを逃すまいと、高木さんが猛烈アプローチに出たということだろう。


(それにしても、高木さんって積極的だなぁ。早速連絡先まで交換したんだ。相談者のRAさんが消極的で悩んで悩んでるのと大違いだ)


「いいなぁ鈴木ぃ~ いいなぁ鈴木ぃ~」


 田中は急に上半身をくねくねしながら、めちゃくちゃ羨ましそうな声を出した。


「あ、いや……僕は可憐ちゃんファンだから……」

「何を言ってるんだ鈴木ぃ! 付き合える可能性ゼロの赤坂さんよりも、高木さんと付き合える方がいいだろぉ!」

「そ、それは……そうです……よね」

「そうだよぉ! 手の届かないアイドルや二次元女子よりも、手の届く庶民的な女の子の方がいいに決まってる! だからがんばれ鈴木!!」

「う、うん。そうだね……」


 手の届く庶民的な女の子って──


 田中の発言は高木さんが聞いたら、喜ぶのか悲しむのかわからないが、まあ普通の男子ならみんなが思う発想だ。


 しかしまあ、鈴木と高木のカップルが近いうちに成立しそうな感じは大いにある。まあ良かったと言えるだろう。


「ところで白井ぃ。お前赤坂さんとは顔見知り程度だって言ってたくせに、さっきはなんだかやけに仲良さげだったぞぉ。俺たちを騙したのかぁ?」

「あ、そうですよ。僕も気になってたんです」

「いやいや、騙してなんかないって! 急に来てごめんねって赤坂さんが言ってきただけで、ホントにそれだけだって!」


 田中と鈴木が無言のままジトっとした目で一匠を睨んでいる。二人ともちょっと怒っているようだ。


(ああ、赤坂さんと関りが深いような素振りは、やっぱりクラスメイトの前では見せるべきじゃないな。嫉妬される……)


 一匠は背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。



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